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第四章 定め

4.12 雨降りの朝に

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 雨音が木々の葉をぬらす音で目が覚める。もう朝だろうけど、少し部屋が暗い。そんな日もあるだろう。身支度をして、キースから預かった鈴でメイドさんをお呼びする。

 メイドさんはにこやかに微笑んで、朝食を持ってきてくれた。

 そういえば夕食を持ってきてくれたメイドさんも、にこやかに対応してたし……。お世話になりっぱなしでなんだか申し訳ない気がする。

「こちらのメニューはガルシオン様がご所望されることが多いメニューでございます。宜しければ優花様もお召し上がりください」

 そうなんだ、ガルシオンってば、食通なんだな。ホント一体何者なんだろう。
 騎士さまなのはわかってたけど、なんか裕福な環境に育った人なのかな?

 朝食からしてこのバリエーションの多さ。しかも栄養バランスを整えた料理の数々。
 一品の量こそ少ないけど、どれを食べても美味しい。時間が掛かった丁寧な調理がされている。
 
 ガルシオンの食の好みが大体わかってきた。
 そして豪華な食事よりも、素材を生かす、っていうんだろうか。そういう味付けが多い。
 ふむ。地球で言えば和食が好きそう。

「お茶はこちらにご用意いたしますね。消化を助けるハーブティでございます」
 
 爽やかな香りのお茶。ハーブに詳しくないけど、柑橘系のほどよい甘さの香りがする。  
 
 いま食べている朝食とお茶の相性が抜群に良い。
 私は嬉しくなって、ニコニコしてしまう。こんな贅沢をさせてもらえるなんてマリア所長に感謝だ。
 
「優花様にお気に召して頂けて、私共も嬉しい限りでございます」

 多くて食べきれるか不安だったけど、あら不思議。お腹にスッと入る。
 シェフの配慮がとても素晴らしい。

 私はメイドさんに夕食も朝食もとても美味しく堪能できたと感謝を伝える。
 ちょっと驚いた様子だったけれど、後ほど料理長に伝えますね。と、にこやかに食器を片付けて
部屋を出て行った。

 メイドさんからお昼時に馬車の中でお召し上がりください、とサンドイッチの包みを頂く。

 なんと行き届いた配慮。逆に申し訳なく思ってしまう。
 ちょっと多い気がするけど、折角なのでありがたく頂戴する。
 っていうか、筒抜けなのね、私の行動。

 ソファに座って、窓を見つめる。
 雨はまだ降り続いている――――

 少し休憩したら、冒険者ギルドへ行かなくては。
 その頃には雨が小降りになってると良いのだけど。



 ローランさんと会った後、私はフニオとマロンを呼んだ。

 散々泣きじゃくった後だったから、マロンはすぐに私の肩によじ登りクルミ石を片手で抱えながら
 短い手で私を一生懸命撫でてくれた。

「優花、泣かないの。よしよしなの」
「……優花、あまり泣いてくれるな。気持ちはわかる。悲しい時に泣くなとは言わない。だがあまり泣かれると俺も困る……。優花はいつも笑っていた方がいいぞ」

 フニオが心底困ったように私を見つめる。

 いつも笑ってる不気味な奴、いたな。
 歪んだ笑顔の白い仮面の男。
 名前は、リムソンとか言ったっけ。

「それじゃあ、白仮面と同じじゃない……」

 私がムスッとして答えると、フニオも思い出したかのように呟く。

「そういえばいたな。そういうヤツが」

 今度はマロンが怒る。 

「あんな奴と優花を一緒にするな、なの! フニオは乙女心が全っ然わかってないの」

「乙女心なんぞ俺にわかるわけがないだろう。マシューと一緒にするな」
「フニオひどい奴なの、信じられないのっ!」

 私を飛び越えてマロンとフニオが睨み合ってる。
 なんだこの図。なんか、心が和むって言うか、論点がズレまくっててウケる。

 えっと……、フニオ。マロン。ありがとう。

「ねえ、フニオ。私が倒れている時、パープルウルフキングを倒してくれたでしょう? ガルシオンとローランさんを助けてくれて、ありがとう」

 私は、フニオに微笑む。

「……大したことではない。もたもたして仲間を呼ばれ、優花に被害が及んでは元も子もない。致し方なかっただけだ」

 あれ? フニオが照れてる? なんか、フニオが可愛いぞ?
 
「――――ふうん、なの」

 マロンも同じことを考えたようだ。
 ニヤニヤしてフニオを見つめてる。
 
「……」

 状況不利と悟ったフニオが沈黙する。
 勝利を確信したマロンが私の肩からフニオの頭の上に乗る。もはやそこが定位置のようになってるから不思議だ。

「マロン、俺の頭に乗るな。そこそこ重いんだぞ――――」
「……聞こえない、なの」

 私は思わずぷっと笑ってしまう。

「どうやら優花の雨が止んだようだが、マロン、そこで何度もジャンプするな。重い」
「ホントにホントに腹立つなの、乙女に向かって重いとは何事なの!」

 あらら。マロンを本気で怒らせちゃってる。
 止めようか? ん――――、困惑してるフニオが意外にも可愛い。
 それに乙女に向かって”重い”は禁句だ。
 くっ……フニオの表情がツボに入ってしまって笑いが止まらない。

「優花、いつまで笑ってる。湯あみでもして体を休めろ。俺は影に帰るぞ」

 ムスッとしたフニオは影の中に逃げ込む。
 フニオを追いかけてマロンも影に行ってしまう。
 
 あっという間に姿を消すフニオとマロン。
 私の影の中でフニオとマロンのバトルが始まるのかもしれない。
   
 でも多分だけど。
 フニオはわざとこの流れを作った気がする。 
 賢いマロンもそれをわかっていたのかも?

「最近泣いてばっかりだからなぁ。確かに泣き虫な勇者って弱そうだもんね」

 優斗君のような勇者を目指すなら。
 もっと胸を張って堂々としてなきゃね。

 私はポケットからカナタ石を取り出す。金のホルダーネックレスは……。うわぁ。ガッツリ切れてる。
 細かすぎてクリエイトで修繕できる自信がない。でもまた失くしそう。
 クルガの街か帝都についたらアクセサリーショップを探してみよう。

 何度見ても美しい白の石。アンバーとブルーのシラーが輝く。

 ねぇ、カナタ。
 もしも会えたらね、私、真っ先にありがとうを伝えたい――――。

 カナタと出会ってから、私がどれくらい幸せだったか改めて分かったんだ。
 あなたは私にとってとても大切な家族。私は、それをきちんと伝えてなかったから。
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