聖女に殺される悪役貴族に転生した私ですが、なぜか聖女と一緒に魔王ライフが始まりました

下城米雪

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3-05.ご褒美と誓い

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「イーロンさま、ぐへ、お肌、ぐへ、すべすべ、ぐへ、すべすべですね」

 はゎぁ~、至福の時です!
 今のわたくしは5歳であり使用人なので、主であるイーロンさまとお風呂を共にしても不思議ではありません。

「ノエル」
「……な、なんでしょうか?」

 はゎぁ~、イーロンさまに見つめられています。
 こんなにも幸せ……あらら? なんだか視線が冷たいような……?

 ──鏡に映った自分の顔を見た。

 はゎっ!?
 わたくし、なんて表情を!? 欠片も品性が感じられません! 変態です!

 はゎゎゎ……思えば、ぐへぐへ言っていたような気がします。
 どうしましょう。イーロンさまに引かれてしまったら、百年は立ち直れませんわ!

「ノエル、もしかして……」
「違うのです。今のはその、愛が溢れたと言いますか……」
「風邪? ゲフゲフむせてたけど、大丈夫?」
「あー、グヘ、ゲフェ、ゲフ……風邪かもしれないですわねぇ」

 助かりましたわ~!

「い、イーロンしゃま!?」

 お、お手を、わたくしの額に!?
 
「ん-、むしろ冷たいかも?」
「……わたくしの体温は、低いので」
「急に熱くなってきたかも?」
「……あぁ、これはぁ、完全に風邪ですわねぇ、グヘ、グフ、ゲフフ」

 わたくし頭がパァになりそうですわ。
 これ以上のイーロンさま成分を摂取したら……理性が、理性がぁぁぁ!

「本当に具合悪そうだね。誰か、誰か聞こえる?」

 ──その後、わたくしは駆け付けた使用人の方に介抱されました。
 しばらく気分を落ち着かせた後、あらためて一人で入浴。日帰りでキングに実力を見せつけた疲れを癒します。浴室を出た後、少しだけリリエラさまと話をしました。

 後は眠るだけです。
 さて、わたくしは何をするべきでしょうか。

 はい、その通り。
 夜這い以外に考えられませんわね。

「……お邪魔しますわよぉ」

 わたくしは小さな体の利点を生かし、イーロンさまの部屋に侵入しました。
 それからゆっくりとベッドまで移動して……ぐへ、ぐへへへ、ぐへへへへ。

 違う。違うのです。
 本日、わたくしは頑張りました。

 だから、だから……。
 多少のご褒美を要求しても、許されるはずなのです。

 これは断じて欲望を満たすための行動ではありません。
 健全かつ必要な行為なのです。明日以降も大活躍するために!

「ノエル? どうしたの?」

 はゎぁ~、流石イーロンさまです。
 お眠りになっているかと思ったのに、わたくしの気配に気が付いたのですね。

「……むにゃむにゃ、ベッドを間違えましたわー」

 どうでしょう、この迫真の演技!
 うっかりベッドを間違えたわたくしを追い出すことはできないはず!

「あはは、仕方ないなぁ」

 合意の上での同衾に成功ですわ!
 これはもう実質……ぐへ、ぐへへへ。

「おやすみ」

 はゎぁ~、イーロンさまのお背中が目の前に。
 こ、こんなにも無防備に……わたくし、無理。我慢無理!

「ノエル?」

 くっつきましたわ。

「意外と甘えん坊さんなのかな?」

 イーロンさまは軽く肩を揺らしました。
 しかし、わたくしを拒絶することはありません。

 合意! 合意ですわ!
 あぁぁ心が満たされるぅぅぅぅ……。

「ノエルは、本当にひんやりしてるね」
「……ご、ご迷惑でしたか?」
「ううん。全然平気。むしろ、嬉しい」

 う、れ、し、い?
 ダメです。ああダメですイーロンさま。そのようなご褒美。ダメ。ダメです。ああダメです。ダメダメ。わたくし、おかしくなってしまいますわ。

「ずっと憧れてたから」
「……憧れ、ですか?」

 イーロンさま、とても眠そうな声です。
 なんでしょうか。なんだか無性にイケナイことをしている気になってきました。

 彼が普段は見せてくれない心の内側。
 それを、無理矢理に覗き見ているかのような気持ちになります。

「こんな風に、友達と、添い寝。……ウチは、……ずっと」
「……イーロンさま?」

 寝息です。
 
「……友達と、添い寝」

 わたくしは彼の言葉を復唱しました。
 彼が「友達」として認識してくれている。とても幸せです。

 しかし、違うのです。
 何か、もっと別のことを……。

「……アクアと会話した日の夜」

 あの日、わたくしは今日と同じように、くっ付いて眠りました。
 朝起きたら彼の姿は無く、その後また一緒に寝る機会は一度もありませんでした。

「……そういう、ことなのですね」

 これが、彼の望む普通の日常。
 彼が心から求めているモノの正体。

「……ならば、わたくしは」

 イーロンさまの背中に額を当てる。
 その温もりに触れるだけで──わたくしが、初めて温かな気持ちに触れた時のことを思い出す。あれは一度目の人生。幼き日に、ほんの一時だけ会話をした時間。

「イーロンさま、お気づきですか?」

 わたくしは彼に花の冠を差し上げました。
 あれは感謝の気持ちを表したものです。あの時、わたくしは本当に嬉しかった。

 他の人に話せば、たったそれだけのことでと思われるかもしれない。
 だけど……あの瞬間が無ければ、わたくしは一生かけても温かい気持ちを知ることができなかったかもしれない。

 何の打算も無い。悪意も善意も存在しない。
 ただ普通に、何も考えず、ありのままに接する時間。

「……だから、わたくしは」

 あの瞬間に決めたのです。
 わたくしは、あの温かな感情を、必ずあなたにお返しするのだと。
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