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第7章

第216話

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 獣王様が帰ってきてからは、シュリ第二王女が帰還した時に生まれた、活気の種火が燃え盛り、それが王城全体に溢れ出し、様々な事が一気に進み始める。王妃様方や、幼い王子や王女たちは、獣王様の反乱鎮圧の宣言に伴い、避難していた部屋を出て、王族専用のプライベートな区画にある、各々の部屋に戻っている。
 俺は現在、シュリ第二王女とエルバさん、城門から付いてきてくれた衛兵たちと共に、戦後処理と、人々の心の不安を取り除くために、王都内を巡っている。獣王様によると、共に王都内を駆け巡っていたアトル王子たちも、現在は、各地にばらけて人々と交流し、不安を取り除いているそうだ。
 シュリ第二王女は、王都の人々に積極的に話しかけて、足りない物資などについて遠慮のない意見を求め、付いてきてくれた衛兵たちが、その人々の意見を聞き逃さず、スラスラと、手に持つ羊皮紙に書き留めていく。その中でも、優先的に行うべきと、シュリ第二王女が指示を出したものに、衛兵たちが、羊皮紙に書き留めた内容の一部に丸を付けたり、下に線を引いたりなど、強調表示をしている。

「この辺りを一通り巡りましたが、お父様の反乱鎮圧の一報によって、不安はある程度払拭されてはいる様ですね。しかし、それだけではまだ不足ですね。各教会と連携して炊き出しなどを行い、美味しい食事や美味しいお酒で、人々の結束を高めつつ、身体と心、どちらも癒さなければなりませんね」(シュリ)

 シュリ第二王女は、やるべき事を定めると、迅速に動き出す。付いてきていた衛兵たちを、王城にて陣頭指揮じんとうしきをとる、獣王様の元に向けて走らせる。この場に残った俺たちは、炊き出しについて提案するために、手近にある各教会に向かい、歩み始める。
 シュターデル獣王国も、ウルカーシュ帝国と同様に、教会に孤児院が併設されている。この孤児院にいる子供たちの大半は、この国を守るために命を捧げた戦士たちの、大切な息子さんや娘さんたちだという。
 本来ならば、残された母親や父親と共に暮らしたり、祖父母などの、身寄りのある者に引き取られたりするが、どこの家族も、そうであるとは限らない。母子家庭や父子家庭など、片親の家庭であったり、母方と父方、双方の祖父母などが早くに亡くなっており、親戚筋などが遠くに住んでいる場合などは、残された子供たちは近くの教会に引き取られ、孤児院の中で大人になるまで育てられるそうだ。

「孤児院では、残された彼らの人生が、より良いものになる様にと、読み書き計算などの、生きていくのに困らない教育をしています」(シュリ)
「さらに、子供たちの意思を尊重して、なりたい職業を見つけた子には、その職業になれるようにと、最大限の協力をします。教会に所属している者の中には、色々な伝手を持つ者も多くいます。その伝手を使って、その職業に就いていた、引退して余生を送っている者などにお願いして、教師として子供たちに教育してくれます」(エルバ)
「教師となってくれた方々などに、お給料などは?」
「勿論、教会側からお願いしているわけですから、お給料も払っているはずですよ。時々、国の方からも教師をお願いする事もありますしね。国からお願いする際にも、しっかりとお給料を払わせていただいています」(シュリ)
「それに、各教会には、一般の寄進きしんとは別に、国の方から少なくない金額の資金や、喰うに困る事のない食料など、寄進しております。教師となってくれる方々に支払われる給料は、国からの資金で賄われていると思われます」(エルバ)
「なる程。色々と教えてくださり、ありがとうございます」

 シュターデル獣王国と教会の関係は、良好寄りの様だ。互いに不満などもあるのだろうが、基本的には、持ちつ持たれつの関係なのだという。獣王国内では、獣人の殆どは、主に神獣を信仰している。しかし、どの国もそうだが、他国との交流があるという事は、外の文化が国の中に入ってくるという事でもある。
 シュターデル獣王国は、ウルカーシュ帝国との他にも、周辺国と交流を行っている。そして、その国々には獣王国と同じように、昔から信仰を続けている、誰しもが知っているような有名所の神々や、その国でしか信仰していない、土着の神々も存在する。そして、王都コンヤには、周辺国との友好や繋がりの証として、そういった神々を信仰をしている宗派の教会が、幾つか存在する。
 獣人の中には、神獣を信仰しつつも、それら他宗派の教義きょうぎに感心し、その他宗派の神も信仰するという人もいるそうだ。そういった人々を、他宗派の司祭たちも受け入れ、神獣信仰と共存していこうと、日々努力しているとの事だ。シュリ第二王女は、神獣信仰にも歩み寄ってくれている、異なる宗派の教会にも、炊き出しをお願いするそうだ。
 最初に訪れた教会は、木造建築で建てられた立派な教会だ。この教会では、神獣を信仰しているそうだ。この教会の隣に併設されている孤児院も、教会と同じく木造建築で建てられており、とても頑丈そうに見える。教会や孤児院の建つ場所は、敷地も広く、建物自体の大きさもそれなりにあるので、子供たちが安心して暮らすのに、十分すぎる程だろう。
 シュリ第二王女が、教会の扉をノックし、来訪を告げる。

「少々、お待ちください。直ぐに参ります」(?)

 扉の向こうから、温和で柔らかい、老いた声が返ってくる。コツ、コツ、という地面を軽く叩く様な音を立てながら、老いた声を発した存在が、ゆっくりと扉に近づいてくる。老いた声ではあったが、扉に近づいてくる存在から放たれる魔力は、質も高く、量も多い。その事から考えても、老いた声を発した存在は、若かりし頃には、さぞかし凄腕の戦士であったであろう事が窺える。
 地面を軽く叩く様な音が、扉の直ぐ傍で止まる。そして、教会の扉がゆっくりと開いていき、一人の獣人が、扉の向こう側から姿を見せた。

「お待たせしました。……おお、シュリ様、よくぞご無事で」(老神官)
「マデリン司祭、貴女もご無事で何よりです」(シュリ)

 扉の向こうから現れたのは、神官服を着た、狸人族の老婆だった。シュリ第二王女が、マデリンと呼ぶ老婆の司祭は、右手に杖を持っており、その杖で身体を支えながら、その場に立っている。
 マデリン司祭は、見て分かる程に高齢で、背中も少し曲がっている。だが、思考もしっかりと出来ているし、目も見えるし、耳もちゃんと聞こえているみたいだ。シュリ第二王女との会話でも、よどみなく受け答えをしているので、年齢から考えたとしても、十分に元気なお婆ちゃんだろう。

「それで、王族としても、私個人としても、炊き出しをする事で人々を結束させ、心と身体を癒そうと考えています。ご協力してもらえますか?」(シュリ)
「ええ、勿論ですとも。幸いな事に、反乱を起こした者共は、教会などに手荒な事はするなと、周知徹底されていた様です。そのお蔭と言ってはいけませんが、王都内にある各教会への被害は、ほぼないと言ってもいい程です。直ぐにでも、取り掛かれると思います」(マデリン)
「分かりました。それでは、直ぐにでもお願いします。それと、他の教会にも、この事をお伝えしてもらう事は可能ですか?近場の教会には、この後寄る予定なのですが、全ての教会には寄る事は出来ません。ですので、協力してもらえますか?」(シュリ)
「ええ、大丈夫です。私どもにお任せください」(マデリン)

 マデリン司祭は、シュリ第二王女の要請に、真剣な表情で頷き返した。そこからは、トントン拍子に事が進んだ。マデリン司祭は、王都内にいる司祭たちの中でも最古参の司祭の様で、彼女の働きかけによって、各教会も迅速に動いてくれた。その結果、王都内の各地で一斉に炊き出しが行われ、反乱によって不安定になっていた、王都の人々の結束が高まり、心や身体が癒されたのだった。
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