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決別
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エマの助けを借りながら、何とか使用人ライフと別宅通いを両立させている。
本当にエマサマサマ!
今度、御飯を奢る約束をしたから許してもらおう。
(突然呼び出しとか…本当にあの使用人頭は嫌い!)
いよいよ明日は待ちに待ったのかどうかはさておき、隣国に出発する日だ。エマにも話をしたので何かあれば彼女なら乗り気ってくれるはず…!
(三日間だけど、頑張って!)
そんな気持ちで今日も廊下掃除に励んでいたら、使用人頭が呼んでる、と声がかかった。
廊下掃除の道具を揃え、使用人頭の部屋に急いで向かう。
「遅くなりました。リリーです」
掃除道具を床に置きドアをノックする。
「入りなさい」
相変わらずの気だるそうな声が聞こえる。
ドアを開け、掃除道具を持ち上げた。すると、そこに見えたのは使用人頭とほぼ記憶から抹消されたあの人だった。
「この人があんたに用があるんだって。この部屋、30分だけ貸してあげるから。終わったら元の持ち場に戻って作業すんだよ」
(……それにしても使用人頭の態度からするに、この人が誰か知らない?大丈夫?)
この場にいるべきではない人が、目の前にいる。
私はその人を久しぶりに視界に捉えた。
使用人頭は我関せずとそそくさと部屋を後にしていった。
(それにしても、何の理由つけてあの使用人頭に部屋を貸すように言ったんだろう?)
そもそも仕事中に使用人頭が私なんかに特別待遇をするはずがない。自分の利益になる取引をしたのだろう。
(……お金でも渡したのかな?)
その人は使用人頭がいなくなっても無言のままだ。
(仕方ないなあ……いろいろ後で面倒なことにならないといいけど……)
望むのは毎日の穏やかな生活。
それだけだから。
私は仕方ないからどう話しかけようか悩んだ末、ありきたりの挨拶を放った。
「……お父様、お久し振りでございます。何のご用でしょうか」
(あの二人が会いに行ったから、何かを伝えに来た。もしくは、確認しにきた?)
そんなところだろう。
私に興味なんてないし、身分が上の人間に対するパフォーマンスが必要だからだ。
「使用人服着て、掃除道具持ってるから娘と認識されてないかも知れませんが……。次期侯爵でもある娘のリリアーヌでございます」
私は嫌みたっぷりにお父様に投げかる。
「……いや、その……。久しぶりだ。リリー。……ますますミシェリーに似てきたな」
お父様は私と視線すら合わせようとしない。
(一体何なんだ?この人は……。本当にがっかりする……)
ーお母様に似てきたからといって何?
ー似てるから憎らしいの?
ー似てるから見たくないの?そうなの?
私はぐっと睨みかえした。
「ご用件は何でしょうか。先ほどの使用人頭の話でもお分かりのように、まだ仕事もありますので……」
用事がないなら失礼します、と言いかけた途端、お父様が頭を下げた。
「……知らなかったんだ。すまない……」
「……何のことでしょうか?」
「リリーがその……」
「……私がこのような格好で働いていることですか?」
「……ああ」
「……あなたの愛するあの人たちはずいぶんと私がお好きなようで、必要以上に絡んで参ります。お陰様で大変鍛えられました。感謝申し上げます。あ、それと聞いた話では、また愛する人が出来たそうですね?お父様。おめでとうございます」
私は虐げられた。
けれど、強くなった。
絶対に負けないし、お母様が残したものは全て奪い返す。
だから、もうお父様とは、心の中で縁を切るー。
そんな覚悟で話をしていた。
「……アレクサンダー殿下と、アルフォンス様がわざわざ婚約の件で私のところまで出向いて下さった。その……素晴らしい縁だと思う。リリーの好きに決めてもらって構わない。今日はそれだけを言いに来た」
「……かしこまりました。では、私が勝手に判断させて頂きます。お返事はご本人にさせて頂きますのでよろしいでしょうか?」
「……ああ、構わない。が、リリー」
「……何でしょうか」
「……今更だが、私に出来ることはあるだろうか」
私の決別宣言に白旗ですか?お父様。
「……では、いくつか。面倒なので侯爵家と何の関係もないあの人たちをこれ以上刺激しないで下さい。あとは、私を消そうなんて考えないで下さいね?いつでも影が見ていますよ?最悪、国際問題になりますので。それと。もちろん私が正式に侯爵になったら、お世話になった方々にはたーっぷりとお礼させて頂きますのでよろしくお願いいたします」
たかが元伯爵家の人間と、貴族ですらない詐欺師のような女に随分となめられたものだ。
最高のおもてなしをしなくては。
お父様は呆然と私を見ていたが、情けはもう湧いてすら来なかった。
(……これが父親なんでがっかりだわね。さーて。これからお父様がどちらにつくのか?見物だわねー)
「では、掃除に戻りますので。愛する方とお幸せに。お父様」
私は立ち上がり、清々しい気持ちで部屋を後にした。一度も振り向かなかった。
本当にエマサマサマ!
今度、御飯を奢る約束をしたから許してもらおう。
(突然呼び出しとか…本当にあの使用人頭は嫌い!)
いよいよ明日は待ちに待ったのかどうかはさておき、隣国に出発する日だ。エマにも話をしたので何かあれば彼女なら乗り気ってくれるはず…!
(三日間だけど、頑張って!)
そんな気持ちで今日も廊下掃除に励んでいたら、使用人頭が呼んでる、と声がかかった。
廊下掃除の道具を揃え、使用人頭の部屋に急いで向かう。
「遅くなりました。リリーです」
掃除道具を床に置きドアをノックする。
「入りなさい」
相変わらずの気だるそうな声が聞こえる。
ドアを開け、掃除道具を持ち上げた。すると、そこに見えたのは使用人頭とほぼ記憶から抹消されたあの人だった。
「この人があんたに用があるんだって。この部屋、30分だけ貸してあげるから。終わったら元の持ち場に戻って作業すんだよ」
(……それにしても使用人頭の態度からするに、この人が誰か知らない?大丈夫?)
この場にいるべきではない人が、目の前にいる。
私はその人を久しぶりに視界に捉えた。
使用人頭は我関せずとそそくさと部屋を後にしていった。
(それにしても、何の理由つけてあの使用人頭に部屋を貸すように言ったんだろう?)
そもそも仕事中に使用人頭が私なんかに特別待遇をするはずがない。自分の利益になる取引をしたのだろう。
(……お金でも渡したのかな?)
その人は使用人頭がいなくなっても無言のままだ。
(仕方ないなあ……いろいろ後で面倒なことにならないといいけど……)
望むのは毎日の穏やかな生活。
それだけだから。
私は仕方ないからどう話しかけようか悩んだ末、ありきたりの挨拶を放った。
「……お父様、お久し振りでございます。何のご用でしょうか」
(あの二人が会いに行ったから、何かを伝えに来た。もしくは、確認しにきた?)
そんなところだろう。
私に興味なんてないし、身分が上の人間に対するパフォーマンスが必要だからだ。
「使用人服着て、掃除道具持ってるから娘と認識されてないかも知れませんが……。次期侯爵でもある娘のリリアーヌでございます」
私は嫌みたっぷりにお父様に投げかる。
「……いや、その……。久しぶりだ。リリー。……ますますミシェリーに似てきたな」
お父様は私と視線すら合わせようとしない。
(一体何なんだ?この人は……。本当にがっかりする……)
ーお母様に似てきたからといって何?
ー似てるから憎らしいの?
ー似てるから見たくないの?そうなの?
私はぐっと睨みかえした。
「ご用件は何でしょうか。先ほどの使用人頭の話でもお分かりのように、まだ仕事もありますので……」
用事がないなら失礼します、と言いかけた途端、お父様が頭を下げた。
「……知らなかったんだ。すまない……」
「……何のことでしょうか?」
「リリーがその……」
「……私がこのような格好で働いていることですか?」
「……ああ」
「……あなたの愛するあの人たちはずいぶんと私がお好きなようで、必要以上に絡んで参ります。お陰様で大変鍛えられました。感謝申し上げます。あ、それと聞いた話では、また愛する人が出来たそうですね?お父様。おめでとうございます」
私は虐げられた。
けれど、強くなった。
絶対に負けないし、お母様が残したものは全て奪い返す。
だから、もうお父様とは、心の中で縁を切るー。
そんな覚悟で話をしていた。
「……アレクサンダー殿下と、アルフォンス様がわざわざ婚約の件で私のところまで出向いて下さった。その……素晴らしい縁だと思う。リリーの好きに決めてもらって構わない。今日はそれだけを言いに来た」
「……かしこまりました。では、私が勝手に判断させて頂きます。お返事はご本人にさせて頂きますのでよろしいでしょうか?」
「……ああ、構わない。が、リリー」
「……何でしょうか」
「……今更だが、私に出来ることはあるだろうか」
私の決別宣言に白旗ですか?お父様。
「……では、いくつか。面倒なので侯爵家と何の関係もないあの人たちをこれ以上刺激しないで下さい。あとは、私を消そうなんて考えないで下さいね?いつでも影が見ていますよ?最悪、国際問題になりますので。それと。もちろん私が正式に侯爵になったら、お世話になった方々にはたーっぷりとお礼させて頂きますのでよろしくお願いいたします」
たかが元伯爵家の人間と、貴族ですらない詐欺師のような女に随分となめられたものだ。
最高のおもてなしをしなくては。
お父様は呆然と私を見ていたが、情けはもう湧いてすら来なかった。
(……これが父親なんでがっかりだわね。さーて。これからお父様がどちらにつくのか?見物だわねー)
「では、掃除に戻りますので。愛する方とお幸せに。お父様」
私は立ち上がり、清々しい気持ちで部屋を後にした。一度も振り向かなかった。
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