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第四章 定め
4.20 ウォータースネイク討伐②
しおりを挟む「でも、チャンスだ」
ヨアナが青鱗蛇に向かい、フニオもそれに続く。
反撃、開始だ。
「アタック・オーラ!」
ヨアナがフニオの背中に手を当てて叫ぶ。
「む。感謝する」
魔法だろうか。二人の体がうっすら光っている。
『一時的に筋力を強化するバフなの。きっと一気に決めるつもりなの!』
解説を入れてくれるマロン。
マロンと念話ができるのってガチに嬉しい。
「こっちを向け! ザ・パワー!」
青鱗蛇の正面で叫びながら、ヨアナは斧頭をガキンと地面に打ち付ける。
フニオはその場から横に飛び退いた。
敵視操作のスキルなんだろう。
そこから発した音波が、青鱗蛇をヨアナに釘付けにする。
でも、確かに技名って大事だ。初めて組んだパーティでも攻撃の意図を伝え合うことができる。
だからフニオは横に避けた。
きっと戦う中で自然に生まれた戦闘術なんだろう。
そして今は、ダメージを与えられるチャンス。
青鱗蛇の瞳は怒りに燃えるも、その動きは熱気に当てられて緩い。
フニオが爪で腹のやや上に攻撃を加える。
鱗がはがれ、体液が飛び散る。
それを意に介さず、同じ場所にヨアナが斧を打ち込む。
斧の刃先が右から入り、そのまま背の刃で上に切り上げ、最後に振り下ろす。
両刃をいかした三段切りだ。
続いてフニオの爪攻撃。
ヨアナの三段切りは大技だった。その隙を埋める、フニオ。
上手い。
青鱗蛇は尾を振りながら牽制するも、動きが遅いせいで防ぎ切れていない。
しかしこちらも、決定打にもならない。
アタックオーラでダメージは増えたものの、元々の鱗や体の強靱さが健在なため傷を深められない。
長引けば、不利だ。
こちらは疲弊するし、いずれ熱気も散ってしまう。
フニオはなぜ雷撃を……。いや、あれは光属性魔法で再現していると言っていた。あれも魔法だ。
それにあの鱗なら、自然の雷も弾きそうだ。
いや……、まてよ。
外側の鱗が、弾くのだ。
今、鱗がはがれ落ちている場所がある!
いやでも、あれは、僅かな表面に過ぎない。表面をやけどさせたところで……。
――――!
表面が、だめなら!!
やってやろう。クリエイトで。魔法が効かないなら、物理で。
「フニオ!! 後で、雷撃!!」
これで私が何かすることは伝わっただろう。
「お、優花。なんか思いついたな?」
「ふむ。手を休めるなよ斧使い。それから、さっきのアタックオーラをもう一度だ」
「人使い荒いモフだな。あとでモフモフさせろ」
「断る」
よかったね、フニオ。トモダチできて。
――――私にできる、物理攻撃。
今のところこれしか思いつかない。
カバンからナイフを取り出し、皮鞘から抜き放つ。
使い慣れたってほどじゃないけど、結構お世話になってるナイフだ。
時間が無い。でも、集中。思考加速モード。
――――訪れるゆっくり流れる時間――――。
加速した思考の中で、私は右手に持つナイフをじっくり見つめる。
いや、観察する。このナイフを知りたい。
扱いやすい小ぶりなもので、柄のデザインと、うっすら青みがかった刀身が気に入って買ったんだ。
刃の紋様。柄につけてしまった傷。グラススケイルの樹液もすくったっけ。
それから刀身に触れ、ちょっと怖いけど、左手の人差し指の腹を切る。
遅れてやってくる痛み。うん。痛い。でも抜群の切れ味。
『優花! なにしてるなの!』
『大丈夫だよ、マロン。』
スッと切った、っていう感じじゃない。
フッと指に入った、っていう感じ。
これは怖い。力を入れ間違ったら指先がなくなるんじゃないだろうか。
すごいな、これ。こんなに切れたんだ。ショルゼアナイフ、すごい。
見た目だけでなく、切れ味や、思い出までも結びつける。
これでこのナイフを、今までより知れた、と思う。
美しさもさることながら、切れ味のイメージは強烈だ。
後は、創造すればいい。
元に戻る時間の流れ――――。
「クリエイト:完全複製・ナイフ;レイヤータイム:3sec、3ターンズ。発動」
――――うっ。
秒針がかなり動いたイメージ。完全複製、キツい。モーメントしなくてよかった。
でも、予想通りの結果。
コピーと違って、複製を三回だから、オリジナルを含めて四本のナイフが両手にある。
刃先は絶対触らない。
あとはこのナイフを投げるだけ。
サーチングナビゲーションをつかってね!
四本のナイフの行き先のルートをサーチング。
当然行き先は、青鱗蛇の傷ついた場所。さっきより体液が滲んでて分かりやすい。
空中にばっちり見える四本の筋。青鱗蛇が動いてもブレはない。
命中するビジョンしかない!
よし、両手のナイフを……、投げるっ!!
その瞬間にナビゲーション。
ナイフを行き先まで確実にナビゲートいたします。
宙を走る四本のナイフ。
流石に直線すぎたか、同時に投げた四本はいともたやすく避けられる……。
が、そこからだ。どんなに青鱗蛇が動こうとも、ナイフは常に到着地点である胸元下の傷を狙う。
すごい。動きに合わせて自動的に軌道修正し……、「ストン」と、その切っ先だけが体内に入り込む。
青鱗蛇の「シュグワーーー!」という強い呼吸音が響く。
きっと発声器官が無いのだろう。
直後。
煌めく四本の雷光撃が四本のナイフに着弾。
次の瞬間、青鱗蛇は声なくその身を強くよじり……、痙攣。
そして動きを止め、地面に倒れ込んだ。
ナイス、フニオ。
フニオの雷撃は、相当の熱量だ。
外側から鱗に弾かれてしまうとしても、ナイフを伝って内側にその熱は届き、内部の器官を焼く。
いかに魔法をレジストできたとしても……、ひとたまりもないだろう。
やった……。倒せた――――。
うは。
訪れる疲労感。
どんだけ消費したんだろ――――。
EXT:43,000/86,400 FL :Lv4
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