転生悪役令息の俺、婚約破棄して脇役第二王子を射止めたい!

櫻坂 真紀

文字の大きさ
上 下
4 / 13

4

しおりを挟む
「さ、寒い……。」

 俺、どうしたんだろう?
 体が勝手に震えて……それに、氷の中に居るみたいに冷たくて──。

「アルト様、しっかり……!今、僕が温めますから。」

 誰かが、俺の手を優しく握ってくれる。
 
 何て……温かい手なのだろうか。
 まるで、優しい陽だまりの中に居るみたいだ。

「あ、れ……俺?」

「良かった、目が覚めたのですね。」

「ノア、さん……何で?ここ、もしかして医務室?」

「アルト様の様子がおかしかったので、跡を追いかけたんです。そしたら、沼にあなたが沈んでいくのが見えて……。」

「そう、だったのか。あの……ごめんなさい!俺、あなたの教科書を──。」

 ノアにちゃんと謝らないと。
 
 俺は今、アルトだ。
 
 アルトの辛さや嫉妬心は、一番近くに居る俺が、一番分かってあげられる。
 だから悪い事した責任も、一緒に取ってあげたいんだ──。

「アルト様……僕の教科書は、あなたから頂いたこの教科書です。」

「へ……?」

「アルト様……この教科書、すごいですね。あちこちに書き込みがあります。何度も何度も問題を解いた跡もありますし……とても努力されている証ですね。僕、そんなあなたを尊敬します。」

「あ、ありがとう……ありがとう──!」

 ノアの言葉に、俺の目から涙が零れた。
 
 これは……きっと俺の中にある、アルトの気持ちだ。
 
 うん、そっか……アルトは陰で、こういう努力をずっとしてたんだな。

『──見た目よりも、もっと中身を気に掛けたらどうだ。』

 今朝、そんな事をサリュー様に言われたけど……アルトはアルトなりに努力してた。
 
 肝心の好きな人に、全く気づかれていなかっただけで──。

※※※

 コン、コン。

「失礼するよ。」

「全く、何をやったんだ、アルトは……。」

 カイル様とサリュー様だ……。

「アルト、お前という奴はなんて馬鹿な事をしたんだ!二人から知らせを貰った時は、呆れて物が言えなかったぞ?下らない事で呼び出された俺の迷惑を考えろ!」

「……申し訳ありません。」

「おまけに、ノアに癒しの魔法まで使わせて……。光の魔法は貴重なんだ、こんな事に使っていい物ではない。」

 こんなって……俺、自業自得とはいえ凍死寸前だったのに……。

「あの、サリュー様。僕なら平気ですから……!」

 でもそうだったな……。
 
 ノアは、光魔法の貴重な使い手だ。
 俺はそれを、虐めの後始末の尻ぬぐいに使わせてしまった──。

「ごめんなさい、ノアさん!」

「おい、俺にも謝らないか!」

「……兄上、もうその辺りで。これ以上は、アルトの体に障ります。せっかくこうして新しい制服を持ってきたのだから、着替えて貰いましょう。」

「ハァ……。ほら、受け取れ、アルト。」

 今、カイル様、俺の事を助けてくれた?
 
 俺のこんな無様な姿を見て、サリュー様みたく呆れてないの?
 ゲームの中みたいに、俺の事を嫌いになってない……?

 ノアになだめられ、サリュー様は医務室を出て行った。

 そして、俺の傍にはカイル様が──。
 
「アルト……君は昔から変わらないね。思い込んだら一直線と言うか、見ていてハラハラするよ。あの子の叫び声が聞こえ駆けつけると、君が沼に沈んで行く姿が見えたものだから、本当に驚いた。」

「俺、考えが足りませんでした。今日は……皆に本当に迷惑をかけてしまって……。」

「でも、アルトはちゃんと彼にも兄上にも謝ったじゃない?今までの君は、意地を張って謝らなかったり、言い訳を述べて誤魔化す所があったのに……今日はちゃんと素直に謝れて、立派だったよ?」

「だって……悪い事をして謝らないのは、人として最低です。それにそんなんじゃ……好きな人に嫌われちゃう。」

「君は、本当に兄上が好きだね。でもそんな一途なところが、君の最大の魅力だ。大丈夫……君のいい所は、俺だけでなく、ちゃんと兄上にも伝わるよ。じゃあ俺はもう行くよ。風邪を引かない内に、早く着替えるんだよ──。」
 
 ……違うよ、カイル様。
 今の俺が好きなのはサリュー様でなく、カイル様……あなたなんだ──。

 でも駄目だ……。
 今のままじゃ、自分の気持ちは伝えられない。
 
 こうして、俺がサリュー様の婚約者である限りは、絶対に。
 
 だから何とかして、この婚約を解消しないと。

 俺の恋は、婚約破棄からがスタートだ──!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ある意味王道ですが何か?

ひまり
BL
どこかにある王道学園にやってきたこれまた王道的な転校生に気に入られてしまった、庶民クラスの少年。 さまざまな敵意を向けられるのだが、彼は動じなかった。 だって庶民は逞しいので。

婚約破棄されたら王太子がストーカーになりました

ミクリ21
BL
婚約破棄されたユリウスは、素直に破棄は受け入れた。だが、受け入れた直後に王太子から婚約を申し込まれた。 婚約破棄の現場で………。

異世界帰りの男は知っていた、何事も力で解決した方が手っ取り早い~容赦しない事を覚えて来た男の蹂躙伝~

こまの ととと
BL
かつて異世界に飛ばされた男は、無敵の能力を身に着けて帰還する。 久しぶりに帰って来た現代日本で再び始まる学生生活。しかし、形は違えどロクデナシというものはそこら中に転がっている現状を確認。 平穏な学生生活を送る為、トラブルを一捻りにしながら己の道を突き進むのであった。 ……美人に囲まれる物語でもある。果たして新しい愛の形は発生するのか?

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

婚約破棄だ!〜キレた婚約者が、王子を蹴り潰したら王子がドM化した〜

ミクリ21
BL
タイトルのままです。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

婚約破棄されたから伝説の血が騒いでざまぁしてやった令息

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されたら伝説の血が騒いだ話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...