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18、兄からの手紙
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セライナ様に食べられると決まったら、もっとより健康でいなければならないとミカは張り切り出した。十分な運動をして、しっかりと食事をとり、よく眠る。
人々と会って談笑をし、できそうなことがあれば積極的に手を出した。身だしなみにこだわるのは気恥ずかしかったものの、セライナ様に献上される餌として見た目が悪ければ申し訳ないからと、以前より注意を払うようになった。
ミカが明るく前向きになったのをみんなが喜んでくれる。ミカはすこぶる健康になり、鏡で自分の顔を見てもうつむかないようになってきた。
醜いと嫌われ続けたこの黄金の目も、セライナが褒めてくれるから隠そうとは思わない。
さて、今日も朝の支度を終えて運動をしようかとミカが外を眺めていたところ、女官が「ミカ様、お手紙ですよ」と声をかけてきた。
手紙をもらうのは珍しいことでもなかったのだが、予想外の差出人の名前を見てミカはぎょっとした。
兄からミカに宛てたものだったのである。兄というのはもちろん、猫の国の兄弟で、白い猫族の王子の一人だ。近頃ミカはあんまり幸せすぎて、自分の国でのつらい日々を忘れかけていた。向こうも忘れているとばかり思っていたのだが。
最初に託されたものを除けば、今まで手紙など送ってきたことなどないのに突然どうしたというのだろう。
あまり良い予感はしない。しかし見ないわけにもいかないだろう。ミカは中を確認してみた。
『ミカ。お前は一体どういうつもりだ? そこで何をしている? 我が国の利益になるようなことをお前は何故しようとしないのだ。竜の国へ行って、どれほどが経つと思っている! この役立たずめが。竜帝を玉座から引きずりおろして、自分が簒奪するくらいの気概を見せてはどうだ。腰抜けめ! お前はいつもいつも、何の役にも立たないゴミだ!』
他にも怒りに任せた暴言は長々と綴られ、こっちは相変わらず溝鼠との交渉が難航しているだの、近頃「純人間」を飼ったから役立てるつもりだだの、ミカに伝えても仕方のないような内容も多くあった。
ミカは最後まで目を通すと、深いため息をついた。
「兄上はご乱心のようだな……気でも狂ったんじゃないかな?」
竜帝の地位を奪えなどという手紙を、竜帝の庇護の下に暮らす弟王子に送るとは、正気の沙汰ではない。ミカに届く前に竜族に中をあらためられたらどうするつもりなのだ。
そうなれば、ミカはうんと恩情をかけてもらったとして追放、下手をすれば白い猫の国は滅ぼされるだろう。
というか、普通は中を調べられるものなのだ。ミカは特別待遇で、尊重されているからルディスですらミカの私物を確認したりはしない。ミカは信頼されており、この手紙は存在することそのものが竜族への裏切り行為なのである。
ミカは無言で手紙を破り、口の中に入れた。
無かったことにするしかない。どこかに捨てるわけにもいかないので、飲み込んだ。これは兄達の身の安全のためでもある。
ミカは猫の国の利益になる選択をしたつもりでいるから、ここまで叱られる覚えはなかった。ミカがセライナに食べられて力になれば、今後も竜の国は白い猫の国にそれなりの対応をしてくれるだろう。それをぶち壊そうとしているのは兄の方である。
(兄上達も、おとなしくしていてくれないかなぁ……)
連絡を取るつもりはなかったが、これ以上余計なことはしないでくれと手紙で念押しをした方がいいだろうか。猫と竜の力の差は歴然なので、大らかな白竜の民が本気で猫達に立腹するという恐れはないはずだが。
これまで兄になじられると恐怖に支配され、自分も悪いのだと泣いてばかりだったのだが、今は恐れや自責の念より相手への呆れが勝っていた。
(リド兄様に相談するべきだろうか? でもなぁ、リド兄様も立場が微妙だし、心配はかけたくないし)
王位を継ぐのは長兄のリドしかいない。時期を見計らって戻るつもりだろうし、兄に何かあってはならないのだ。だから、自分が竜の国にいることも知られたくなかった。助けに行こうなどと思われて話がこじれたら大変だ。
不味い紙をどうにか飲み下し、ミカは深いため息をつく。こればっかりは、ルディスやセライナには相談できないのである。
どうにかしないとな、と憂鬱になりながらもミカは散歩のために部屋を出た。
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