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第7章

第217話

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 反乱が完全に鎮圧され、王家と教会が協力して行った炊き出しによって、王都の人々の心と身体が癒されてから、約一ヶ月が経った。亡くなった戦士たちの葬儀や、反乱者たちを裁いたりと、目まぐるしく時間が過ぎていった。そして、獣王様自らが、陣頭指揮をとって行っている王都の復興は、大分時間がかかっている。反乱者たちは、王都全域を掌握しようと激しく攻め立て、その攻撃に対して、王族派の騎士たちが激しく抵抗した。そのため、王都内の一部は損壊がひどく、その部分に関しては、まだまだ復興途中なのだ。
 幸いと言ってはいけないが、魔物や魔獣が召喚されたのが、城門近く一ヵ所のみだった様で、王都内で、魔物や魔獣が暴れ回る事はなかった。恐らく、反乱の首謀者であったクレータ元騎士総長が、反乱を成功させた後に、速やかに新たな獣王として名乗りを上げ、獣王国を運営していくために、王都をなるべく傷つけないようにしたのだろう。
 アッシュたちも、自分たちの傀儡に出来る存在が、一国の王になるという所から、その条件を飲んだのだろう。そうでなければ、王都は今頃、よくて半壊、最悪は、王都そのものが、地上から姿を消していた事だろう。

「四・五日と言っていたにも関わらず、随分と待たせて悪かったな。これが、例の手紙への返事になる。それと、これはシュリ王女の護衛に対する報酬だ。受け取ってくれ」(コンヤギルドマスター)

 犀人族のギルドマスターが、相変わらずの渋い声でそう言いながら、返事の手紙を、執務室の机の上にポンッと置き、金貨がたっぷり詰まった袋を、ドンッと置く。その二つを受け取り、鞄の中に仕舞いながら、ギルドマスターと話を続ける。

「国そのものを脅かす程の一大事が起きていたんですから。誰もギルドマスターを責める事も出来ませんし、させませんよ。むしろ、こういった一大事があったにも関わらず、嫌味の様に、横からうだうだと口を出してくる奴がいるなら、俺がその口を閉じてやります。……それが例え、――グランドマスターでも」
「ハハハ、そいつはいい。…だがカイル、お前にその様な事はさせんよ。この件で何か難癖を付けられたとしたら、自分の拳を使って、その事を後悔させてやるからな。だから心配する事はない。幸い、このギルドの職員は皆優秀だ。俺がギルドマスターを辞めさせられても、直ぐに後任の者がギルドを纏め上げ、しっかりとやっていくっさ」(コンヤギルドマスター)

 ニヤリと笑いながら、そう語るギルドマスターからは、王都コンヤの冒険者ギルドで働く仲間たちへの、絶対的なまでの信頼を感じる。ギルドマスターは、仲間たちの高い能力や人柄の良さであれば、冒険者ギルドを上手く回していけると、心の底から確信を抱いている様だ。

「ギルドマスターがそう言うのなら、俺は大人しくしておきますよ」
「そうしとけ、そうしとけ」(コンヤギルドマスター)

 その後も、引き取ってもらった素材に関してや、反乱が起きていた際の、ギルドマスターたちの動きなど、色々な事を話していった。基本的に、ギルドマスターや冒険者ギルドの職員は、国に対して中立の立場である。しかし、彼らも人である。生まれ育った国に対して愛着もある。そして、それは冒険者たちも同様だった。

「反乱が起きた時、俺たちは直ぐにでも動いたさ。名目としては、ギルド周辺の治安の維持って所だな。まあ実際、反乱を起こした者たちは、このギルドにも迫って来てな。上から目線で、我々に従えとか言ってくるんでな。全員で大人しくさせたよ」(コンヤギルドマスター)
「それは、それは」
「だが、あまりやり過ぎると、中立であるはずの冒険者ギルドが、国に過剰に介入していると思われるからな。ギルドの周辺に冒険者を配置する事から始めて、奴らを牽制しながら徐々に範囲を拡大させていき、好き勝手暴れまわる奴らを、迅速に鎮圧していった。しかし奴ら、鍛え方が足りなかったな。俺たちに奇襲された程度で、一気に壊滅するなんてよ」(コンヤギルドマスター)
「騎士の連中の中にも、強い者もいれば、何故騎士に?といった様な者もいますからね」
「それを考慮したとしても、一人だけ、比較にならないくらい弱っちい奴もいたな。男の狼人族の騎士でな。最近騎士になったばかりの、元軍人らしい。ボコボコにされながら、本人がそう言っていたらしい。本当の所は分からんがな」(コンヤギルドマスター)

 ああ、やけに敵対視してきた狼人族の奴か。あの男、不自然に騎士に取り立てられたと思ったら、反乱にも参加していたとはな。その上、簡単に鎮圧されて、罪人として捕まっていたとは。まあ、権力欲や上昇志向が強そうな奴だったからな。反乱が成功した時の自分の立場や権力に酔いしれて、安易な気持ちで獣王様を裏切ったのかもな。それも、今となってはどうでもいい事だけどな。

「それよりも、冒険者の皆さんは、復興作業の手伝いに向かってるんですか?」

 俺は、話題を切り替えて、ギルドマスターに問いかける。冒険者ギルドを訪れた時に、ギルド内には人がいなかった。冒険者どころか、職員の半数もギルド内から姿を消していた。

「ああ、冒険者の連中は、ギルトから直接依頼を出して、王都内の復興作業に向かわせている。職員たちも、戦闘もこなせる者たちの大半も、同じく復興作業に向かわせた。今ここに残っているのは、護衛経験のある元冒険者の職員に、非戦闘員の職員だけだ」(コンヤギルドマスター)
「大丈夫なんですか?」
「ああ、王家の方も協力してくれていてな。影の者たちがギルドの周囲に潜んでおり、危険なものが接近しないかを見張ってくれている。もし本当に危険な状況になったとしても、直ぐにでも俺か、ギルドの幹部の者たちに通達してくれる事になっている」(コンヤギルドマスター)
「それならば、安心して動けますね。影の者たちは、どの方も実力者揃いの様ですからね。その者たちに守ってもらえるのなら、余程の事がない限り大丈夫ですね」
「ああ、そのお蔭でこのギルドは、現状の王都の中でも、安全な場所だと言ってもいいだろう」(コンヤギルドマスター)

 ギルドマスターの言う様に、反乱間もないこの王都の中で、王城や後宮、騎士団や軍の施設以外で、安全性が確保されているのは、この冒険者ギルドだろう。獣王様も、冒険者たちが何の憂いもなく、復興作業に集中出来る様にと考え、影の者たちを派遣したのだろう。その結果、冒険者たちが各地に散る事が出来、復興作業が迅速に進んでいるという事か。
 冒険者ギルドの現状を知り、ギルドマスター含めて、皆安全だと分かったので、そろそろお暇しようと考え、ギルドマスターにその事を告げる。すると、ギルドマスターは口角を僅かに上げ、笑みを浮かべて答える。

「またこの国に来ることがあったら、今度は飲めや歌えやと、楽しく騒ごうや。勿論、馬鹿共冒険者たちも誘ってな」(コンヤギルドマスター)
「ハハハ、そうですね。ですが、その時は冒険者の皆さんだけでなく、周辺に住んでいる方々も巻き込んで、盛大にいきたいですね」
「ガハハハハハハ‼そりゃあいいな‼確かに、宴をするのに、冒険者も一般人も関係ねぇな。それに、楽しい事は皆で共有すれば、もっと楽しくなるものだ。…………ならばこそ、お互い壮健でいなくてはな」(コンヤギルドマスター)
「ええ、そうですね」

 ギルドマスターが椅子から立ち上がり、スッと右腕を上げ、右手を俺に向ける。

「カイル、‟また”会おう。それまでは、死ぬなよ」(コンヤギルドマスター)
「ええ、‟また”会いましょう。安心してください、早々簡単にはくたばりませんよ」

 互いに笑みを浮かべて、がっしりと握手を交わす。そして、身体を寄せ合って、もう片方の手で背中を二・三度叩き合い、手を離して離れる。

「それでは、ここらで失礼します」
「おう、じゃあな」

 別れの挨拶を済ませ、ギルドマスターの執務室を出る。今回、ギルドマスターから手紙を受け取った事で、俺の本来の仕事を達成出来た。後は帝国に戻り、受け取った手紙を渡すだけだ。
 色々とあったこの国とも、遂に別れの時が来た様だ。
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