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王都への旅路 〜自称婚約者〜
おっさん、訝しむ
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夕方にお腹が空いて目を覚ました。
ずっと寝ていただけなのに、お腹は空くんだな、とぐううと音を出すお腹を抑えながら起き上がる。
「体調はどうだ?」
「ああ、まだだるさは残ってるけど、大丈夫」
ロイに聞かれて、笑顔で答えた。
「歩けますか?」
ディーに聞かれて、ベッドから降りると、思ったよりも体が軽くなっていて、大丈夫だと答える。
「それじゃあ、食事に行きましょうか」
食堂の窓際の席に座り、綺麗な景色を眺めながら食事をする。
夕陽が湖に反射してとても綺麗で、せっかくいい天気だったのに、1日中ベッドにいたことが悔しくなった。
「ショーヘー、もっと肉食えよ」
そう言われてロイが自分の皿から俺の皿に肉を移動させてくる。
「こんなにいらないよ、お前は肉ばっか食い過ぎ。野菜も食え」
盛られた肉をロイの皿に返しながら、野菜も合わせて皿に盛ると、これは嫌、と言いながら嫌いな野菜だけを俺の皿に戻してくる。
「お前なー」
子供のような行動に呆れつつ、食え、食わないと言い合った。
「こんばんは、相席よろしいですか?」
そんな翔平たち3人の席に、エドワードとブラッドが近付き、声をかけてきた。
相席することを同意した後、ディーがエドワードとブラッドを紹介してくれる。
今回のマチルダの件で協力してくれたと聞き、会釈した。
「初めまして、ショーヘイさん」
「こちらこそ、初めまして」
立ち上がって2人と握手を交わし、再び席に座る。
金髪の可愛らしい少年だと思ったが、ゲーテであったミーナと同じハーフリングで、れっきとした成人男性だとその雰囲気と言葉使いで理解した。
一緒にいるブラッドは、ロイのようながっしりとした筋肉をつけ、その剥き出しになっている腕には、古傷がいくつも残っていた。
彼の雰囲気から、騎士というよりも傭兵に近いのではないかと、なんとなくそう思った。
「昼間、自警団の方がいらっしゃって証言を取って行かれましたよ」
「そうでしたか。協力していただいて、ありがとうございます」
「私もあの元公爵令嬢は嫌いですから」
エドワードがにこやかに、だがズバリと言い放つ。
「皆さんはこれからどちらに?」
「王都へ帰ります。エド様は?」
ディーが端的に答える。
この旅の目的地が王都なのだから、間違ったことは言っていない。
「そうなんですか。私たちはもうしばらく滞在しようかと思っています」
「そういやブラッド。お前、帝国に落ち着いたのか?」
突然、ロイが思い出したようにブラッドに聞いた。
「ああ、まあな。今は帝国のギルドに所属して、色々やってるよ」
「何度騎士団にって誘っても、1箇所に留まる気はねえって言ってたお前がねぇ」
ロイがニヤニヤして、エドワードとブラッドを見る。
「ブラッドとは2年前に商会の護衛をきっかけに知り合って、今はほぼ私の専属です。
私としてはいい加減、商会所属になって欲しいんですけどね」
エドワードがチラッとブラッドを見る。
そんなエドワードとブラッドの耳にペアピアスが光るのが見え、2人がそういう関係だと気付いた。
「俺はまだ色んなことをやりてーんだよ」
ブラッドが苦笑した。
「いっつもこう言ってはぐらかされるんですよ」
エドワードがプウと頬を膨らませムクれる。
そんなエドワードの見た目そのままの子供っぽい仕草に、クスッと笑った。
「なんだぁ、ブラッド。恋人を優先させてないのか。そりゃあダメだなー」
ロイがエドワードの尻馬に乗りつつ笑う。
「べ、別にエドを優先させてねーわけじゃ…」
「この間だってデートの約束を蹴ってダンジョンに行っちゃったじゃない」
エドワードがここぞとばかりにブラッドを責める。
だが俺はダンジョンという言葉に心の中で食いついてしまった。
この世界でもゲームのようなダンジョンがあるのか、と少しだけワクワクした。話を聞きたい、と思ったがここは我慢する。
「デートの約束を蹴るとは、それはいかんなぁ。エド、お詫びしてもらったか?」
「まさにこの旅行がお詫びなんですよ」
エドワードがニコニコと話が合ったロイと会話する。
「今回の旅行で、たくさん我儘を聞いてもらうつもりです」
「おー、そうした方がいい」
「旅行って言ってもSEXしてるだけじゃねーか」
ブラッドが小さい声で文句を言い、その言葉に、ブフッ!とお茶を噴き出してしまい、ロイがニヤニヤしながらテーブルナプキンを差し出してくる。
「僕がしたいんだからいいの。これも我儘の一つだよ」
エドワードの一人称が「私」から「僕」へ変わり、ブラッドには素を出して甘えている姿に赤面してしまう。
「なんだショーヘーはこういう話は苦手か?」
ブラッドがニヤニヤしながら赤面した様子を揶揄う。
「ショーヘーは純粋なんだよ。可愛いだろ~?」
そう言ってロイが自分に抱きついてくる。
「可愛いは余計だ!」
グイグイとロイを押し返しながら文句を言う。
「こいつ、こんな見た目だが、ベッドではすげ~んだぞ~」
ブラッドがさらに揶揄うために言葉を続け、エドワードもそれに便乗して色気を全面に出しながら上唇をペロリと舐め、俺を見る。
思わず2人が絡み合う姿を想像してしまい、顔だけでなく全身を真っ赤に染めた。
それを見たディーが笑いながら助け舟を出す。
「ショーヘイさんはこういう話にはあまり免疫がないので、ほどほどにしていただけますか」
そうは言いつつ、クスクスと笑っている。
「ああ、すみません。可愛くてつい」
可愛いエドワードにそう言われて、口を真横に結んで今度は俺がムクれた。
免疫がないわけじゃない。
自分だって元の世界でこういう話はよくしていたし、友人を揶揄ったし、揶揄われることもあった。
だがこっちの世界で抱かれる側になったことで、どうも今までとは勝手が違う。だからどうしても恥ずかしさが先立ってしまうのだ。
何度もこうして揶揄われるが、今だに慣れず赤面してしまう。
エドワードとブラッドの食事が運ばれて来て、それではこれで、と挨拶を交わして席を立つ。
「あ、ショーヘイさん」
エドワードに呼び止められた。
「今度、帝国にも遊びに来てくださいね」
そう言われたので、微笑みながら、今度ぜひ、と返すと会釈した。
ディーにでも、ロイにでもない、俺に声をかけたことが引っかかる。社交辞令にしてもおかしい。
そう思いつつ食堂を出たが、背中にずっとエドワードの視線を感じていた。
部屋に戻ってから、すぐに2人に確認する。
「あの人に俺がジュノーだって話してないよな?」
「話してないですよ。でも…気付いているでしょうね…」
ディーが苦笑する。
「最後のあれはショーヘーがジュノーだとわかってるからだな」
ロイもため息をついた。
その様子に、やっぱり2人とも気付いたか、と思った。
「ブラッドとのお忍び旅行とは言ってましたけど」
「目的はジュノーだろうな」
ですよねー、とディーが笑う。
「わざわざ言ったということは、隠す必要もないということでしょうが…読めませんよ。彼の行動が」
エドワードの目的や考えが想像できず苦笑した。
エドワードがどのような人物なのか、王都ついてから調査した方がいいと心に決めた。
「帝国の商会の御曹司って言ったっけ…?」
以前に見た世界地図を頭に思い浮かべる。
確か、サンドラーク公国よりも国土面積が広い、かなり大きな国だったはずだ。
確かグランベル帝国だったかな。
サンドラーク公国と同様に君主制だったはずだ。
そう記憶を辿り、こんど詳しく聞こうと思った。
「クラークって苗字があったけど、貴族なのか?」
「貴族ではありませんが、苗字を名乗ることを許される者はいますよ。
特に大規模な商会主は大体苗字持ちですね。
平民でも上流階級になればなるほど、苗字持ちは多いです」
「へぇ…、区別つかないな」
苗字があるから貴族というわけではないと聞いて、今後は事前に、もしくは後から確認する必要があると思った。
貴族と平民で対応を変える必要性が今後出て来るかもしれない。
「クラーク商会ってそんなに大きいの?」
「そりゃあもう。金さえ払えば、ありとあらゆるものが手に入ると言われてる」
「我が国にもクラークの店はかなりありますよ。名だたる街には、必ずと言っていいほどにね。名前は出さずともクラーク傘下の店も多いですし」
「へぇー…」
「おそらく、貴方のことは、喉から手が出るほど欲しいでしょうね。」
「まあ向こうも俺たちの関係に気付いているから、無理矢理奪うってことはしてこないだろうが…」
「やっぱり早急に私たちの関係を公表しないと…」
ディーが考え込むような仕草をして黙り込んだ。
マチルダに続いてエドワード。
次から次へと火種になりそうな人物の登場に、ふうと息を吐いてベッドへ倒れ込む。
「疲れた?」
「ちょっとな」
「そっかー…残念」
ベッドに寝転んだ翔平の隣にロイが上がって来ると上から覗き込まれる。
「残念って何が」
「明日出発だろ?ベッドともまたしばらくお別れだからSEXしたかったのに」
ロイの言葉に、幻滅したような表情をする。
「お前さ…、俺の体が目当てなの?」
「え!?まさか!?」
そんなわけないじゃん、と言うが、じっと体を見る。
「好きな人を抱きたいとは思うのは自然なことだろ?」
「そうですね」
いつの間にか考え込んでいたディーも近付いて来て、ベッドの上ではさまれ、これはマズイ展開じゃないのかと焦る。
「えっと…む、無理だぞ?できないぞ」
「だいぶ動けるようになったでしょう?」
「お前は横になってるだけでいいんだ」
ジリジリと迫る2人に青ざめる。
2人の手が胸に触れ、足に触れ、滑るように動き出す。
「む、無理だって!!」
その手を払い除けながら叫ぶと、2人がクスクスと笑う。
「な」
また揶揄われた、とここで気付いた。
「冗談ですよ。まだ完全に回復してないのに」
「早く回復してくれよな」
2人にチュッとキスされ、回復したらしたで2人を相手にするという事実にため息をつく。
体力つけなくちゃ。
そう決意する。
長湯は出来ないが、ぬるめの温泉に浸かって、心身ともにリフレッシュした後、昨日と同じように3人で川の字になってベッドに入った。
「貴族と平民って結婚出来ないのか?」
聞こう聞こうと思って、ずっとタイミングを逃し、また忘れるところだったと、何の脈絡もなく質問する。
「え?出来ますよ。どうしてそんなこと聞くんですか?」
「マチルダがロイと結婚するのに、ロイが貴族じゃなくちゃならないって…。だからロイの叙爵を激推ししたんだろ?」
「ああ、そういうことですか。
貴族によっては平民との結婚を許さないという家もありますからね。ロマーノがまさにそれです」
「下賤の者の血を混ぜたくないんだそうだ。肩書きがついただけで血が変わるわけじゃねーだろって。アホらし」
「そういうことね。じゃあグレイは大丈夫だな」
俺の言葉に、2人が納得する。
「グレイを心配してたんですね」
「ああ。だってグレイは平民なんだろう?ジュリアさんと結婚出来るか心配でさ」
「グレイが伯爵家に入ることになるんだよな…。グレイ・イグリットになるのか…」
「違和感が…」
2人の口調にクスッと笑う。
「なんだよ、グレイが貴族になるのが嫌なのか?」
「そうじゃありませんけど、慣れるまでしばらくかかりそうです」
「ま、グレイはグレイだ」
「獣士団、辞めちゃうのかな」
「ゆくゆくはそうなるだろうな。
イグリットで生活することになるんだろうな」
「そっかぁ…なんか、寂しいな」
そう言うと、2人が両側から俺に抱きつき、体を寄せた。
「俺たちはずっと一緒だ」
「そうですよ。それに転移魔法陣が復活すれば、すぐに行けますから」
「あ、そうだ。転移魔法陣」
話の流れから、言わなければならないと思っていたことをもう一つ思い出した。
もう今度からディーのようにメモ帳でも持ち歩こうかと真剣に考える。
「転移魔法陣がどうしました?」
「チャールズが使っただろ?俺や自分を転移させた」
「ああ、あれね…」
2人が峠で翔平を奪われた場面を鮮明に思い出し、苦笑する。
目の前で一瞬で消えた翔平に、あの時の事を思い出すと今だにゾッとする。
「あれは、マントの裏側に転移魔法陣が描かれていたんだ」
「え!!!」
ディーがガバッと起き上がる。
「だから、あのマントがあって、それを起動できる魔力さえあれば個人で使えるものだと思う」
ディーが驚きを隠せない表情で考え込む仕草をした。
「遺跡はあの後黒騎士たちによって抑えてあります。
おそらくは、サイファーかユリアが調査の指示を出しているはずですが…」
やることが山積みだ…とディーが俺の隣に倒れ込む。
「チャールズが使おうとしていた魔法陣は、元の世界に戻るためのものだって言ってた。
あの遺跡を研究していたエリックの資料もたくさん残っていたし、あの遺跡には何かあると思うって、ずっと言おうと思ってたんだよ」
やっと言えた、と心のつっかえが一つ取れた。
「元の世界に帰る魔法陣…?」
ロイが小さく呟く。
「あれを使えば、ショーヘーも帰れるのか…?」
「わからない。チャールズは帰れるって言ってたけど、本当に帰れるかどうかは、俺にはわからない」
ロイとディーがギュッと俺を抱きしめる手を強くした。
「帰り、たいん…ですか?」
ディーが震える声で聞く。
「帰りたい…と思ってた」
素直に答える。その俺の言葉に、ますます強く手を握られた。
「思ってたって…今は?」
「今は思ってないよ。俺はここにいる。そう決めたんだ」
「それって…」
「帰る方法があったとしても、俺は帰らないよ」
2人が不安になっているのが、触れた体から伝わってくる。
だから、腕を広げて2人の頭を引き寄せ、その額にキスをする。
「俺の居場所はここだ。お前たちの隣に居させてくれるんだろ?」
ニコリと笑って、2人を見ると、2人が少しだけ上半身を起こし、俺の顔を見下ろしてくる。
「ショーヘー」
「ショーヘイさん」
2人の顔が近付いたと思ったら、ゴチンと2人の頭がぶつかった。
「譲れよ!」
「ロイこそ!」
キスしようとするタイミングが同時で、目の前で歯を剥き出して喧嘩を始めた2人に破顔した。
「なんだよ、仕方ねーなー」
体を起こすと、少しだけ俺に近かったディーの頬を両手で包むと、俺から口付ける。重ねるだけの、長めに角度を変えながらキスすると、ディーがポーッとうっとりした表情をする。
「なんでディーが先!?」
「近かったからだよ」
笑いながら、今度はロイへ唇を重ねる。だが、すぐにロイに主導権を握られ、舌を絡め取られた。
「ん…」
ロイの頭を掴むと、深くなるキスに俺の方がうっとりと目を閉じる。
ゆっくりと押し倒されて、舌を絡ませあって互いの唇を貪りあった。
「狡い!私も!」
ディーが憤慨するが、ロイがフンと鼻で笑い唇を譲らない。
ペロリと俺の唇を舐めた後、ディーを煽るように視線を向けると、ディーがムッとした表情で俺に覆い被さり、唇を重ねた。
舌を絡め取られ、吸われ、ディーの舌が歯列を、唇をなぞる。
2人の濃厚なキスに、ゾクゾクと快感が背筋を駆け上がり、思わず、喘ぎ声を出してしまった。
「あ…ん」
唇を離し、上から翔平を見下ろすと、目を潤ませて2人を見つめる表情にグッと口を真横に結ぶ。
「やっぱり…ダメ…?」
ロイが涙目で聞いてくる。
「ごめん…」
あんなキスをして途中で止めるのは辛いだろうが、もしここで2人を受け入れてしまったら、きっと明日はまた動けなくなって出発が遅れる。
「ごめんな…」
お預けを食らって項垂れる2人に苦笑しつつ、2人の頭を撫でた。
ハァァと魂が抜けるようなため息をついた2人が俺の隣に倒れ込む。
「生殺しだ…」
ディーが呟き、ロイが泣き真似をした。
本当は俺だって2人を受け入れたいと思う。というか俺だってSEXしたい。39歳になったが、まだまだ性欲はある。8年もの長い間、誰とも肌を重ねてこなかったせいもあるのか、抱かれる側だったとしても、肌を合わせる気持ち良さを思い出し、その行為に溺れているのは間違いない。
だるさが取れたらな。
口には出さず、心の中で呟く。
ただ、お預けを食らった2人が、解禁された時に爆発しないといいな、と少しだけ心配なった。
ずっと寝ていただけなのに、お腹は空くんだな、とぐううと音を出すお腹を抑えながら起き上がる。
「体調はどうだ?」
「ああ、まだだるさは残ってるけど、大丈夫」
ロイに聞かれて、笑顔で答えた。
「歩けますか?」
ディーに聞かれて、ベッドから降りると、思ったよりも体が軽くなっていて、大丈夫だと答える。
「それじゃあ、食事に行きましょうか」
食堂の窓際の席に座り、綺麗な景色を眺めながら食事をする。
夕陽が湖に反射してとても綺麗で、せっかくいい天気だったのに、1日中ベッドにいたことが悔しくなった。
「ショーヘー、もっと肉食えよ」
そう言われてロイが自分の皿から俺の皿に肉を移動させてくる。
「こんなにいらないよ、お前は肉ばっか食い過ぎ。野菜も食え」
盛られた肉をロイの皿に返しながら、野菜も合わせて皿に盛ると、これは嫌、と言いながら嫌いな野菜だけを俺の皿に戻してくる。
「お前なー」
子供のような行動に呆れつつ、食え、食わないと言い合った。
「こんばんは、相席よろしいですか?」
そんな翔平たち3人の席に、エドワードとブラッドが近付き、声をかけてきた。
相席することを同意した後、ディーがエドワードとブラッドを紹介してくれる。
今回のマチルダの件で協力してくれたと聞き、会釈した。
「初めまして、ショーヘイさん」
「こちらこそ、初めまして」
立ち上がって2人と握手を交わし、再び席に座る。
金髪の可愛らしい少年だと思ったが、ゲーテであったミーナと同じハーフリングで、れっきとした成人男性だとその雰囲気と言葉使いで理解した。
一緒にいるブラッドは、ロイのようながっしりとした筋肉をつけ、その剥き出しになっている腕には、古傷がいくつも残っていた。
彼の雰囲気から、騎士というよりも傭兵に近いのではないかと、なんとなくそう思った。
「昼間、自警団の方がいらっしゃって証言を取って行かれましたよ」
「そうでしたか。協力していただいて、ありがとうございます」
「私もあの元公爵令嬢は嫌いですから」
エドワードがにこやかに、だがズバリと言い放つ。
「皆さんはこれからどちらに?」
「王都へ帰ります。エド様は?」
ディーが端的に答える。
この旅の目的地が王都なのだから、間違ったことは言っていない。
「そうなんですか。私たちはもうしばらく滞在しようかと思っています」
「そういやブラッド。お前、帝国に落ち着いたのか?」
突然、ロイが思い出したようにブラッドに聞いた。
「ああ、まあな。今は帝国のギルドに所属して、色々やってるよ」
「何度騎士団にって誘っても、1箇所に留まる気はねえって言ってたお前がねぇ」
ロイがニヤニヤして、エドワードとブラッドを見る。
「ブラッドとは2年前に商会の護衛をきっかけに知り合って、今はほぼ私の専属です。
私としてはいい加減、商会所属になって欲しいんですけどね」
エドワードがチラッとブラッドを見る。
そんなエドワードとブラッドの耳にペアピアスが光るのが見え、2人がそういう関係だと気付いた。
「俺はまだ色んなことをやりてーんだよ」
ブラッドが苦笑した。
「いっつもこう言ってはぐらかされるんですよ」
エドワードがプウと頬を膨らませムクれる。
そんなエドワードの見た目そのままの子供っぽい仕草に、クスッと笑った。
「なんだぁ、ブラッド。恋人を優先させてないのか。そりゃあダメだなー」
ロイがエドワードの尻馬に乗りつつ笑う。
「べ、別にエドを優先させてねーわけじゃ…」
「この間だってデートの約束を蹴ってダンジョンに行っちゃったじゃない」
エドワードがここぞとばかりにブラッドを責める。
だが俺はダンジョンという言葉に心の中で食いついてしまった。
この世界でもゲームのようなダンジョンがあるのか、と少しだけワクワクした。話を聞きたい、と思ったがここは我慢する。
「デートの約束を蹴るとは、それはいかんなぁ。エド、お詫びしてもらったか?」
「まさにこの旅行がお詫びなんですよ」
エドワードがニコニコと話が合ったロイと会話する。
「今回の旅行で、たくさん我儘を聞いてもらうつもりです」
「おー、そうした方がいい」
「旅行って言ってもSEXしてるだけじゃねーか」
ブラッドが小さい声で文句を言い、その言葉に、ブフッ!とお茶を噴き出してしまい、ロイがニヤニヤしながらテーブルナプキンを差し出してくる。
「僕がしたいんだからいいの。これも我儘の一つだよ」
エドワードの一人称が「私」から「僕」へ変わり、ブラッドには素を出して甘えている姿に赤面してしまう。
「なんだショーヘーはこういう話は苦手か?」
ブラッドがニヤニヤしながら赤面した様子を揶揄う。
「ショーヘーは純粋なんだよ。可愛いだろ~?」
そう言ってロイが自分に抱きついてくる。
「可愛いは余計だ!」
グイグイとロイを押し返しながら文句を言う。
「こいつ、こんな見た目だが、ベッドではすげ~んだぞ~」
ブラッドがさらに揶揄うために言葉を続け、エドワードもそれに便乗して色気を全面に出しながら上唇をペロリと舐め、俺を見る。
思わず2人が絡み合う姿を想像してしまい、顔だけでなく全身を真っ赤に染めた。
それを見たディーが笑いながら助け舟を出す。
「ショーヘイさんはこういう話にはあまり免疫がないので、ほどほどにしていただけますか」
そうは言いつつ、クスクスと笑っている。
「ああ、すみません。可愛くてつい」
可愛いエドワードにそう言われて、口を真横に結んで今度は俺がムクれた。
免疫がないわけじゃない。
自分だって元の世界でこういう話はよくしていたし、友人を揶揄ったし、揶揄われることもあった。
だがこっちの世界で抱かれる側になったことで、どうも今までとは勝手が違う。だからどうしても恥ずかしさが先立ってしまうのだ。
何度もこうして揶揄われるが、今だに慣れず赤面してしまう。
エドワードとブラッドの食事が運ばれて来て、それではこれで、と挨拶を交わして席を立つ。
「あ、ショーヘイさん」
エドワードに呼び止められた。
「今度、帝国にも遊びに来てくださいね」
そう言われたので、微笑みながら、今度ぜひ、と返すと会釈した。
ディーにでも、ロイにでもない、俺に声をかけたことが引っかかる。社交辞令にしてもおかしい。
そう思いつつ食堂を出たが、背中にずっとエドワードの視線を感じていた。
部屋に戻ってから、すぐに2人に確認する。
「あの人に俺がジュノーだって話してないよな?」
「話してないですよ。でも…気付いているでしょうね…」
ディーが苦笑する。
「最後のあれはショーヘーがジュノーだとわかってるからだな」
ロイもため息をついた。
その様子に、やっぱり2人とも気付いたか、と思った。
「ブラッドとのお忍び旅行とは言ってましたけど」
「目的はジュノーだろうな」
ですよねー、とディーが笑う。
「わざわざ言ったということは、隠す必要もないということでしょうが…読めませんよ。彼の行動が」
エドワードの目的や考えが想像できず苦笑した。
エドワードがどのような人物なのか、王都ついてから調査した方がいいと心に決めた。
「帝国の商会の御曹司って言ったっけ…?」
以前に見た世界地図を頭に思い浮かべる。
確か、サンドラーク公国よりも国土面積が広い、かなり大きな国だったはずだ。
確かグランベル帝国だったかな。
サンドラーク公国と同様に君主制だったはずだ。
そう記憶を辿り、こんど詳しく聞こうと思った。
「クラークって苗字があったけど、貴族なのか?」
「貴族ではありませんが、苗字を名乗ることを許される者はいますよ。
特に大規模な商会主は大体苗字持ちですね。
平民でも上流階級になればなるほど、苗字持ちは多いです」
「へぇ…、区別つかないな」
苗字があるから貴族というわけではないと聞いて、今後は事前に、もしくは後から確認する必要があると思った。
貴族と平民で対応を変える必要性が今後出て来るかもしれない。
「クラーク商会ってそんなに大きいの?」
「そりゃあもう。金さえ払えば、ありとあらゆるものが手に入ると言われてる」
「我が国にもクラークの店はかなりありますよ。名だたる街には、必ずと言っていいほどにね。名前は出さずともクラーク傘下の店も多いですし」
「へぇー…」
「おそらく、貴方のことは、喉から手が出るほど欲しいでしょうね。」
「まあ向こうも俺たちの関係に気付いているから、無理矢理奪うってことはしてこないだろうが…」
「やっぱり早急に私たちの関係を公表しないと…」
ディーが考え込むような仕草をして黙り込んだ。
マチルダに続いてエドワード。
次から次へと火種になりそうな人物の登場に、ふうと息を吐いてベッドへ倒れ込む。
「疲れた?」
「ちょっとな」
「そっかー…残念」
ベッドに寝転んだ翔平の隣にロイが上がって来ると上から覗き込まれる。
「残念って何が」
「明日出発だろ?ベッドともまたしばらくお別れだからSEXしたかったのに」
ロイの言葉に、幻滅したような表情をする。
「お前さ…、俺の体が目当てなの?」
「え!?まさか!?」
そんなわけないじゃん、と言うが、じっと体を見る。
「好きな人を抱きたいとは思うのは自然なことだろ?」
「そうですね」
いつの間にか考え込んでいたディーも近付いて来て、ベッドの上ではさまれ、これはマズイ展開じゃないのかと焦る。
「えっと…む、無理だぞ?できないぞ」
「だいぶ動けるようになったでしょう?」
「お前は横になってるだけでいいんだ」
ジリジリと迫る2人に青ざめる。
2人の手が胸に触れ、足に触れ、滑るように動き出す。
「む、無理だって!!」
その手を払い除けながら叫ぶと、2人がクスクスと笑う。
「な」
また揶揄われた、とここで気付いた。
「冗談ですよ。まだ完全に回復してないのに」
「早く回復してくれよな」
2人にチュッとキスされ、回復したらしたで2人を相手にするという事実にため息をつく。
体力つけなくちゃ。
そう決意する。
長湯は出来ないが、ぬるめの温泉に浸かって、心身ともにリフレッシュした後、昨日と同じように3人で川の字になってベッドに入った。
「貴族と平民って結婚出来ないのか?」
聞こう聞こうと思って、ずっとタイミングを逃し、また忘れるところだったと、何の脈絡もなく質問する。
「え?出来ますよ。どうしてそんなこと聞くんですか?」
「マチルダがロイと結婚するのに、ロイが貴族じゃなくちゃならないって…。だからロイの叙爵を激推ししたんだろ?」
「ああ、そういうことですか。
貴族によっては平民との結婚を許さないという家もありますからね。ロマーノがまさにそれです」
「下賤の者の血を混ぜたくないんだそうだ。肩書きがついただけで血が変わるわけじゃねーだろって。アホらし」
「そういうことね。じゃあグレイは大丈夫だな」
俺の言葉に、2人が納得する。
「グレイを心配してたんですね」
「ああ。だってグレイは平民なんだろう?ジュリアさんと結婚出来るか心配でさ」
「グレイが伯爵家に入ることになるんだよな…。グレイ・イグリットになるのか…」
「違和感が…」
2人の口調にクスッと笑う。
「なんだよ、グレイが貴族になるのが嫌なのか?」
「そうじゃありませんけど、慣れるまでしばらくかかりそうです」
「ま、グレイはグレイだ」
「獣士団、辞めちゃうのかな」
「ゆくゆくはそうなるだろうな。
イグリットで生活することになるんだろうな」
「そっかぁ…なんか、寂しいな」
そう言うと、2人が両側から俺に抱きつき、体を寄せた。
「俺たちはずっと一緒だ」
「そうですよ。それに転移魔法陣が復活すれば、すぐに行けますから」
「あ、そうだ。転移魔法陣」
話の流れから、言わなければならないと思っていたことをもう一つ思い出した。
もう今度からディーのようにメモ帳でも持ち歩こうかと真剣に考える。
「転移魔法陣がどうしました?」
「チャールズが使っただろ?俺や自分を転移させた」
「ああ、あれね…」
2人が峠で翔平を奪われた場面を鮮明に思い出し、苦笑する。
目の前で一瞬で消えた翔平に、あの時の事を思い出すと今だにゾッとする。
「あれは、マントの裏側に転移魔法陣が描かれていたんだ」
「え!!!」
ディーがガバッと起き上がる。
「だから、あのマントがあって、それを起動できる魔力さえあれば個人で使えるものだと思う」
ディーが驚きを隠せない表情で考え込む仕草をした。
「遺跡はあの後黒騎士たちによって抑えてあります。
おそらくは、サイファーかユリアが調査の指示を出しているはずですが…」
やることが山積みだ…とディーが俺の隣に倒れ込む。
「チャールズが使おうとしていた魔法陣は、元の世界に戻るためのものだって言ってた。
あの遺跡を研究していたエリックの資料もたくさん残っていたし、あの遺跡には何かあると思うって、ずっと言おうと思ってたんだよ」
やっと言えた、と心のつっかえが一つ取れた。
「元の世界に帰る魔法陣…?」
ロイが小さく呟く。
「あれを使えば、ショーヘーも帰れるのか…?」
「わからない。チャールズは帰れるって言ってたけど、本当に帰れるかどうかは、俺にはわからない」
ロイとディーがギュッと俺を抱きしめる手を強くした。
「帰り、たいん…ですか?」
ディーが震える声で聞く。
「帰りたい…と思ってた」
素直に答える。その俺の言葉に、ますます強く手を握られた。
「思ってたって…今は?」
「今は思ってないよ。俺はここにいる。そう決めたんだ」
「それって…」
「帰る方法があったとしても、俺は帰らないよ」
2人が不安になっているのが、触れた体から伝わってくる。
だから、腕を広げて2人の頭を引き寄せ、その額にキスをする。
「俺の居場所はここだ。お前たちの隣に居させてくれるんだろ?」
ニコリと笑って、2人を見ると、2人が少しだけ上半身を起こし、俺の顔を見下ろしてくる。
「ショーヘー」
「ショーヘイさん」
2人の顔が近付いたと思ったら、ゴチンと2人の頭がぶつかった。
「譲れよ!」
「ロイこそ!」
キスしようとするタイミングが同時で、目の前で歯を剥き出して喧嘩を始めた2人に破顔した。
「なんだよ、仕方ねーなー」
体を起こすと、少しだけ俺に近かったディーの頬を両手で包むと、俺から口付ける。重ねるだけの、長めに角度を変えながらキスすると、ディーがポーッとうっとりした表情をする。
「なんでディーが先!?」
「近かったからだよ」
笑いながら、今度はロイへ唇を重ねる。だが、すぐにロイに主導権を握られ、舌を絡め取られた。
「ん…」
ロイの頭を掴むと、深くなるキスに俺の方がうっとりと目を閉じる。
ゆっくりと押し倒されて、舌を絡ませあって互いの唇を貪りあった。
「狡い!私も!」
ディーが憤慨するが、ロイがフンと鼻で笑い唇を譲らない。
ペロリと俺の唇を舐めた後、ディーを煽るように視線を向けると、ディーがムッとした表情で俺に覆い被さり、唇を重ねた。
舌を絡め取られ、吸われ、ディーの舌が歯列を、唇をなぞる。
2人の濃厚なキスに、ゾクゾクと快感が背筋を駆け上がり、思わず、喘ぎ声を出してしまった。
「あ…ん」
唇を離し、上から翔平を見下ろすと、目を潤ませて2人を見つめる表情にグッと口を真横に結ぶ。
「やっぱり…ダメ…?」
ロイが涙目で聞いてくる。
「ごめん…」
あんなキスをして途中で止めるのは辛いだろうが、もしここで2人を受け入れてしまったら、きっと明日はまた動けなくなって出発が遅れる。
「ごめんな…」
お預けを食らって項垂れる2人に苦笑しつつ、2人の頭を撫でた。
ハァァと魂が抜けるようなため息をついた2人が俺の隣に倒れ込む。
「生殺しだ…」
ディーが呟き、ロイが泣き真似をした。
本当は俺だって2人を受け入れたいと思う。というか俺だってSEXしたい。39歳になったが、まだまだ性欲はある。8年もの長い間、誰とも肌を重ねてこなかったせいもあるのか、抱かれる側だったとしても、肌を合わせる気持ち良さを思い出し、その行為に溺れているのは間違いない。
だるさが取れたらな。
口には出さず、心の中で呟く。
ただ、お預けを食らった2人が、解禁された時に爆発しないといいな、と少しだけ心配なった。
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