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4-13.闇墜ちデート 中編

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 *  胡桃  *


 クソ陰キャ野郎は酷い。
 友達になると言ったのに、私を無視して次から次に違う女と仲良くなる。

 もっと私を優先するべき。
 そんな愚痴を聞いたルリが闇墜ちを提案した。

 闇墜ちって何?
 なんか構って貰える奴。

 私はルリの案を採用した。
 とりあえず闇っぽい言動と行動を心掛けた。

 効果抜群だった。
 しっかり私の優先度が一番になった。
 
 正直、この先はノープラン。
 だからクソ陰キャ野郎が次を提案してくれて助かった。

「どこへ行く?」
「いずれ分かる」

 会話も弾んでいる。
 きっとクソ陰キャ野郎のとっても偉そうな口調を真似したからだ。

 聞いたことがある。
 人は、自分と似た存在を好む。

 趣味が合う。
 嫌いなものが一致する。

 とても良い。
 もっと真似してみよう。

 ……長い。
 結構歩いたと思うけど、まだかな?

 あと、ここ、どこ?
 こんな場所、近くに……あれ、なんか、意識が…………。


 *  *  *


「……っ!?」

 ビックリした。私、寝てた?
 ここは……教室? あれ、なんで?

「はっはっは、カリンは今日も愉快だな」

 クソ陰キャ野郎の声!
 また、私以外の誰かと話してる。

 あの金髪ギャル、何なの?
 ちょっと席が後ろだからってなれなれしい。

(……声、かけよう)

 クソ陰キャ野郎は言った。
 いつでも声をかけて大丈夫って。

「……おい」
「おっと、用事を思い出した」
「ちょっと」
「すまない、席を外す」

 ……ふざけんなよ。
 何あいつ。逃げるみたいに。

「もういい」

 そういう態度なら私にも考えがある。
 今の私には、友達っぽい相手がもう一人だけ居る。

「おい」

 名前なんだっけ。
 ど忘れしちゃった。でも確か、委員長だ。

「山田さん? どうされました?」

 すっっごい猫を被ってる。
 普段は触手がどうとかそんなことばっかり言ってるくせに。

 でも、体面とか体裁とか、そういうのは少し分かる。
 だから……これは、ちょっと、教室で話す内容じゃないかも。

「来て」
「ええっと……ごめんなさい。この後ちょっと用事が」

 なんだよ。こいつもかよ。

「……そう」

 もう知らない。
 一人で行動する。

 私は教室を出た。
 行き先は決めてない。適当に歩いてる。

「……ん-?」

 なんか、おかしい。
 今はどういう状況なのだろう。

 私、さっきまで……。
 そうだ。確か、クソ陰キャ野郎と──


「──み」

 誰かの声。

「胡桃、聞こえているのか?」

 目を向ける。
 クソ陰キャ野郎が隣に居た。

「……え?」
「どうした。寝ぼけているのか?」

 どういうこと?
 直前まで一人で歩いてたはずだったのに。

「睡眠不足は身体に悪いぞ」
「……平気」

 とりあえず返事をした。
 クソ陰キャ野郎は、当たり前のように、雑談を続けてくる。

 私は戸惑いながら返事をした。
 その最中に周囲を見る。ここは通学路。多分、学校に向かう途中。

(……寝ぼけてる、のかな?)

 いつの間にかクソ陰キャ野郎と一緒に通学していた。
 どうして今の状況に至ったのかさっぱり分からないけど、でも、いっか。

 だって、楽しい。
 そうだよ。彼は、こんな感じで私を優先するべき。

「ねぇ」
「おっはよー!」

 私が声をかけた瞬間だった。
 金髪ギャルが後ろから現れて、クソ陰キャ野郎と肩を組んだ。

「カリン、なんだその絡み方は」
「えっへっへ、ちょっと今日はこういうノリだった」

 こいつ、また……。
 ふざけるな。今は私が話してたところだよ。

「……おい」

 クソ陰キャ野郎の手を──握れなかった。
 寸前で、彼は私の手を避けた。

「え?」

 そのまま真っ直ぐ、金髪ギャルと二人で歩いて行った。

「……なん、で」


 ──繰り返される。


「悪い、今日は用事がある」


 ──繰り返される。


「おっと、カリンに呼ばれていたのだった」


 ──繰り返される。


「そうだ。彩音と話をしなければ」


 ──繰り返される。
 何度も、何度も、何度も、何度も……。



「…………」



 気が付くと、真っ暗な世界だった。
 体中にヌメヌメとした感覚がある。

 目を向ける。
 これは……触手だ。

「……」

 ビックリした。
 でも、悲鳴は出なかった。

 ──このままで良いの?

 声が聞こえたような気がした。
 私は何が何だか分からなくて、ぼんやりと視線を落とす。

 ──このままで良いの?

 二回目だ。
 うるさい。頭がキーンってなる。

 ──このままで良いの?

「黙って」

 ──やっと返事をしたね。

「……誰?」

 ──私? 私が誰かなんて、見れば分かるじゃない。

「……」

 ──やっと目が合ったね。

「……なんで」

 なんで、私が、目の前に?
 
「その姿、なに?」

 魔法少女に変身した時と似ている。
 でも、普段と違う。黒っぽい服。しかも、なんか出てる。

 触手だ。
 彼女の服から出た触手が、私を拘束している。

 ──私、私だよ。

「意味が分からない」

 ──ここは、心の中。

「急に話を変えるな」

 ──私はあなたの悪意。

「……悪意?」

 ──そうだよ。だから、私はあなた。あなたも私。

「……今、どういう状況?」

 ──変わってあげる。

「どういうこと?」

 ──あなたは我慢してばっかり。

「だから、どういうこと?」

 彼女は溜息を吐いた。
 そして、呆れた様子で言った。

 ──バカだね。そんなんだから、盗られちゃうんだよ。

「……うるさい」

 ──今も昔も一人きり。寂しいくせに、なーんにもできない。

「……うるさい」

 ──だから、変わってあげる。

「うるさっ──んぐっ!?」

 触手で口を塞がれた。
 どうしよう。これやばい。息が、できない。意識、薄れて……。

 ──さよなら。弱い私。


 *  *  *


 異世界には、女騎士を闇墜ちさせる儀式があった。
 淫魔が好んで使っていた邪法なのだが、俺は一度見た魔法を模倣できる。

 試しに、やってみた。
 しばらく胡桃は沈黙していたが、突然、膨大な黒い魔力が溢れ出た。

 彼女の手足から触手が生える。
 それは加速度的に堆積を増し、不気味に蠢いた。

「気分はどうだ?」

 試しに声をかけた。
 彼女は虚ろな目で俺を見ると、恍惚とした表情を見せた。

「みーつけた♡」

 彼女の足元から触手が生え、弾丸のような速度で向かってくる。
 しかしそれは、同じく俺の足元から生えた触手によって受け止められた。

 キャサリンである。
 流石、メンタルが弱いことを除けば頼りになる。

「どうやら、仕上がったようだな」

 俺は淫力を解放する。
 それはもう高密度に。元の胡桃であれば腰を抜かす程に。

 しかし今の胡桃は嗤っていた。
 黒衣を身に纏った彼女には、もはや以前までの面影が残っていない。

 これだよ。これが闇墜ちだよ。
 やはり魔法少女の闇墜ちは触手とセットでなければならない。

 そして──
 墜ちた魔法少女と出会った親友の役割は、いつも同じだ。

「さて、デートの続きを始めようか」
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