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第7章:新春、急展開
第34話:領主と代官の関係とは
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到着した翌日、レイは工事現場を順番に回って進捗状況の確認をしていました。特に問題はなく、エルフたちの協力もあって非常にスムーズに進んでいることがわかりました。そのレイは昼前になると巡回を終わらせ、仮の領主邸に戻ってきました。微妙な顔をしながら。
「レイ、何か悩みでも? 眉間にシワが寄っていますけど」
シーヴが気遣わしげにレイに声をかけました。ですが、レイは悩んでいたのではありません。困っていたのです。
「悩みじゃないんだけど、みんなが俺のことを領主様って呼ぶんだよな」
レイは自分の胸を指しました。そこには、ダンカン子爵領の騎士であり代官であるという徽章がありました。
~~~
「問題があったり、怪我をしたりしていないか?」
「大丈夫っす。領主様こそ、朝早くから大変っすね」
レイのジョブはロードですが、彼の言った「領主」はそのことではありません。
「俺は領主じゃなくて代官だぞ」
「あ、そうっしたね。でも、たいした違いはないっしょ」
「いや、全然違うからな」
自分は領主でないと伝えておいて、レイは別の場所へ移動しました。その後もレイが歩いていると、「領主様、おはようございます」などと声をかけられたのでした。「俺は領主じゃなくて代官だぞ」と返していましたが、このように言われたのが一人ではないので、どうしたものかと思ったのです。
~~~
「住民からしたら一緒じゃない?」
「いや、俺がそう呼ばれることはいいんだ。ただ、ローランドさんが領主で、シェリルがその娘。俺はあくまで代官を任されただけだ。これがローランドさんの耳に入れば気分がよくないだろ」
代官は領主の代理として、領主が決めた方針に従って町や村の管理をするだけです。代官本人に大きな権力はありません。レイはローランドから騎士号を与えられて準貴族になっていますが、ローランドあっての代官なのです。
古今東西、代官の立場で好き勝手やって領主から断罪された代官の話は山のようにあります。虎の威を借る狐、竜の威を借る蜥蜴になっては、いつかしっぺ返しを食らうでしょう。だからこそ、レイは代官という立場の範囲内で町を作り上げようとしているのです。
◆◆◆
昼食が終わるかどうかの時間になって、シェリルの乗った馬車が到着しました。
「レイさん、こんにちは」
「シェリル、思ったより早かったな」
「馬たちが頑張ってくれましたので」
街道には轍が多く、凹凸もかなりあります。荒れすぎると馬車が通れないので、冒険者などを雇って土や砂利を運び、補修を行わなければなりません。
ところが、クラストンから東は馬車がほとんど走っていないため、道はありませんが、轍もありません。あまり荒れていませんので、ある意味では馬車が走りやすい状態で、速度が出せたのです。
シェリルたちの昼食が終わったところで、レイは先ほどの件を相談することにしました。
「レイさん、代官のことをそう呼ぶ人は多いですよ。父は王都とクラストンを往復していますので、他の町に出かけることはそれほど多くありません。普段から自分たちの話を聞いてくれる代官のほうが、領主よりも親しみが持てるということです」
「でもローランドさんが聞いたら気分を悪くするだろ?」
「レイさんへの感謝を示すのに、可能なら領地を割譲したいくらいだと言っていましたね」
「勝手に割譲されても困る」
前世では会社員、現世では貴族の息子で冒険者。父親の仕事を手伝っていたせいで、ある程度の流れはわかります。しかし、それはあくまで横から見ていただけです。自分が金と人を動かす立場になってどうなるかは、まったくの未知数なんです。
「でも、レイ兄ならそこそこできそう。都市経営は得意でしょ?」
「いや、そこで期待値を上げられても困る」
レイは都市経営シミュレーションのようなゲームは嫌いではありませんでした。むしろ、好きだったでしょう。運の要素もある程度はあるでしょうが、こうすればこうなるという流れを見つけるのが好きだったんです。
「姉さんなら一瞬で潰すから」
「私は感性と直感で生きる女だからね」
よくそれで宅地開発の現場監督ができたものだとレイは呆れます。でも、それで問題なかったんですよ。
サラの場合、手を抜くことはありえません。宅地造成をするなら、徹底的に締め固めさせていました。
「旦那様とサラさんなら、住みやすい町ができそうです」
「ですねぇ。みんなのんびりと暮らせそうですぅ」
「お兄ちゃんは~、本来はのんびり屋だからね~」
「ご主人さまはのんびり屋です?」
「そうだよ~。のんびりしたいから~、その前にできるだけ詰めて働くんだよ~」
ラケルの目には、レイはものすごく働き者に見えています。それも間違いありません。でも、エリは兄の性格をよく知っていますね。頭も要領もいい兄は、あとで楽がしたいがために、最初に全力を出すのです。さっさと終わらせて、それからゆっくりするわけです。七月中に宿題を終わらせて、八月はゆっくりしたいんです。
「俺には領地を治めるノウハウなんてないから、サラとマイが作ってくれた町をしっかりと管理するだけだ」
そんなことを言っていた日もあったな、とレイは後日になってこの会話を述懐することになります。
「レイ、何か悩みでも? 眉間にシワが寄っていますけど」
シーヴが気遣わしげにレイに声をかけました。ですが、レイは悩んでいたのではありません。困っていたのです。
「悩みじゃないんだけど、みんなが俺のことを領主様って呼ぶんだよな」
レイは自分の胸を指しました。そこには、ダンカン子爵領の騎士であり代官であるという徽章がありました。
~~~
「問題があったり、怪我をしたりしていないか?」
「大丈夫っす。領主様こそ、朝早くから大変っすね」
レイのジョブはロードですが、彼の言った「領主」はそのことではありません。
「俺は領主じゃなくて代官だぞ」
「あ、そうっしたね。でも、たいした違いはないっしょ」
「いや、全然違うからな」
自分は領主でないと伝えておいて、レイは別の場所へ移動しました。その後もレイが歩いていると、「領主様、おはようございます」などと声をかけられたのでした。「俺は領主じゃなくて代官だぞ」と返していましたが、このように言われたのが一人ではないので、どうしたものかと思ったのです。
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「住民からしたら一緒じゃない?」
「いや、俺がそう呼ばれることはいいんだ。ただ、ローランドさんが領主で、シェリルがその娘。俺はあくまで代官を任されただけだ。これがローランドさんの耳に入れば気分がよくないだろ」
代官は領主の代理として、領主が決めた方針に従って町や村の管理をするだけです。代官本人に大きな権力はありません。レイはローランドから騎士号を与えられて準貴族になっていますが、ローランドあっての代官なのです。
古今東西、代官の立場で好き勝手やって領主から断罪された代官の話は山のようにあります。虎の威を借る狐、竜の威を借る蜥蜴になっては、いつかしっぺ返しを食らうでしょう。だからこそ、レイは代官という立場の範囲内で町を作り上げようとしているのです。
◆◆◆
昼食が終わるかどうかの時間になって、シェリルの乗った馬車が到着しました。
「レイさん、こんにちは」
「シェリル、思ったより早かったな」
「馬たちが頑張ってくれましたので」
街道には轍が多く、凹凸もかなりあります。荒れすぎると馬車が通れないので、冒険者などを雇って土や砂利を運び、補修を行わなければなりません。
ところが、クラストンから東は馬車がほとんど走っていないため、道はありませんが、轍もありません。あまり荒れていませんので、ある意味では馬車が走りやすい状態で、速度が出せたのです。
シェリルたちの昼食が終わったところで、レイは先ほどの件を相談することにしました。
「レイさん、代官のことをそう呼ぶ人は多いですよ。父は王都とクラストンを往復していますので、他の町に出かけることはそれほど多くありません。普段から自分たちの話を聞いてくれる代官のほうが、領主よりも親しみが持てるということです」
「でもローランドさんが聞いたら気分を悪くするだろ?」
「レイさんへの感謝を示すのに、可能なら領地を割譲したいくらいだと言っていましたね」
「勝手に割譲されても困る」
前世では会社員、現世では貴族の息子で冒険者。父親の仕事を手伝っていたせいで、ある程度の流れはわかります。しかし、それはあくまで横から見ていただけです。自分が金と人を動かす立場になってどうなるかは、まったくの未知数なんです。
「でも、レイ兄ならそこそこできそう。都市経営は得意でしょ?」
「いや、そこで期待値を上げられても困る」
レイは都市経営シミュレーションのようなゲームは嫌いではありませんでした。むしろ、好きだったでしょう。運の要素もある程度はあるでしょうが、こうすればこうなるという流れを見つけるのが好きだったんです。
「姉さんなら一瞬で潰すから」
「私は感性と直感で生きる女だからね」
よくそれで宅地開発の現場監督ができたものだとレイは呆れます。でも、それで問題なかったんですよ。
サラの場合、手を抜くことはありえません。宅地造成をするなら、徹底的に締め固めさせていました。
「旦那様とサラさんなら、住みやすい町ができそうです」
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「お兄ちゃんは~、本来はのんびり屋だからね~」
「ご主人さまはのんびり屋です?」
「そうだよ~。のんびりしたいから~、その前にできるだけ詰めて働くんだよ~」
ラケルの目には、レイはものすごく働き者に見えています。それも間違いありません。でも、エリは兄の性格をよく知っていますね。頭も要領もいい兄は、あとで楽がしたいがために、最初に全力を出すのです。さっさと終わらせて、それからゆっくりするわけです。七月中に宿題を終わらせて、八月はゆっくりしたいんです。
「俺には領地を治めるノウハウなんてないから、サラとマイが作ってくれた町をしっかりと管理するだけだ」
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