上 下
72 / 73

第71話 悪友

しおりを挟む
窓の外から桜の木が見えた。
マンションの周辺には毎年綺麗な桜道ができる。何度も見ている光景だが飽きることはない。

「江本、お前本当にいいマンションんでるよな。ガキの頃は分かんなかったがな。にしてもいつ家具を全部白くしたんだ?」

酒を片手にソファーに座る和也が声を掛けてきた。

「母が海外に行ってから、心機一転で変えたんだよね」と言って貴也は和也の対面に座った。

彼と会うのは久々だ。憲貞がまめに連絡をとっていたため彼を通して和也の情報を得ていた。

「で? お母さんは? まだ戻ってこないのか?」
「あぁ、去年1回帰ってきただけかな。おかげでのりちゃんと2人暮らしを堪能しているよ」
「それはよかった」

へらへらと笑いながら、和也は酒を口に運んだ。顔が真っ赤になりだいぶ酔いが回っているようであった。

「大丈夫か?」

憲貞が心配そうな顔をして水を渡した。「いらない」と和也が断ったが睨みつけて無理やり飲ませた。

「のりちゃんも強くなったな」
「そりゃ、桜花会の会長を中高6年間やってから大学入ってまたやったんだからな。強くもなるさ」

憲貞は桜華時代のことを思い出してため息をついた。すると和也は大きな声で笑いだした。

「1年目そうとう大変だっただろ」
「1年目だけではない」
「あー、6年目の時に大道寺のお嬢さんが入学して一騒動あったみたいだな」
「あれは……」と言って憲貞は頭を抱えた。それをクスクスと貴也は笑った。

「俺は彼女の事気に入っている。きっと楽しい桜花会にしてくれるはずだ」

高校3年の時に中学1年として桜華に入学してきた大道寺レイラのことを思い出した。桜花会の人間として変わった感性を持った少女であった。

「ふーん」和也は興味なさそうな返事をするとハッと目を開いて貴也を見た。

「あ、卒業おめでとう。国家試験合格もな」
「忘れていた?」
「いいや、これお祝いの酒だよ?」
「君がめちゃくちゃ飲んでいるけどな」

呆れた顔をすると、和也はニヤニヤと笑いがならハエでも追いやるように手を振った。

「いいじゃん。どうせ、江本は研修生とかで忙しくなるんだろ。その前に騒ごうぜ」
「そうだな」と言ったのは憲貞だ。

彼は、おつまみをローテーブルに置くと、貴也の隣に座った。そして「どうぞ」と貴也に酒を差し出した。

「ありがとう」そう言って、憲貞を見た「のりちゃんにも寂しい思いをさせちゃったね。ごめんね。試験前忙しくて」

「いや、食事の時に少し会話できたし、貴也の頑張っている姿見ていたから大丈夫だ」

そう言って優しく微笑む、憲貞はすごく可愛く思えた。綺麗な顔をしているがどこから見ても男の憲貞は“可愛い”と言う言葉から遠い存在であるが、この時は抱きしめたくなるくらいであった。

和也が目の前にいなかったら実行していた。

「試験前、ちゃんと食っていたんだな。成長したな。左手は? 骨折してねぇーの?」

茶化すように言う和也に「してない」と左手を振って見せた。

「大人になったな」
「お前こそ親孝行しているの?」
「しているって。だから、大学は特待制度で入ったんだ」

和也は中学受験で勉強しなかったことを後悔したらしく、中学に入学してから高校卒業まで学年トップを守り大学は特待生で入学した。

人って変われるのだとしみじみ感じた。

「すごいよね」

感心する憲貞に「お前もな」と言って和也がニヤリと笑った。

憲貞は天王寺と関わりたくないと言って、大学卒業後すぐに小学校から友人と一緒に起業したのだ。彼らとは桜華時代に何度も顔を合わせている。

憲貞の世代の桜花会は優秀な人物が多く、なぜか皆憲貞が大好きで嫉妬した。
今、上手くいっているなら我慢したかいがあったというものだ。

「私は凄くない。周りがすごい」
「確かに、のりちゃん世代の桜花会は優秀な人ばかりだね」

謙遜する憲貞に貴也は同意した。

「そうだが、生徒会も負けてないでしょ」と憲貞はニヤリと笑った。

当時の桜花会と生徒会の人間はただ優秀なだけではなくクセも強かった。そうでなければ、桜花会を牛耳っていた中村幸弘を追い出すことはできなかった。

「なんか、わかんねぇけど。いい仲間に会えたんだな」

和也はソファーに寄りかかりニヤニヤと笑いながら、ローテーブルにあるツマミを口に放りこんだ。
その姿が、“俺が言った通りだろ”と言わんばかりの態度だ。

「まぁな」

本当にこの悪友には感謝している。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...