運命を知っているオメガ

riiko

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番外編

4、番になったその後3

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「正樹、正樹っ! おぉ――い、まさきぃ」
「ふへっ?」
「大丈夫か? なんか変な妄想してないか?」
「いや、俺、父さんに櫻井とつがいになるって決意したとき言わなかったから、ごめん。俺のせいだ、櫻井また俺のことで嫌な思いしたんじゃないか?」

 櫻井は穏やかに話す。

「そうじゃないよ、正樹のお父さんは俺に謝りにきた。正樹のしたことを許して欲しいって」
「え?」

 どういうこと? 

「事情を聞いて、俺の所に来たんだって。前回の俺がしたことは犯罪だったけど、今回は正樹が自分で決断した契約だったでしょ。つがいって一生の契約だろう? だから二回もそんなことがあれば正樹に本気なのをお父さんはわかって、そんな一生に一度の約束を交わしながら息子がすまなかったって」
「……父さんが?」
「ああ、俺も驚いた。正樹のお父さん……真山さんが来て、俺はついに訴えられるのもいいなって自暴自棄になっていたところだったからさっ」
「櫻井……」
「その時に真逆の対応で驚いたよ。正樹のお父さんは凄いな! 俺に罵倒しに来るのかと思ったらさ、なんと抱きしめてきたんだよ。まさか中年のおじさんに抱きしめられるとか、俺固まっちゃって、はは」

 父さん、何をやっているんだよ。多感なアルファ男子高生を抱きしめるとか。ベータのおっさんのやることではないな。すまない、櫻井。笑ってくれているが、相当気持ち悪かったに違いない。

「それは、うちの親がごめん」
「いや、違うんだよ。俺、父親に抱きしめられた記憶がないからさ、正直驚いたけど嫌じゃなかった。真山さんは、俺も正樹と同じで自分から見たらただの子供だ、強がるなって、むしろ一生に一度の決断を自分の息子にしてくれてありがとうって言ってきたんだ。ふところの大きい人だな、さすが正樹の父親だよ」

 そんなことがあったのか。

「自分はベータだから香りとかわからないけど、そんなものなくても正樹の母親と出会えて大恋愛をしたって言われたんだ」
「えっ、わざわざ櫻井のとこに行って、のろけにいったの? 俺の父親は」
「はは、のろけもあったけど、でも諭された。最初俺は正樹に薬を盛っただろう? それはいくら好きだからってやってはいけないことだって。オメガのフェロモンを出させなきゃ、つがいにならなきゃ結ばれないような関係ではなくて、香りとかフェロモンなしに人を見てみたらどうかって言われた」
「……うん」

 でもそれは難しいよ、父さんはベータだからわからないだろうけど、俺たちにとって香りは本能に直結する。司とのことでそれを十分思い知らされた。父さんの言うそれはきれいごとだと思う。

「俺、アルファとしてどうしてもオメガとつがいになりたいってどこかで思っていて、そこに正樹が現れた。だからもし正樹がベータだったら俺は最初から恋をしたのかって聞かれてわからなくなったんだ。ベータだって言われたら親友という立場を得られたかもしれなかった、正樹がオメガだったからつがいにしたかっただけだったんじゃないのかって聞かれて、何も答えられなかったんだ」
「そう、なんだ……」
「怒った? 散々好きだって言っておいて」
「ううん。俺の方が酷いことしてきたし、それに俺たちはやっぱりきれいごとで片付けられないくらい、やっかいな本能があるから、櫻井の言うことは良くわかるよ」
「ありがとう」

 そして櫻井はカフェラテを飲み干してから、俺に真摯しんしな目で言う。

「それでも、俺は一生に一度の決断を正樹だからしたって思う。だけど正樹の弱みに付け込んだのは卑怯だった、本当にごめん!」
「えっ、やめろよ。謝るのは俺の方だよ」
「真山さんに言われて、俺はそれでも正樹に恋をしたと自覚はしたけど、やったことはアルファだからいいだろうって思いもあったのは認める。これからしっかりと生きていけば、香りとかそんなのを関係ないって思える相手がきっと見つかるって言われたよ。この経験は俺を強くするだろうって」

 父さん、櫻井という王子様アルファになんたる上から目線を!?

「うちの親、偉そうにごめん」
「違うんだ、そんなこと言ってもらったのも初めてだから、俺はありがたくって。アルファだから当たり前にそういう風に生きなきゃいけないって育てられて、それがバース関係なく人を見なさいって言われたことに衝撃だったよ、まさにその通りだし、もっと正樹をオメガとして見ずに正樹という人間を見ていたら未来も変わっていたかもしれない、だから正樹が俺を選ばなかったのは、西条が運命ってだけじゃなくて俺の問題もあるんだ、そういうわけで正樹はもう俺のことで気にすることはないよ」
「櫻井……」

 こいつはいつなんどきも王子様だ。俺がやらかしたことを寛大に許してくれる、そして俺の父親の話も真剣に聞いてくれたみたいだった。

 そして父さん、ありがとう。息子のフォローをしてくれて。
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