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第二章 勇者
2.16 丘
しおりを挟むマロンで心がほっこりした私は、完成したばかりのカナタ石をもう一度愛でてから、スカートのポケットに入れる。
フニオはそのカナタ石を不思議そうに見つめていたものの、私と目が合うと何でもないと言うように視線を逸らす。
「これはね、私のおまもり。ショルゼアに来てまさか作れると思わなかったけど、やっと作れたんだ」
「そうか。とても美しい石だな」
「えへへ。そう言って貰えると作り手としても嬉しい」
さて、作りたいものは作った。
これからどうする? いつまでもこのままでいいわけじゃない。
邪竜を倒すのだ、それにはもっと情報がいる。
「うーん、その人間の町ってどう行けばいいの? 地図でもあればいいのに」
そう何気なく呟く。自分の言葉にハッとする。
そうだ地図! なんでもっと早く思いつかなかったんだろう?
エクストラスキル・クリエイトがあれば地図をつくれないだろうか?
うん、試してみる価値はあるよね!
私は、大きめの落ち葉を幾つか探す。手のひらよりもすこし小さめの葉を八枚ほど選ぶ。
これくらいあればいいかな?
地面に置くのもなんだから、何か台があればいいんだけど。
私は周囲を見回す。
なんと丁度いい高さの切り株が数メートル先にあるではありませんか!
私は八枚の葉を持って切り株の場所へ移動する。フニオも私の後を追いかけて切り株のところへとやってくる。
「優花、一体何を始めるんだ?」
フニオが不思議そうな顔をして私を見つめる。
「出来るかどうかはわからないんだけど、地図を作るの!」
私は八枚の葉を、切り株の上に長方形に並べる。
「クリエイト、発動!」
私は目を閉じて、ファンタジーRPGとかでよく見かける地図をイメージする。
名前はド忘れしてて思い出せないけど、羊とか山羊などの動物の皮をなめして乾燥させて、滑石で磨いて光沢をつけたやつ。
ショルゼアの地理がわかる地図がいいな。出来たら街の名前もわかると嬉しい。なんなら方角なんかもわかったほうが良いよね。
イメージはこんな感じでいいだろう。私は目を開く。
「レイヤータイム、8sec」
八枚の葉が、組み合わさり一枚の長方形の紙面になる。大きさはA3程度だ。
それは切り株の上にふわりと浮かび上がり、金色の靄に包まれる。
靄の中では周辺の絵や文字が記載されて……いるハズ。
そして8秒きっかりに、金色の靄は消えていき地図が完成する。
疲労感が少し酷くなるけど、耐えられないほどではない。
ワクワクしながら早速出来た地図を見て、私は愕然とする。
横からフニオも興味津々で地図を見つめる。
「ふむ。これが地図というものか。……なんだ、これがあれば森の中の生活は楽になるか?」
「そう……だね」
フニオ様、精一杯のフォローをありがとう。
それは子供がかいたような落書き……、いや、個性的な絵の様で、真ん中に湖っぽいもの、北に小屋、西にマロンの巣とグラススケイルの樹、南に大樹があるという感じだった。
とどのつまり、私が過去何らかのアクションを取った場所がわかりやすく記されている絵図だ。
期待外れの結果ではあるが……。要するに私が周辺の様子を知らないために、明確にイメージができなかった結果だろう。クリエイトに「知らない場所を探る」っていう機能なんか、そりゃあないよね。
とりあえず小屋に戻ってみたものの、テーブルの上に広げた残念な結果の地図の使い道がわからない。せっかく作ったのに……私は頬杖をついてため息を漏らす。
でもせめて上から町の場所を見下ろせたら、方角くらいはわかるだろうか?
「ねえフニオ。この森の中で町が見下ろせる場所ってないかな? 高台とか丘みたいになってる場所なんかいいかもしれない」
「わからなくもないが。だがマロンのほうが詳しいだろうな」
フニオの背中にいるマロンをじっと見つめる。
マロンは熟睡モードだ。起こすのは……かわいそうだ。
「優花が言う場所は湖からだいぶ離れた場所にある。道中戦闘しながら進むことになるだろう。優花の体調が心配だが行けるか?」
「うん」
「では向かうぞ」
失敗作の地図は小屋においておくことにした。
使い道も……、ちょっとね。
慣れた小屋を出て、一路丘を目指して歩きはじめる。
今までは、フニオが先導しその後ろをついていくだけの状態だった。
でも今は、マロンを背中にのせたフニオの横を歩く。
その状態であっても、フニオはマメに「数十メートル先に正面に見える道を左だ」とか「数メートル先の正面に大きな樹が倒れている」とか相変らず完璧なナビをしてくれる。
前と違うのは。自分が守られるだけの存在ではないということだ。
でも……。
「フニオ……。敵なんて、いる?」
「それは俺も不思議に思っていたところだ。周囲に魔獣の反応がないわけではないんだが、な」
何でだろう?
しかも迷うことなく真っ直ぐ目的地に向かってるような気もする。
この感覚は、なんだろう。
「もうすぐ、目的地に着くかもしれない」
「そうだが、よくわかったな」
「よくわからないんだけど、私の乙女の勘が冴えわたってる気がする」
「……その乙女のなんとかは理解できんが。着けば何かわかるだろう」
私はマロンを見つめる。
フニオの背中で器用に寝るマロン。マロンの緑のクルミ石がキラキラ光っており、緑色の光る粒子が飛び散っている。
――――もしかして。
「フニオ。マロンが持ってるクルミ石がキラキラ光ってるんだけど。これって……?」
「……ああ、なるほどな。マロンの仕業か」
この状況を作り出していたのは、マロンだ。
フニオによると、この森で“茶色の女神”たるマロンより強い魔物はそうそういないらしい。
魔獣は本能的に、敵わないと感じる存在に攻撃を仕掛けることはないのだそうだ。
まぁ、例外もいる。それが赤黒い目の魔獣だ。彼らはその魂を何らかの事情で歪められている。自分より強いものであろうが何であろうが、目に付いたモノを襲い、魂を喰らう。
そしてエクストラたる私の魂は、彼らにとって極上の獲物であると、フニオは告げる。
眠っている間もマロンは私を守ってくれている。
もしマロンが起きたら、沢山頭をなでてあげようと思った。
そうして辿り着いたのは、見晴らしのいい丘だった。
青い空、流れる雲。
この場所からは、簡素な木の塀に囲まれた町を見渡せる。
ショルゼアに降りたってからどれくらいの時間が過ぎただろうか?
私はやっと、ショルゼアの、人間の住む町を見た。
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