新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
61 / 278
第一章 第三部

教会再訪、そして驚くべき事実

しおりを挟む
 早い方がいいだろうと、今日は朝から教会に向かっている。ところであの教会、[地図]にマークしてたからいいけど、普通は迷うよこれ。町の中ではできれば[転移]は使わないようにしているから歩いてるけど、[地図]がなければ絶対に[転移]を使ってたね。



 ボロボロの教会に行くと、シスター服のセラフィマが出迎えてくれた。

「おはようございます、ここまで迷わなかったです?」
「大丈夫だよ。それよりキラちゃんはいる?」
「呼んできます」

 お茶をいただきながら待っているとすぐにキラちゃんを連れて戻ってきた。

「昨日の話だけど、キラちゃんはここを出て僕のところに来てもいいの?」
「大丈夫」
「家族と話したけど、キラちゃんが自分で来てもいいと言ったら引き取ることにしたんだ」
「付いていく」
「それならいつ行こうか? 急がなくてもいいよ」
「すぐでいい。準備はできてる」
「そ、そう? じゃあセラフィマさん、手続きとかはどうなの?」
「何もないですよ。もう連れて行きます?」
「ええ、本人がそう言ってるからね」
「では荷物を取ってきます。玄関を出たところにいてもらえます?」
「分かった。じゃあキラちゃん、玄関で待ってようか」

 玄関で庭を眺めながら待っているとセラフィマさんが大きなリュックを背負ってやってきて、『閉鎖』と書かれた紙を貼り付けた。

「では向かうのはどちらです?」
「あれ? セラフィマさんも来るの?」
「?」

 そんなに可愛く首をかしげても……。

「いや、『何をわけの分からないことを言ってるの、この人は?』みたいな顔で見られても困るんだけど」
「一人も二人も同じですよ」
「セラも一緒」
「あ、うん、とりあえず連れて行くね。その荷物は僕が持つよ」
「いえ、これくらいは大丈夫です」

 なかなか力持ちだな。

「ケネスさん、私のことはセラと呼んでください。名前は呼び捨てでいいです」
「いいの?」
「はい、これからお世話になりますし」
「お世話になります」
「僕のことは好きに呼んだらいいよ」
「では先生で」
「なんで先生?」
「教会では上の人を先生と呼びますよ?」
「何の宗派? そもそも僕は神父じゃないよ?」
「でもそれでいいです」
「キラも好きに呼んでいいよ」
「先生」
「はいはい」

 向かう先は貴族たちが暮らす一等地を抜けたさらに先。かなり離れているのでゆっくりと時間をかけて歩く。

 僕の右には大きなリュックを背負ったシスター服の小柄なセラ、左には僕の手を握った小柄なキラ。これで一等地を歩いていると目立つけど、場所が場所だけに人通りは少なくて助かる。でもどの家の門衛からも怪訝な目で見られるけど。



 昼前には離宮に到着。門衛に二人のことを伝えてから離れに向かった。

「ただいま」
「旦那様、次の写真は神父とシスター修女でいきますか?」
「違うよ。まずは紹介くらいさせてよ。こちらが昨日言っていたキラ。それで一緒に付いてきたこちらのシスター見習いがセラフィマ」
「セラフィマと言います。セラと呼んでください。シスター修女見習いです。こちらはキラ。幼馴染です」
「え、幼なじみ? キラは孤児じゃなかったの?」
「キラが孤児だと言ったことはありませんよ? むしろ孤児は私です」
「私は売られそうになったから町を出ただけ」
「ん? あー、たしかに言われて……ないね……そういうことか。嘘をつかれたわけではないね……」

 セラが元孤児でシスター見習い。キラはセラの幼なじみ。セラが王都に来る時に、売られそうになったキラと一緒に来た。そしてセラは教会でシスター見習い、キラは孤児じゃないけど孤児院で暮らしていた。そんなところだろう。僕が勝手にキラのことを最後まで残ってしまった孤児だと思い込んでいただけなのか。



「キラです」
「でも二人とも似ていますね。姉妹と言ってもいいくらいですね、ケネス」
「マスターの意表を突くとは~なかなかしたたかですね~。そういうのは嫌いじゃないですよ~」
「先輩、家の横に教会でも建てますか?」
「建てようと思えば建てられるけど、そもそも必要?」
「神父さんに拾ってもらったので教会でシスター修女見習いをしていました。この服装を続ける必要もないです」
「セラ様、服装も一つの個性です。大切にすべきですよ」
「ねえねえ、キラちゃんはいくつ?」
「一六」



「「「「え?」」」」



「ちなみに私は二〇です」
「その娘らはドワーフじゃろ。背が低くて当然じゃ」
「二人とも人間じゃなかったの?」
「はっきりしたことは分かりませんが、おそらく二人ともドワーフです」
「年も聞かれなかった」
「いや、普通は会っていきなり年齢や種族は聞かないと思うけど……」



【名前:[セラフィマ]】
【種族:[ドワーフ]】
【年齢:[二〇]】

【名前:[キラ]】
【種族:[ドワーフ]】
【年齢:[一六]】



 うん、確認したら二人とも種族がドワーフだね。ドワーフって人間より背が低いとは聞いていたけど、こういう見た目だとは……。勝手にもう少しゴツいと思い込んでた。

 たしかによく見れば目鼻立ちは子供ではないなあ。でも背が低いから、どうしても幼く感じてしまう。耳がほんの少し尖ってるけど髪に隠れがちだし、よく見ないと分からない。エルフの僕の耳もそんなに長くないしね。

 うちの家族でミシェルを除けば背が高い方から僕、マリアン、エリー、カロリッタ、マイカ、リゼッタの順。その下にセラ、キラ、そしてミシェルと続くようだ。

 僕は日本人時代と背が変わっていないようなので一八〇弱。頭の位置で考えると、マリアンは僕より少し低い一七五くらい。エリーとカロリッタはマリアンより少し低いから一七〇前後。マイカは一六〇くらいかな。リゼッタは一五〇あるかどうか。セラが一四〇くらいでキラが一三〇くらい。ミシェルは五歳としては少し高くて一二〇くらい。

「まあ色々驚いたけど、人がいなくなってもあの教会にいたのはなんで? 言いにくいこともあると思うけど」
「私は町の教会の神父さんに拾われて教会で暮らしていたです。それで教会でシスター修女見習いをしていたです。それから王都の教会に来ることになりました。キラは口減らしで売られそうになったので誘いました。王都に入るのに身分証がなかったので私の妹ということにしたです。それで教会にも入りました。一週間も経たないうちに他の人はいなくなったので、それからは毎日食っちゃ寝でした」
「二人ともよく食べる」
「食い潰したんじゃないだろうね?」
「それは大丈夫です。食い潰すほど残ってなかったです」
「備品を売ってお金に替えてた。椅子とか机とか」
「壁の石材はだいぶ売ったので、もう床しか残ってなかったです。あれ以上壁を売ると屋根が崩れます」
「ボロボロにしたのは自分で?」
「神父のパオロさんは田舎に帰る前に、『もう君の教会だ』『売るも壊すも立て直すも自由だ』と言ったです。だから食費を稼ぐのに売って、結果としてボロボロになったです。いい材料を使っていましたから、なかなかいい値で売れましたよ?」

 こういうのもたくましいと言うんだろうか。

「ところでキラ、昨日は僕の方をじっと見て何も言わなかったけど、あれはなんで?」
「観察」
「観察? 僕を?」
「そう。ドワーフだと気付いてなかった。いい人っぽい。そして表情からロリコンじゃない」
「嫌な観察のされ方もあったもんだ……」
「それでここに来たら奥さんがいっぱい。ロリコンじゃない。そして私は子供じゃない。だからOK」

 そう言いながら親指をグッと突き出すキラ。

「何がOK?」
「それを女性に言わせるのはダメ」
「……」
「私たちもびっくりするくらいしたたかですね~、エリーさん」
「はい、素晴らしい理論と押しですね。旦那様がまったく言い返せていませんね」
「キラは少し言葉が足りないですが、意見ははっきり言います。そのキラがOKというならOKです。ちなみに私もOKです」
「押し売りは結構です」



◆ ◆ ◆



「ところで先生」
「ん?」
「おなかが空きました」
「空腹」
「もうすぐお昼だね」
「味はどんなものでも大丈夫です。とにかくたくさん必要です」
「あればあるだけいい」
「あればあるだけって……リゼッタ、お昼はどうする予定だったの?」
「はい、おそらくケネスは早く戻ってくると思ったので、帰ってきてから決めてもいいのではと話していました」
「いや、この離れをお借りしてるのに、急に厨房を使ったりするのは迷惑がかかるんじゃない?」
「それは大丈夫ですよね~エリーさん」
「はい、旦那様。料理長から旦那様の料理を見てみたいと言われています」
「先輩、バーベキューとかどうですか?」

 王族の離宮の庭でバーベキューとかいいの? 広さはいいけど、ガーデンパーティーとか大丈夫なんだろうか。

「ここで? まあ、庭を借りればできると思うけど、いいのかなあ」
「お前様、そのバーベキューというのは、たしか肉を焼いたりする料理ではなかったかのう?」
「そうだよ。安全な河原でしたりするね。本来は半日とか一日かけてじっくり焼くものだけど」
「それなら、みなも呼んで食べればいいと思うのじゃが」
「マイカ、殿下たちに許可と参加のことを聞いてもらえる?」
「分かりました」
「そういうわけで、セラ、キラ、許可が出たら庭で肉を焼くからね」
「分かりました」
「分かった」

 とりあえず、食材はいくらでもある。焼き肉ならタレが必要か。何種類か作っておこうか。



「先輩、庭を使っても大丈夫だそうです。姉たちも参加すると」
「よし、肉は大量に漬け込んだから、これから庭で準備をしようか」
「それが、離宮の使用人のみんなも参加させてほしいそうです」
「え? じゃあけっこう多い?」
「四〇人くらいです。みんな先輩が何か作るんじゃないかと期待していたそうで、料理長たちも今日は何も作らずに待っていたそうです。庭で肉を焼きながら食べるというのが気になるそうですね」
「何やってんの……。そりゃそれだけ期待されたら作るけどね。僕が戻らなかったらお昼なしだったんじゃない?」
「その時は急いで何か作るつもりだったそうです」
「……うん、まあいいや。じゃあすぐに用意をするから、みんな手伝って」
「「「「はい」」」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...