新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
197 / 278
第三章 第四部

隠し子騒動

しおりを挟む
「パパ、それって赤ちゃん?」
「まさかあんな場所から出て来るとは思わなかったけど、赤ちゃんだね」

 ミシェルが覗き込んでいるのは、紛れもない赤ん坊。とりあえず僕が哺乳瓶でミルクを与えている。どうしてこんなところに赤ん坊がいるかということなんだけど、これは少々話がややこしい。ややこしくないとしても意味が分からない。

 新キヴィオ市と旧キヴィオ市でもうちと同じような魔化住宅を普及させることになり、その日僕は魔素の溜まり具合や魔力への変換状況などをチェックしていた。魔素を魔力に変換している異空間を調べていたら、繭のようなものが見つかった。ただ単に高密度な魔力だけが存在するだけの広大な空間に、一メートルくらいの蚕の繭のようなものが浮かんでいた。魔力が溜まりすぎて何かおかしなものでも生まれるのかと思って、もし害になりそうなら早めに駆除しようと思ったら、そういう存在ではなかった。

 調べてみたら【特徴:[ケネスと大森林の子供]】とあって、さすがに駆除はできないだろうと思って見守っていたんだけど、今日その場所に行ってみたら、目の前で繭が割れて赤ん坊が現れた。大森林が絡んでいるから、てっきり種でも出てくるのかと思ったら赤ん坊だった時の驚きは、ねえ。

「ケネスと大森林との間にいつの間にか隠し子ですか。もう何も言わなくても大丈夫そうですね。どんどん増やせばいいと思います」
「いやいや、大森林って人じゃないからね」

 リゼッタがクリスをあやしながら、「はいはい分かっていますよ」というような表情をしている。

 どうして僕と大森林の間に子供ができたのか、そもそも大森林って人じゃなくて場所の名前だし、何がどうなっているのかすら分からない。勝手に精力を吸われたってこともないとは言い切れないけど、とりあえずこの赤ん坊をどうしたらいいのか困っているところ。

「先輩は赤ちゃんを捨てることはないですよね」
「それはもちろん。見つけたのが僕だからね。まあ僕しか入れない場所だったけど」

 前までは何もなかったんだよね。でも先月覗いたら繭ができていた。

「娘として育てるのが一番だと思いますよ。それよりも、種族は人ですか?」
「ああ、それは……」

 もちろん連れて来るまでに一通り調べている。危険な存在を家族に見せるわけにはいかないからね。それで種族を調べたら……

木の精霊ドライアドですか」
「正確には[木の精霊ドライアド?]だけどね。とりあえずどうしようかと思って連れて来たんだけど」
「旦那様が愛人にでも産ませた子供としておけば問題ないかと存じます。捨てるおつもりがないのであれば、そこはぼかしておいても問題にはならないでしょう」
「誰か愛人……ねえ」

 フェナの言いたいことは分かる。不本意ではあるけど、僕の腕に中には赤ん坊がいる。跡取り以外は誰の子供かと大々的に発表することはないけど、母親が不在というのは少々問題がある。

「閣下、実は私が閣下を初めてお見かけした時に授かっていた、という設定はいかがでしょうか?」

 ここでジェナが助け船のような爆弾のようなものを投入した。一部視線が鋭くなった気がするけど、あの時は会ってないからね。

「時期的には……去年の叙爵の時ってこと?」
「はい。実際私は閣下のあのお姿を謁見の場で、この目でしかと拝見いたしました。それで身籠もっても何の不思議もありません」
「いや、見ただけで妊娠って、普通じゃないからね」
「ですが、閣下のあのお姿は、見ている女性すべてが身籠もってもおかしくないほど神々しいものでした」
「あれは服のせいだと思うけど……」

 マイカが悪乗りで作った軍服っぽい礼服。この国にはなかった真っ黒な服に金と白を合わせた、蝋燭の光が当たるとものすごく映える礼服。あれは封印されている。その代わりに普段の仕事で着ているのは、留紺のダブルのスーツ。

「うーん、でもまあ、それくらいしかないか……」
「それなら事情が分かるまではジェナの子供ということでいいでしょう。仮の名前はジェナに任せましょうか」
「では、木の精霊ドライアドならフォレスタForestaでどうでしょうか?」
「フォレスタね。女の子っぽいといえば女の子っぽい」
「私も森で育ちましたので、森の中で元気よく育てたいと思います」
「大森林には連れて行かないようにね」



◆ ◆ ◆



 大森林と僕の間に娘が生まれた。それを他人に言ったら頭がおかしいと思われるかもしれない。種族は[木の精霊ドライアド?]ってなっていたけど、僕は作った記憶がない。そもそも森との間に子供ってどうなの? 人でもないよ? そういうわけで、今日は大森林に調査に来ている。

 大森林は僕が初めてこの惑星に来た時に立っていた場所。そしてユーヴィ男爵領で消費される魔力や食肉の多くはこの森からもたらされている。そういう意味では母なる森と呼べなくはない。でもそれで子供ができるのもおかしいだろう。そういう意味の母ではないはず。

 大森林の出入り口から入ったけど、この森はとにかく広い。フェリン王国の一〇倍以上ある。闇雲に探してもいつまで経っても終わらないから、ここは[検索]を使うしかない。少々検索画面に癖があるけどね。僕が行ったことのない場所は除外しよう。行ったことのある場所で、魔獣ではなく動物でもなく昆虫でもなく微生物でもなく、それでも意思を持つ存在って感じで検索すると……

 [残留思念✕三八二一九]

 [精霊✕一八]

 残留思念の方は、できれば触れたくないね。大森林に入って志半ばで死んでしまった冒険者や殺された魔獣の思念なんじゃないかな? [浄化]を使うか何かするにしても後回しにしよう。

 精霊の方はなんとなくそれっぽい。でも一八人というか一八体というか、それだけしかいないのもおかしな気がするけど、何でだろうね?

 場所はユーヴィ男爵領から少し北寄りでずっと西の方。かなり海に近い方だね。たまに海水を汲みに行くけど、これまで何も見なかった気がする。もちろん視界の端から端までじっくり見ることは少なかったけど。

 とりあえず赤ん坊の種族が[木の精霊ドライアド?]だったからね。『?』が付いているから僕が関係している可能性が高いんだけど、身に覚えはない。だから探すなら木の精霊ドライアド。一人だけいるのか。まあとりあえずこの人に聞いてみようか。



◆ ◆ ◆



「あのあたりかな?」

 地図で表示されたあたりをよく見ると、森が丸くぽっかりと開け、そこに一本の木があった。周りには多くの木が朽ちて倒れている。これなら遠目には分からないね。真上に近い角度から見たらようやく分かるくらいか。とりあえず降りてみよう。

《…………うっ、あ、あん……あら、どなたですか?》

 明らかに木の様子がおかしい。微妙にうねっている。

「ひょっとしなくても木の精霊ドライアドですよね? この森の意思とか言いませんか?」
《森の意思かどうかは分かりませんが、私は木の精霊ドライアドです。意思があるのは間違いありません》
「まず敵対する意思はないという前提であなたと話をしたいのですが」
《私に敵を倒す手段はありませんから、それを信じるしかありません》
「ありがとうございます」

 まず接触は問題なし。第一印象は大事だよ。人は中身が大事ってよく言われるけど、そもそも第一印象が悪すぎたら興味を持ってもらえないからね。だからルボルさんは以前は夜道を歩いていると悲鳴を上げられたわけ。

「おかしな話に聞こえるかもしれませんが、事情を説明しますね。まず、ここはうちの国では大森林と呼ばれている森で、実は先日、僕と大森林の間にできたという謎の赤ん坊が現れて、それでその調査のためにやって来ました。意味が分からないかもしれませんけど」
《たしかに私は木の精霊ドライアドではありますが、この森の意思とまで言えるかというと疑問が残ります》
「それは、あなたはあくまで一人の木の精霊ドライアドだからということでしょうか?」
《はい。私は数多くいる木の精霊ドライアドの一人にすぎません》
「このあたりにはあなたしかいないようですが」

 もう一度検索しても、やっぱり他の木の精霊ドライアドはいないね。

《あら、そうでしたか。もしこの森に木の精霊ドライアドが私一人しかいないということであれば私が代表になりますので、森の意思となることもあり得ます。ですが、木の姿のままで人との間に子供をもうけることはないでしょう。実体化すればいくらでも可能ですが。実は少し疼いているのですが、これからいかがですか?》
「いえ、結構です」

 いきなり赤ん坊が現れたから調べに来たのに、ここで作ってどうするの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

処理中です...