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第五章 始動

5.22 対面

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 その後は、冒険者ギルドのことを少し話す。
 珍しいことだらけだったから、ちょっと喋り過ぎちゃったかもだけど、ガルシオンは相づちをうってくれていた。

 明日、ランクアップ試験を受けることをつたえると「優花なら問題ないだろう」の一言。
 そうなのかもしれないけど、初めてなので緊張はするのだ。

 お宿につくとガルシオンも部屋を取るとのこと。
 手続きの間、ロビーで待つ私。すると……。
 
『優花。ちょっといいか』
 
 フニオからの突然の念話。

『うん、なにかあった?』

『影の中でマロンと話し合ったんだが、ガルシオンに俺とマロンを紹介できるか? 今後優花を護衛するのであれば対面することは必要だ』

 確かに。でもなんて言えばいいんだろう。

『優花はきっかけさえ作ってくれればいい。あとは、俺が話そう』
『わかった。ありがとう』

 そうだ。出来る事をするんだ。

『ガルシオンに話してみるね』
『うむ』
『はいなの』

 宿の鍵を持ったガルシオンがこちらにやってくる。

「待たせてしまったな、すまない。お互い部屋に戻って……」
「あの。ガルシオン実は……」

 話しかけようとしてハッとする。
 ガルシオンになんていったらいいんだろう。
 
 会わせたい仲間がいるから一緒に部屋に来て?
 だけど他人がいるロビーでフニオとマロンのことを話すのは避けたい。
 出来れば私と一緒に部屋に来てほしいけど、でも。それって、それって!

「優花?」

 ガルシオンが怪訝そうな表情で私を見つめる。
 いまスカーレット・リリ―の言葉のおまもりは手元にない。
 
 勇気を出すんだ、私。

「あの……一緒に、私の部屋に……来てもらっても……」

 ガルシオンをまともに見れない。恥ずかしすぎる……。
 
「……わかった」

 顔をあげると、ロビーにいる冒険者の皆さんが私とガルシオンを見ている。
 
 ああ、ごめんなさい。せめて場所を選べばよかった。
 若い何人かの冒険者さんと目が合うと、白い歯の笑顔付きでサムズアップしてる。
 
 いつかのデジャブ再び!?  

「優花、行こう」
 
 ガルシオンが私の手を取って階段に向かう。
 
 そうだ、念話すれば良かったのに。
 なんで忘れていたの……。穴があったら入りたい……。

 ♢♢♢

 階段を上がって人目が気にならなくなる場所まで進んだとき。
 ガルシオンがスッと私の手を放す。

「何か、急ぎで他人に聞かれたくない重要な話があるのだと思うが……今後人前では念話で頼む」
「うん……ごめんなさい……」
 
 色々配慮が足りず、なんかごめん。

「そういえば以前も似たようなことがあったが……あの時俺も念話で伝えなかった。だから気にするな。次はお互い人目を気を付ければいい」
 
 私は頷く。
  
 四階の左奥。401号室に入り、ソファに向かい合って座る。
 
 ガルシオンは部屋を見回す。ん? なにか部屋が気になる事があるのかな?
 私は、ガルシオンに告げる。 

「実は、私の仲間がガルシオンと面会したいって言ってて」
「それは聖獣様と茶色の女神様か?」

 私は頷く。
 ガルシオンも「俺も聖獣様と女神様には、一度お目通りを願いたいと思っていた」と答えた。
 オメドオリネガイたかったの?

「フニオ、マロン――――、お願い」

 フニオとマロンを呼ぶと、私の横に、白い光の粒子が集まり、白と暗銀色が入り混じった見事な毛並みのフニオが姿を現す。青紫色の目。額に青い宝石が付いている。あれ? こんなの付いてたっけ? なんか、キリっとした表情に磨きがかかってカッコイイ。

 コロコロと緑色のクルミ石が転がる。それを追いかけるマロン。しっかりキャッチすると、器用にフニオの背中に陣取り、何事もなかったかのように気をつけの姿勢。
 美しい茶色の毛並み。艶やかさとフワフワ感がアップしてて、なんかいつもよりおっきく見える?
 どうしたフニマロン。
 ガルシオンは、スッと立ち上がりフニオとマロンに右手を胸に当て聖騎士の礼を取る。

「聖獣様。お初にお目にかかります。私は、ガルシオン・セイラードと申します。ラルテ教会の聖騎士団総長を務めております。茶色の女神様、以前は窮地をお救い頂きありがとうございました」

 ガルシオンがフニオとマロンに敬礼する。
 え? フニオさん、様って。そんなに偉かったの?

「楽にしてよいぞ、ガルシオン。俺はフニオと言う。優花の聖獣だ」
「ハッ」

 なんだろう。

「マロンは優花の従魔なの。お礼は優花にすると良いの。それからガルシオン、とりあえず座るの」
「ありがとうございます」

 私ってばフニオとマロンにこんな対応してなかった……
 こういう対応が正しかったってこと? あちゃーー。

 そしてガルシオンは、緊張している?
 どうして?

「ヴィクトス皇帝と長老から優花の護衛を命じられたそうだな。優花はショルゼアの人間ではない、そのためショルゼアの事は何も知らん」

 すみません。

「また、おぬしも知っての通り、邪竜側からの接触が増えてきている。今後ますます優花は狙われることになるだろう。我々は人目につかぬようせねばならないため、多方面で世話になることになる。どうか優花を頼む」 

「聖獣フニオ様、承知いたしました」

「マロンからもお願いなの。これまでガルシオンは優花のために動いてくれていることは知っているの。マロンはその心に偽りなしと見ているの。その本当まことの力を貸してほしいの」

「――――女神マロン様。認めて下さり心より感謝申し上げます。このガルシオン、これからも最善を尽くします」

「それからガルシオン。俺とマロンに様はいらん。先程から優花が固まっているからな、そうかしこまらずとも良い」

 あ。すっかり固まってた。なにこの緊迫した空気。
 ついてけない……。

「ですが……私がそのように呼ばせて頂くわけには……」

 ガルシオンも困っているようだ。

「最初は仕方がないが、これも円滑なコミュニケーションのためだ」
「マロンもマロンでいいの。これは優花のためなの、ガルシオンも慣れるの」
 
 ああ、この重たい空気、なんとかしたい。なんとか……
 そんな私の気持ちを察したお腹がかつてない程盛大に鳴る。

 ――――!? 

「優花、さすがなの。タイミング良すぎるの!」
「かしこまっても俺の主がこの調子だからな。理解できただろう?」

 無言で頷くガルシオン。
 やれやれとため息をつくフニオ。
 私の肩の上でヨシヨシしてるマロン。

「……うう、恥ずかしすぎる。みんなしてそんな残念な目で私を見ないで……」

 どこかに隠れられる穴をサーチングナビゲーション。

「それでは挨拶も済んだしな、マロン帰るぞ」
「はいなの!」

 サッと居なくなるフニオとマロン。
 どうしてくれるのこの状況で……ガルシオンと二人きりにしないで。
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