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本編
44、番にならないか
しおりを挟む「でも運命だし、きっと大丈夫じゃないか? 目の前でヒートになっちゃえば、うまくいくんじゃない?」
「だめ、だよ。西条は運命に出会ったら、絶対に噛まないって言っていた」
驚いた顔の櫻井だが、それでもそんなことないと根拠のない話をいう。
「それは正樹が運命だって知らないからだろう? 知ったら喜んで噛むと思うぞ」
「櫻井はオメガや運命に寛大だから、そう言うんだよ。あいつのオメガ嫌いは知っているだろ? 子供の時から何度もオメガのヒートに当てられてきたんだ、次あいつの前にヒートを迎えたオメガが出てきたら、あいつは絶対噛まないって言っていた」
「まあ、それは前からそうだしな。でも運命は別だ」
櫻井は、きっとトラウマのない普通のアルファだ。だから司のことはきっと理解できない。でもそれでも俺は、聞いてほしかった。
「司は、フェロモンで乱れて番になる行為を嫌っているんだ。もし運命を見つけたら他のアルファに噛ませるって言っていた。運命とだけは、匂いだけで発情する相手は嫌だって……」
俺は言いながら悲しくなってきた。
「運命だからこそ、あいつのオメガにはなれないことは理解したんだ。もしただのオメガだったら番になれたのかもしれないけど、もしくは、興味すら持たれなかったかな?」
「正樹……」
櫻井は優しいから、どんどん言葉がでてきてしまう。今まで誰にも言えなかった悩み。
「でも俺っ、万が一にでも司の前でヒート起こして運命だって知られて失望されたくないし、それに司の手で知らない誰かの番にされるのだけは嫌だ。だからこれから起こるヒートを司に気づかれたくない! 俺、どうしたらいいんだろう……」
櫻井は真剣な顔で聞いてくれていたと思ったら、変なことを言い出した。
「それなら俺と、番になる?」
「お前っ、何言ってんだよ、俺は櫻井をそういう目で見ないってさっき言っただろ」
「でも万が一、西条にヒートが見つかったら知らないアルファに噛まれるんだろ? 俺と番になった方がマシじゃない? アルファがそう簡単に騙されると思う? それも西条だよ、正樹はいずれ運命がバレる。だったらバレる前に手を打つしかないだろう」
「でも、それじゃあ、櫻井が、そんな理由で番になるなんて……」
櫻井は俺の手を取って笑った。
「そんな理由? 理由なんてなんでもいい、俺は正樹を番にしたかったの、もう忘れた? 番になってからゆっくり俺を好きになってくれたらいい、俺はお前が好きだ。だから考えてみて? 俺は絶対に番解消しない、もしも本当に見知らぬ奴の番にされたら? そいつが正樹を一生自分の番にしておくような奴じゃなかったら? 暴力ふるうような奴だったら、一生苦しむことになる」
櫻井は怖いことを言った。
確かにそうだ、見知らぬアルファの番にする、そんな最低なことをすると断言する以上、いい人間を探してくれるとも限らない。
「ってか、どうやっても 逃げられないのかな、やっぱり見つかったら俺はアルファの番にされるのは決定で回避は不可能だと思う?」
「さあ俺には理解できないけど、でも本当に運命を毛嫌いしていると言うならな。俺にしておかないか? まだマシだと思って」
「マシって……」
「次の発情期まで、そんなにないだろう? 時間はあまりないけど、よく考えて」
「櫻井……」
うんとは言えなかった。
だけど、ダメだとも言わなかった。俺はずるい。櫻井の好意を知っておきながら、櫻井の番になる方がマシだから番にする、それを否定しなかったってことになる。
ああ、どうしてこうも悩ましい!
俺の平凡な日常を返せ!
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