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第二章 勇者

2.6 神使ロキ

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 生命は海から生まれた、と何かの本で読んだことがある。
 今、光に溢れた温かい水の中で浮いているかのような浮遊感がある。
 そして何処かに向かって流れていく、そんな感覚。


 あぁ、これ。私がパソコンに吸い込まれた(?)時の記憶。


 何も不安な事が無くて、むしろこれから何かが起こるような期待感と希望だけがあるような。
 不思議な気持ちだった。



 あの時だ。私が確実に異世界とつながったのは――――。



 浮遊感の中。

 「優花ゆか」と名前を呼ばれた気がした。
 母の声ではない。じゃあ誰?

 穏やかで優しい男性の声。
 私はその声を知っている、そう、さっきまでその人の声をきいていた――――
 優花は閉じていた目をばっと見開く。

「ラムダ・ケイ!?」

 何処までも黒い空間に、星々の煌めき。
 下に見える大きな美しい惑星は地球……、ではない――――?

 そして……。時間が……止まっている??

 私は、宇宙空間と呼ばれるような空間に、浮いていた。
 もしかしたら浮いているんじゃなくて、立っているのかもしれない。
 何かに着地している感はあるが、上下がないために「立つ」という感覚も曖昧だ。

 間違いない。この状況はあのNFT――――“竜の涙”のせいだ……。


 自分の姿を確認する。
 ここは寒さも暑さも感じないから、もしかして何も着ていないのではと思ったけれど、そんなことはなくて安心する。
 ブルーグレーのフリースガウン。白のフワフワニットと青いミニのプリーツスカート、黒のニーハイソックス、ベージュのルームシューズ。部屋に居た時の私の格好と同じ。

 
 その場にへたりこんで、両手で足元をペタペタと触る。
 不思議な感覚。水に触れているような感じなのに、手は濡れていない。

「不思議……。何かに包まれている感じがあったのに」

 立ち上がって、前に向かって歩きはじめる。
 けれど景色は変わらない。それどころか、前に進んでいる感じもしない。

「何処に、行かれるのですか?」

 ――――!? 

 声が、聞こえた。進行方向には誰もいない。
 振り返ると……、少し離れたところに、小さな白い蛇が居た。

 爬虫類系は苦手なのに……と、ふと思うが、いやいや、問題はそこじゃない。

 ――――いま、声がしたよね? 人の声だったよね!?

 私は少しパニックになる。

 辺りを見回すも誰もいない。目の前にいる白い蛇がこちらをじっと見ている。
 声の主はどう考えても、この白い蛇だ。

「もしかするともしかして? いま話しかけたのは、白蛇さん?」
「あなたには私の姿が、白い蛇に見えるようですね。先程から何度も話しかけているのは、私です」

 少し呆れたようにも聞こえなくもないが、淡々と答える白蛇。
 しかしその言葉遣いはとても丁寧だ。まるで学校の校長先生と話しているような気分になる。

 ――――落ち着け心臓、目の前にいるのは蛇じゃない、校長先生だ。

 そう、思い込もうとすると……。

 直後、蛇の姿が校長先生に変わる。

「ええええええ!」

「私の姿は、あなたがイメージした姿に変わって見えるのです。蛇の姿がお気に召さなかったのでしょう? これでゆっくり話をすることができるでしょうか。」
「は、はい」
「私は、神使かみつかいロキ。この空間を管理する者です。ここは私が管理する「GATE」です。閉鎖空間になっていますから、どれほど歩いても何処にも行けません。それは先程体験されましたね」

「……はい」

「この宇宙空間は、あなたが住む地球がある宇宙とは異なる空間です。あなたの足元に、地球に似た惑星が見えると思いますが、この惑星をショルゼアと言います」
「惑星『ショルゼア』……」

 優花は足元の惑星を見る。美しい蒼の星は地球と本当によく似ている。
 地球からどれくらい離れた場所にあるのだろう?

「あなたが住む惑星と同じくらい美しい惑星でしょう? ショルゼアは守護竜ラルディアスが守護する惑星なのですが……、いまこの惑星が危機に瀕しています」

 校長先生が別惑星について話している現状に違和感を感じつつも、その話に耳を傾ける。

 地球に似た美しい蒼の星、ショルゼアという惑星。
 そしてこの流れ。いわゆる異世界転移ってやつかもしれない。いつか体験してみたいなとは思っていたけど、今はそんなことをしてる場合じゃない。
 下落した成績、居なくなったカナタの捜索、家事。やる事が山積みなのに、この上異世界転移なんてどう考えたって無理な話だ。

 考え込む私を、校長先生がじっと見つめている。

「つづけても?」
「はい。すみません」

 校長先生には、なんとなく断りづらい。

「先程惑星ショルゼアは、ラルディアスと呼ばれる守護竜によって守られている事をお伝えしましたが、この守護竜と共に邪竜を倒し、惑星ショルゼアを救って頂きたいのです」

「無理です!」
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