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五章 そしてまったりと

肉……じゃなかった

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眉を下げたアルさんの腕の中、ピクリとも動かない赤黒い塊。


それが血である事は明らかでアルさんの手や服に赤いシミを作る、真っ赤に染まり、それが何か判別出来ない塊に近づいていく。

そして血でどす黒くなった塊の、更に黒い部分に手で触れた。


濡れていて、まだ暖かい………。


でも。

「……………どうだ?」

頭の上からアルさんの心配を含んだ声が聞こえて来る。


「どうだって、この子もう………手遅れだよ」

真っ赤に染まってるせいで気づかないがよく見ればちょこんと頭の両上についた小さな耳、前に突き出た平坦な鼻は豚のそれ。


ぼろ布としか言えない服を着て、手は人間の子供のように五本に別れている、そして今は湿っている身体中に生えている毛はもっとごわごわとしている筈。



大きさから見てこの子は恐らくオークの子供、その死体だ。

その子の胸から腰にかけて巨大な一つの爪痕が痛々しい何にやられたかまでは分からないけどこれが致命傷となったのは間違いない。


「この糞猫のすぐそばにおちてたんだがよぉ、これを捕まえようとしても側から離れたがらねえし人の顔に炎当ててきやがる、かといって放っておいたら血の臭いで他の奴等集まってくるだろ? でもこいつこんなんだし………何とかならねえか? 」

雑な言葉とは逆に顔が情けない事になっているアルさん……強面が台無しだ。

それに呼応するように猫が掠れた声で鳴く。



この人いつもは強引で自信満々なオーラを放ってるのに時折こうやって脆くなる、案外このギャップは可愛いと思う。



「………とりあえずアルさん、座って」

「おう」

助けるにしろ助けないにしろ、僕とこの人の身長差からしたら背伸びしてもかなりキツい体制になる。


素直に従ったアルさんはその場にどかりと座り込んだ、僕も膝をつくが、ここでアルさんにぶら下げられていた猫がアルさんの腕に噛みついた。


「いてっ、動くんじゃねえ!」

片手しかあいてないアルさんが何とか抑えようと首を掴んだけど、僕はアルさんにストップをかける。


「離してあげりゃあいいでしょ、大人の猫に首掴むの割とつらいらしいんだから」

「……そうなのか? ならいいか、逃げるんじゃねえぞ」

乱暴に言ったアルさんだが、猫をぽいっと放り投げるような事はせずに地面にそっとおろす。


ガサツで横暴で暴君の鏡みたいだけど、こういうときには優しいよねえ~。


「シャアー!! 」

おろされた猫はアルさんに向かって毛を逆立てて威嚇すると警戒した足取りでオークの子に近づき、なおんと一鳴きした。。


その様子にアルさんは悲しそう見ると僕の方を見る。


いや僕に頼られてもねぇ………。


「何とかならねえのか? ほれ、リザレクトポーションとかで………どうだ?」

うーん、どうだって言われてもねぇ。



ちょっとまってその情報どっから聞いたの、アイデンさん?


「リザレクトポーションは死後五分以内に使わないと意味が無いからねえ………今使っても無駄かな」

多分草むら揺れてる時はまだ息があったと思うんだけど二人でじりじりとやってたせいで手遅れになっちゃった、のかな?


「………他ぁなんかねえか?」

「ほか……ねぇ」

「俺らの知らねえような奇抜な事知ってるラグなら生き返らせる事………できるだろ? 」

そんな奇抜だなんてそんな……しばき倒すよ?


……真面目に考えてもなぁ。


「あんま得策ではないかなあ」  

僕が知っている限りだとろくな方法が思い付かない……。



ゾンビにしたりロボットにしたりミュータントスライム、それこそ流体生物に変貌とやめといた良いよねって心から思えるものばかり……。

かといってこのままだとアルさんうじうじしてるし猫さんあれだし。


うーん………。

「禁忌とか命と引き換え的な奴はしなくても良いしさせねえ」

僕が悩んでる様子にアルさんは肩を落として半ば諦めモードに入っている……。


あらぁ……。


ゾンビは論外だしロボット、ロボットもアリムさんみたいな甲冑の形にしか出来ないから駄目だけど………ぇ~、ならどうしようか。



「うーん………ちょっと考えさせて頂戴」

これ下手なやり方やるとただの地獄になるぞ。


「いや………もういいぞ、俺のわがままだしどうしようもねえだろ」

「アルさんは少し静かにしてて」

「おう、わりい……」

アルさんを黙らせて、考えるために目を閉じた。


えーと、えーと、考えろぉ、僕、考えるんだ……。


ほら、生産しか取り柄無いんだからたまにはアルさんになんかしてあげたいじゃない


でも、この世界の技術で蘇生なんて………蘇生、蘇生………。

といってもこの傷痕だと蘇生以前に怪我治して体清潔にしてからじゃないと不具合が起きて生き返らせてもバグが起きるかも知れないし、んんー、中学生の生物学の限界!!



「あっ、思い付いたかも」

「ほんとかっ?」


あっちの世界じゃあまり発達してないけどこっちならどうだろうか。


「ねぇアルさん」

「おう」

「サイボーグとかって知ってる?、身体に色々と変な器具組み込んじゃってる奴」

半分ロボットみたいなものだけど原型とちょんと意識残ってればいいよね。


フランケンショタイン? シュタイン?、どっちだっけ?あれもしかしたらできるかも。


「マキナの事か?」

「まきな? 」

なにそれ。


「昔異世界人が作った魔物でな、牛型の魔物の角が槍になっていたり、オーガの片方の腕が金属でできてたりいびつさが目立つ気持ち悪いもんだぞ」

ゾンビゲームのボスクリーチャーみたいなものかな?


「…………なんかよく分からんけど実在【する】んだね? 」

それさえわかりゃあ良いのよ。


「ん?、ああ、………ておいまさかお前それやる気じゃねえだろうな? 」

「そうだけど? 」

だってそれしかできる方法思い付かないし。

一応完璧に生き返らせる方法もあるけど流石に素材が足りない、だから今回は却下。


「いやだけどよ……こいつをあんな気持ちの悪い物にしたくはねえんだが俺は………」 

「気持ち悪いってアルさんどんなの想像してんの」

「目がいくつも増えたり腕が虫見てえになったりするんだろ? 嫌だゼ俺は」

何処のマッドサイエンティストだよ。



「そんな事しないってば、ほれアルさんその子地面に置いてっ」

僕の特殊技能さえあれば多分できる。


「………今すんのか? 」

「今しないでいつすんの」

死後硬直しちゃったらもう取り返しつかないよ?、

ほれ、早くおろして。


「お、おう………」

渋るアルさんを急かしておろさせると子供を抱いていたせいでアルさんのシャツに血がべっとりと染み付いている。


仕方ないとはいえこれやだなぁ。

「……アルさんちょっと失礼」

そう言って僕は血が特についているアルさんの胸辺りに手をつける。

そして、影から一枚の小さな布を出した。

「ん? 」

「【解析】…………オッケ、対象は服と血液、【分離】」



特殊技能【創生の申し子】は実在する、もしくはした物を造りだし、生まれている物に干渉する能力。


その能力はあまり把握してないから微妙だけど。


今僕がやったのは【解析】と【分離】 このスキルは創生の申し子の基本能力の一つ、あと一つ【融合】があるのだけど、大前提として、対象に触れて【解析】をしなければ対象に干渉することはできず他の技が使えないと言うめんどくさい仕様になっている。



今使った分離は対象の二種類以上物質が混ざっている場合にのみ使える指定した物質を元の道具から分離させるシンプルな技だ。



アルさんの茶色いタンクトップに染み込んだ子供の血液がじわじわともう一つの布へと集まり出している。

液体だとこうなるのけど、これが個体気体になると現物の隣に離された物が現れる仕様になっている。

とても便利な能力だ。


ただ、これには少し問題点が。



正確な手順を踏まなければ発動しないのもそうだが、ゲームの時には説明書のおまけくらいにしかなかった仕様が今僕自身に厄介な事態を起こしている。




その仕様の影響で強ばらせた僕の顔や手から脂汗を出している様子に目を丸くしていたアルさんの目が険しくなる。


「………おい」

「大丈夫だよ」 

えぇ、これくらい大丈夫大丈夫。


そのまま分離をしようすれば無言でアルさんは僕の手首を掴み離されてしまった。


「なに」

邪魔をせんでくれ、集中できんだろうが、という念を飛ばすと、それ以上に恐ろしい顔と圧で鎮圧される。




「邪魔したのは悪かったし嬉しいんだが………痛がってたろ」

「え?、別にそこまで」

「そこまで、てことは痛いって事だよな………? 」「いやこれは~、あのー」

何で気づいちゃうかな……。


「ことだよなぁ……? 」

「………うん」

アルさんの気迫に押され頷けばアルさんはため息をついた。


「今の力使うの禁止」

「え、やだ」

「き・ん・し!! いいな?」 


「………今の力僕が魔王である証みたいな物だし……」

「そんなら魔王なんてやめちまえ」

「無理」

創生の申し子は他の魔王やどんなに高位で特別な存在でも持てないだろう物理に干渉する力、破壊と創造二つを同時に単独で行える唯一無二の能力だ。


今のところ僕だけ…… 多分。

あれから事情が変わってるだろうし今知っている魔王多分三人しかいないし。



その創生の申し子だけど、解析まではいい、でも分離か融合を使うと物理を無理矢理動かすらしくてその反動で針にちくちく刺されるみたいに触れた箇所が痛いけど…………。


あれ? プラマイ的にこれどっちだ………。


「それに今の能力使わないとこの子助けられない?」 

そう言いながらちょっと放置してしまった死体のほうをみると恨めしげな目でオークによりそっているねこちゃんが………。


「………なにする気だ? 」

「この子の体についた傷はポーションで事足りるけど、治したところでこの子死んじゃってるから、【創生の申し子】で、仮初めの命を造ろうかな」 


「………はぁ?」

アルさんが心底分からないというような顔と声で僕を見るけど、アルさんの服の血はどうにかなったし。Jr.の方を見て気合を入れる。




さて、頑張りますか。




あ、でもサイボーグの作り方わかんない。



だめじゃん。



作れる、可能、可能だった、作る工程をまるっと無視して作れるけど………なんとかなるよね。









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