運命を知っているオメガ

riiko

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番外編 2

北海道旅行 6

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「あっ、僕が見に行ってくるね」
「空、ありがとう。ちゃんとモニター見てからにしろよ」
「ふふ。わかってるよ、まさ君」

 空が迎えに行くと玄関口が騒がしくなっていた。全員帰ってきたのだろう。双子の興奮する声が聞こえる。あいつら、空に会えて嬉しいんだな。すると海斗さんが真面目な顔で言ってくる。

「ねぇ、正樹。僕この旅行で、類を誘惑したいんだ」
「ぶほっ!」
「きたないなぁ、正樹。ほら、口拭いて」

 海斗さんがティッシュを差し出してくれた。それで口元を拭きながら、俺は問いかける。

「ああ、ありがと。って、何の話?」

 海斗さんがそっと、俺の隣に隙間なく座ってきた。ちょ、大人の色香、緊張するわ。つーか俺がすでに誘惑されてるのか? この距離感を櫻井と司に見られたら、俺……殺される。あいつらの嫉妬の深さは同レベルだと思うよ。海斗さんはそれに喜ぶ節があるけど、俺はちっとうざいんだよな。

「類がね、自制を覚えてしまったの。それってなんだか僕の魅力が減ったみたいで寂しいでしょ」
「え、でも、海斗さんだってまだ太陽の世話で大変でしょ。櫻井なりに気を使ってるんじゃないの? ってさっき人前ではって、空が言ってたし、二人のときは違うでしょ」
「産後久しぶりにヒート戻って来たのに、類ったらどうしたと思う?」
「え、し、知らないよ」

 人のヒート事情なんて聞いていいのかわからないし、櫻井に悪い気がした。そんな俺のデリケートな心なんてお構いなしに海斗さんが言う。

「抑制剤渡してきたの……」
「え、まさかヒート中に放置されたの?」

 櫻井どうした、いったい……

「ヒートは薬で抑えて、軽めにしようって」

 って、したんかーい!

「もう僕のヒートが嫌になっちゃったのかなって思って。それからも僕を抱くとき控えめで。まんねりセックスなんて今まで類とだけは経験なかったのに。なんだか不安で。僕の魅力なんて体だけだし、それも通じないなら、僕類に飽きられちゃったのかも」
「体だけって……絶対そんなことないでしょ」
「正樹は知らないからそういうけど、僕はもともとビッチだったんだ」
「ええええ‼」

 なんで今ここでそんなこと暴露するのぉ―――

「僕は最初、類を体で落としたんだ。ほら、類って経験なかったでしょ?」
「俺は何も知らない! 聞いてない!」
「ちょと、正樹。これ本気の相談なんだから茶化さないでよ」
「はい、ごめんさい」

 怒られた。

「僕そっちには自信あったんだけど、というかそこしか自信ないよ。類は大人になってどんどん魅力的になるし、周りも類のこと見てときめいてるの見るの、僕辛くて。だから僕のだって外ではべたべたして誰も入れないような空気にしたいのに、類はそれを嫌がるし。僕の美貌にもう飽きちゃったのかな」
「海斗さん……」

 どうしよう、突っ込みところが多すぎて何も言えねぇ。確かに海斗さんは美しいけど、美貌とかあっちの技術とか? これは自慢か? 正直俺は司に翻弄されるばかりでそっちはわからないよ。俺っち司しか経験ないし。

「やっぱり他の人とも経験したくなっちゃったのかな? 僕は自分の過去のことそれなりに類に引け目を感じるから、それを止める権利無いし……」
「え、それは違うでしょ。止める権利ありありだよ! つーか櫻井信じてないの? あいつは海斗さんにぞっこんだよ、誰が見てもわかるし、一番近くで見てた空だって言ってたじゃん」
「空は、きっと類にそう言いくるめられてるんだよ。類は空を大事にしてくれてるから不安にさせたくないんだと思う」

 うーーん。海斗さんって、こんなネガ入る人じゃなかったはず。いったいどうしたんだろう。

 櫻井一家とはよく会うけど、櫻井の目はいつも海斗さんを追ってるし。俺から見たら大人なカップルって感じにしか見えないんだけど。たまに海斗さんがべたべたしてるくらいで、櫻井が愛されてるのは見てわかるし。でも櫻井もまんざらでもなさそうな顔してるのは知ってる。司に櫻井みたいに人前では大人の対応しろって言ったら、俺にぼそっと、あいつはむっつりだからなって言ってた。

 むっつりってなんだ?

「だからね、お願い。空と太陽を一日だけ預かってくれない? ヴィラに来たら僕と愛し合った日々を思い出してくれるかもしれないと思って……」
「え、ああ、そういうことならいいよ」

 そもそも、ここは大人だけで夜を過ごすために、子ども用お泊ヴィラあるんだけど、海斗さんここの施設の話は聞いてないのかな? それとも大事な子は預けるのが嫌なのかな。それならそれで連休中は俺っちの家族と一緒に空と太陽も過ごせばいいな。双子が大喜びだよ! 司は、お預けだな……すまない。これも友のためだ、司!

 そこで海斗さんが笑顔になって俺にとびかかって来た。

「うおっ」
「正樹ぃ、大好きぃぃ!」

 俺はよろけてソファーに倒れてしまい、海斗さんが俺に覆いかぶさるように抱きついてきて、泣いていた。それほどまでに海斗さんは櫻井とのことに悩んでいたんだ。つがいに飽きられてしまうかもなんて、考えただけでオメガには辛い出来事だ。それに愛し合うべきときに抑制剤を使われるって、俺には経験がないけど絶対傷つく。櫻井はいったい何を考えているんだよ! このやろう! そう思ったら自然と海斗さんをぎゅっと強く抱きしめていた。

 そこで――

「たっだいまー、まーさきっ!」

 空気を読まない俺の夫が入ってくる。

 はい、出たよ! 司の「まーさきっ」は、ご機嫌な時に俺を呼ぶ声。なぜにお前は今ご機嫌なんだ?

「正樹、リンレンが動物園に行くって言うけど連れてっていい? え……」

 とそこに太陽をだっこした櫻井。俺の息子たちをパンダみたいな名前で呼ぶな! 子供たちは足音から二階に上がっていったみたいで、俺と司と櫻井、そして海斗さんは感極まったのか俺の胸にいる。

 あれ、これって、まずい状況じゃね? 俺たちソファに倒れて抱きしめ合ってるし、海斗さんは泣いて俺の胸にいる。それをしかと受け止める俺……

 恐る恐る、ドアに立つ男二人を見た。

「正樹……浮気か」
「海斗、そこから降りて」

 いつもより低い声を出すアルファ男性二人。

 カオス!!!!!!

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