片思いのあの子がパンツ売りをしていた?

加藤労全(ろーぜん)

文字の大きさ
6 / 8
矢上は同級生の親には、気に入られる男だった

第6話 矢上は寺倉と一緒にドライブした

しおりを挟む


 元気な寺倉の声だ。停車中の軽自動車に近寄る。窓の開いた運転席から中年の女性が、笑顔を見せた。
「寺倉光紗の母です。同級生の矢上君? いつもうちの娘がお世話になっています。送るから乗って」
「乗れ矢上」
 後部座席のドアを寺倉が内側から少し開けている。寺倉のお母さんに一礼した。
「寺倉さんと同じクラスの矢上道広と申します」
 急いで座席に腰を下ろした。
「感謝して矢上」
 寺倉の言葉に、お母さんが、訝しげにたしなめる。
「お友達にそんな言葉を使っていけません。謝りなさい」
 その通り! 心でざまぁ見ろ、お母さんもっと怒ってください。寺倉良い女子だけど、言葉遣いが悪いんです。と思う。しかし口では、失礼します、と丁寧な声を意識する。
「僕は気にしませんので、寺倉さんをそんなに責めないであげてください」
「ごめんなさい」
 寺倉のこんな殊勝な姿は、初めて見た。俺は心の中で、ガッツポーズをしていた。寺倉の横で、背筋を伸ばして、申し訳なさそうしていた。
「矢上君を見習いなさい。矢上君はどこへ行くの?」
 困った。吉沢の住所は言えない。
「ちょっとこの先に、祖父母の家があるんです。まっすぐです」
 うそをついた。ないない。
「じゃあ、車出すね」
 寺倉のお母さんは、ステアリングを握り、軽は車道に滑り出す。
 俺はスマホの画面を見ながら、住所の最初を読み上げる。
「愛緒和(あいおわ)県、愛緒和市」
 肩を震わせながら、寺倉が笑いを耐え抜いていた。愛緒和市内で、県名から呼んでしまった。
「緊張してて、失礼しました。中央区木村町三丁目です」
「気楽でいいよ。もうすぐだよ。矢上くんは、おじいちゃんや、おばあちゃん孝行な子なんだね。おじいちゃんの家に、近づいたら停めるから言ってね」
 寺倉のお母さんが、俺をヨイショしてくれて、歯がゆい。祖父と祖母は、もうこの世にいない。しかも、吉沢の住所が、三丁目だっただけだ。
 車道は道路工事中だった。渋滞に巻き込まれ、赤信号で停車する。寺倉がフロントガラスを見つめている。
「わたしのバイト先も木村町三丁目」
「へー、近くだね」
 木村町三丁目、リアルでは知らない。沈黙が舞い降りる。すぐ前に、寺倉のお母さんがいるのだ。馴れ馴れしくできない。
「寺倉さんは、差し支えなければで良いけど、どこでバイトしてるの?」
 さんをつけた。
「うーん、説明すれば短いけど、ざっくり言えば、ブラジャーやパンツ売ったりしてる」
「そっか」
 追い待て、それイカんことだろ。勢い良く流れる言葉は耳を疑う。バックミラーに映る寺倉のお母さんは、少し目尻を上げていた。
「こら、同級生をおちょくっちゃいけないでしょう。矢上君、うちの光紗は、アパレルショップでバイトしてるんです」
 びっくりした。いやらしいことで稼いでるのかと、心臓が喉から飛び出そうだった。学校の評判が下がったら、受験も進学も不利になる。いや、そういう問題ではない。 
 車は再び走り出す。警備員さんが頭を下げて、誘導灯を振っていた。工事現場を抜けた。車のスピードが徐々に上がる。
「この辺り、路上駐車禁止なの。三丁目だから、娘のバイト先の駐車場で停めても良い」
「はい、送ってくれてありがとうございます」
 どういたしまして、と寺倉のお母さんは、明瞭なトーンの声だ。寺倉の喋り方は、お母さんに似たのだろう。小さなお店の二十台くらい車が入れる駐車場の通路部分で車が止まった。
 俺はドアを開ける前におじぎをして、
「ありがとうございました」
 荷物を手にして、外に出た。ドアを閉める前に運転席に一礼した。
「ありがとうございました。お気をつけて」
「矢上君も、おじいちゃんの家まで気をつけてね」
 駐車場内でUターンして道路に出るまで、頭を下げ続けた。同性異性を問わず、友人の保護者には、良い子アピールは必須だ。
 駐車場内でスマホは、危ない。一回駐車場から道路に出た。フェンスに“月極駐車場”と看板が出ている。
 バイト先の駐車場と、寺倉のお母さんは言ったはずだ。スマホで現在位置をマップ上に表示させた。
「え?」
 信じられない。自分を指す光点が、中央区木村町三丁目……、吉沢の住所とここが重なっていた。

※※※ 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...