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夫が死んだ日、私たちは手を取り合い笑みを浮かべた──。

前編

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 私の夫には、愛人が居る。

 それは、とても美しい女で……そこそこ美しいと言われる私でも、とても太刀打ちできなかった。

 だけど……何故か彼女は、いつも寂しい目をしていた──。



「あいつは、奴隷市場で買って来た女だ。何でも、昔はいい家の令嬢だったそうで……どことなく品があるだろう?それに、お前よりも美人で若くて……実に良い買い物をした」

「そう……ですね」

 夫は彼女をこの家に住まわせ……昼間は使用人として、夜は愛人として可愛がって居た──。

「……随分と、真面目に働くのね」

「奥様……」

「あなたは、夜もあの男の相手をしてばかりで、ろくに眠れていないでしょう?ここは良いから、少し休みなさい。」

 私の言葉に、彼女は目を見開き私を見た。

「奥様は……私を、恨んではいないのですか?」

「……あなたが、夫の寵愛をいい事に、私を見下すならそうなったかも知れませんが……。それに、私にも負い目がありますから──」



 私は、子が産めぬ身体だった。
 それは、結婚してからある重い病に罹り、そうなってしまったのだ。

 だから夫が私に女を感じなくなり、他の女に走るのはある意味仕方のない事だと思っている──。

「……と、言う事なの。でも本当は、あなたが自由に生きられるといいんだけど……。せっかく奴隷から解放されても、愛人をやらされるのは……何だか切なく思うわ」

「奥様……私──」

 その時、私は彼女の瞳の中に、あるものを見た。

 彼女の寂しい目の中に、密かに宿る……復讐という名の炎を──。



 激しい音と共に、グシャリと何かが潰れる音がした。

 駆けつけて見れば……夫が、階段の下で呻き声を上げていた。

 見れば、彼の首はおかしな方向へ曲がっている。

 これは……もう、助かりはしないだろう──。

 そんな彼の目は、駆けつけた私ではなく……別の方を見ていた。

 階段の、上……?

 そこには、あの愛人が立って居た──。
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