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4ー02.運命の人

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 ……ふふ、やるではないか。
 出会い頭に全力で悲鳴をあげる。

 効いたぞ。その一撃。
 誇れ。貴様の悲鳴は、白狐の矢よりも強い。

「……ぁ、ぇ、ゃ、ぃぁ」

 ふむ、どうしたものか。
 絶頂した小悪魔の如く口をパクパクさせている。そのうち泡か潮でも吹きそうだ。

「……」
「……」

 一分が経過した。

「……ぁ、ぇ?」

 俺は笑みを浮かべ、「どうした?」と態度で問う。
 あまりにも怯えているから、優しくしようという魂胆だ。

「……生き、てる?」

 どういうことだろうか。
 ……ああ、そうか、この汚い笑顔か。

 曲がり角でぶつかった相手が、何も言わず汚い笑みを浮かべている。確かに怖い。思わず死を錯覚するようなストレスを与えてしまったとしても不思議ではない。

「すまない」
「ひぇぁっ!?」

 一声かけた瞬間、彼女は大袈裟に飛び退いた。

「……」
「……」

 彼女は飛び退いた姿勢で硬直している。
 俺もまた、一声かけたポーズで硬直した。

「……どうして、生きてるんですか」

 泣けば良いのか? 俺は。
 同じ学校の生徒にここまで言われる程に酷いのか、俺から放たれる陰のオーラは。

「……ぇ、ぅそ。でもさっき確かに。でも。……ぇえ?」

 何やらぶつぶつと言っている。
 流石に、少し不愉快だ。どうしてくれようか。

「あの」

 先手を打たれた。

「なんだ?」
「……は、ハイタッチ。いぇーい」

 彼女は弱弱しく俺に手を伸ばした。

「……」
「……ぇへ、ぇへ」

 スパァン!

「ひぇっ」

 スッキリした。
 直前までの非礼は今のでチャラだ。

「……」

 彼女は目を見開き、叩かれた手と俺を交互に見ている。

「……あの」
「なんだ」
「……なんとも、ないんですか?」
「無論だ」

 何なのだ、この女は。
 あれか? 中二病という病か?

 ……ふむ、なるほど。
 それなら理解できないこともない。
 
 俺もかつては、クラスメイトに無意味なジャンケンを要求したりしたものだ。要は寂しさから来る承認欲求の暴走。──即ち、彼女は陰のモノなのだろう。

「……見つけた」

 瞬間、空気が変わった。

「……私の、運命の人」

 瞳の色が黄金に変わる。
 光彩は猫のような縦長の模様に変化した。

 だらしなく開いた口の中、不自然に長い八重歯が見える。
 そして最後に──いくつかの布を突き破り、彼女の背から翼が生えた。

「お前は……」

 訂正する。
 彼女は陰のモノではない。
 
「やっと、やっと、やっと会えた」

 彼女は、

私とセックスできる人私の運命の人!」

 淫のモノだった。
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