転生悪役令息の俺、婚約破棄して脇役第二王子を射止めたい!

櫻坂 真紀

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「さ、寒い……。」

 俺、どうしたんだろう?
 体が勝手に震えて……それに、氷の中に居るみたいに冷たくて──。

「アルト様、しっかり……!今、僕が温めますから。」

 誰かが、俺の手を優しく握ってくれる。
 
 何て……温かい手なのだろうか。
 まるで、優しい陽だまりの中に居るみたいだ。

「あ、れ……俺?」

「良かった、目が覚めたのですね。」

「ノア、さん……何で?ここ、もしかして医務室?」

「アルト様の様子がおかしかったので、跡を追いかけたんです。そしたら、沼にあなたが沈んでいくのが見えて……。」

「そう、だったのか。あの……ごめんなさい!俺、あなたの教科書を──。」

 ノアにちゃんと謝らないと。
 
 俺は今、アルトだ。
 
 アルトの辛さや嫉妬心は、一番近くに居る俺が、一番分かってあげられる。
 だから悪い事した責任も、一緒に取ってあげたいんだ──。

「アルト様……僕の教科書は、あなたから頂いたこの教科書です。」

「へ……?」

「アルト様……この教科書、すごいですね。あちこちに書き込みがあります。何度も何度も問題を解いた跡もありますし……とても努力されている証ですね。僕、そんなあなたを尊敬します。」

「あ、ありがとう……ありがとう──!」

 ノアの言葉に、俺の目から涙が零れた。
 
 これは……きっと俺の中にある、アルトの気持ちだ。
 
 うん、そっか……アルトは陰で、こういう努力をずっとしてたんだな。

『──見た目よりも、もっと中身を気に掛けたらどうだ。』

 今朝、そんな事をサリュー様に言われたけど……アルトはアルトなりに努力してた。
 
 肝心の好きな人に、全く気づかれていなかっただけで──。

※※※

 コン、コン。

「失礼するよ。」

「全く、何をやったんだ、アルトは……。」

 カイル様とサリュー様だ……。

「アルト、お前という奴はなんて馬鹿な事をしたんだ!二人から知らせを貰った時は、呆れて物が言えなかったぞ?下らない事で呼び出された俺の迷惑を考えろ!」

「……申し訳ありません。」

「おまけに、ノアに癒しの魔法まで使わせて……。光の魔法は貴重なんだ、こんな事に使っていい物ではない。」

 こんなって……俺、自業自得とはいえ凍死寸前だったのに……。

「あの、サリュー様。僕なら平気ですから……!」

 でもそうだったな……。
 
 ノアは、光魔法の貴重な使い手だ。
 俺はそれを、虐めの後始末の尻ぬぐいに使わせてしまった──。

「ごめんなさい、ノアさん!」

「おい、俺にも謝らないか!」

「……兄上、もうその辺りで。これ以上は、アルトの体に障ります。せっかくこうして新しい制服を持ってきたのだから、着替えて貰いましょう。」

「ハァ……。ほら、受け取れ、アルト。」

 今、カイル様、俺の事を助けてくれた?
 
 俺のこんな無様な姿を見て、サリュー様みたく呆れてないの?
 ゲームの中みたいに、俺の事を嫌いになってない……?

 ノアになだめられ、サリュー様は医務室を出て行った。

 そして、俺の傍にはカイル様が──。
 
「アルト……君は昔から変わらないね。思い込んだら一直線と言うか、見ていてハラハラするよ。あの子の叫び声が聞こえ駆けつけると、君が沼に沈んで行く姿が見えたものだから、本当に驚いた。」

「俺、考えが足りませんでした。今日は……皆に本当に迷惑をかけてしまって……。」

「でも、アルトはちゃんと彼にも兄上にも謝ったじゃない?今までの君は、意地を張って謝らなかったり、言い訳を述べて誤魔化す所があったのに……今日はちゃんと素直に謝れて、立派だったよ?」

「だって……悪い事をして謝らないのは、人として最低です。それにそんなんじゃ……好きな人に嫌われちゃう。」

「君は、本当に兄上が好きだね。でもそんな一途なところが、君の最大の魅力だ。大丈夫……君のいい所は、俺だけでなく、ちゃんと兄上にも伝わるよ。じゃあ俺はもう行くよ。風邪を引かない内に、早く着替えるんだよ──。」
 
 ……違うよ、カイル様。
 今の俺が好きなのはサリュー様でなく、カイル様……あなたなんだ──。

 でも駄目だ……。
 今のままじゃ、自分の気持ちは伝えられない。
 
 こうして、俺がサリュー様の婚約者である限りは、絶対に。
 
 だから何とかして、この婚約を解消しないと。

 俺の恋は、婚約破棄からがスタートだ──!
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