上 下
2 / 18

2.同じ夢

しおりを挟む
 けど、今は気にしている場合じゃない。今の最優先は、先生に呼ばれた理由だ。
「だったらこれは偶然か。それとも友達同士、示し合わせて協力したのか」
 今村先生はやや厳しめの口調で言いながらデスクの抽斗を開けると、原稿用紙を選び取った。クリップで留めて二枚を一つにしたのを二つ分。一つは私が提出した宿題だとすぐに分かった。そう、「不思議な体験」をテーマにした作文だ。
 ということは、もう一つは……。私はあまたの位置をちょっとずらし、原稿用紙にある名前のところを覗き込んだ。想像した通り、岸本君の名前が見えた。
「先生の言い方から想像したんですけど、もしかして、僕と吾妻さんとで、作文の内容が似ていたとかですか?」
「勘がいいな」
 先生はそれぞれの原稿用紙を広げて、縦に並べた。先生から見て上が私の分、下が岸本君の分。
「あんまり勘がいいと、元々知っていて、知らないふりをしていたのかと思えてしまうじゃないか。いや、疑いたくはないんだぞ」
「えっと、先生。作文の中身がちょっと似ていたくらいで、疑うだなんて大げさだなあ」
「そうですよ。実際に見た夢について書いたことが被った程度なら、たいした問題じゃないと思います」
 岸本君に続いて、私も反論した。岸本君の作文をちらっと見て、夢について書いているのはすぐに察することができた。細かい内容はまだ分からないけれども、共通するのが夢っていうだけなら、文句を言われる筋合いじゃないよね。
「単に夢について書かれているのが同じなら、わざわざ呼んだりしないさ。事実、クラスには他にも二名ほどいるからな、夢を題材にして書いていた者が」
「だったらどうして……」
 問い返しながら私はふっと想像して、まさかと思いもした。その考えが顔に出ていたのかしら、今村先生は「示し合わせたのではないのであれば、まさかの偶然だな」と前置きし、改めて原稿用紙を指差した。
「文章や構成はさすがに異なるが、夢の中身がそっくりなんだ。まったく一緒と言ってもいい」
「ええ? そんなばかな」
 岸本君が私の作文に手を伸ばすが、今村先生はそれを制する。
「宿題とは言え個人情報みたいなものだ。関連するところだけ読むから、聞いてみろ。吾妻さんもだぞ」
「はい」
 先生は原稿用紙を重ねて取り上げ、最初に私の分から読み上げた。
「おかしな声がしゃべった中ではっきり覚えているのはここだけという流れから、『十二年間いい子にしてきた褒美に一つだけ、何でも願いを叶えてやるぞい。願いを思い付いたら、チョメチョメチョメと唱えてみよ。いつでも現れて叶えてみせようぞい。』と書いている。吾妻さん、間違いないな?」
「は、はい。私が書いた物です。チョメチョメとは書いてませんけど」
「うむ。次、岸本君の作文だ」
 そう言われた岸本君は、口を半分ぐらい開けて呆気にとられているように見えた。そっか、岸本君からすればもう私の作文の内容を知ったのだから、どれくらい似ているのか分かったってわけね。そしてそんな顔をするからには。
「岸本君の方は、とりあえず起きた事柄を順番に書いて行ってる。つまり夢だと明かされるのはラスト近くなんだ。が、途中で出て来る台詞がな。闇から聞こえてくる声が、『十二年間いい子にしてきたご褒美に一つだけ、何でも願いを叶えてやるぞ。願いを思い付いたら、呪文を唱えてみよ。いつでも現れて叶えてみせようぞ。』と言ったことになってる。そして呪文のところはよく聞こえなかったとある」
「……信じられない。本当にほとんど一緒……」
 語尾の“ぞい”と“ぞ”が違っているけれども、これは聞き取り方次第でどうにもでなる。褒美とご褒美も気にするほどじゃない。要するに、同じ夢を見ていたとしか思えない。
 今村先生の手元の原稿を私はじっと見てから、思い出したように岸本君の方を振り向いた。
「ほんとにそんな夢、見たの?」
「ああ。嘘でこんなこと書くもんか。嘘ならもっと面白くする」
 胸を張って変に自慢げになった岸本君。私は続けて尋ねてみた。
「じゃあ、夢を見たのはいつ?」
「え? だいぶ前だよ。作文にも書いたんだけど、きっちりとは覚えちゃないんだが、確か中学校に入ったばかりの頃だったと記憶しているよ」
「中学に……」
 内容だけでなく見た時期までも一致しそう。これっていったい……。身体がぶるっと震えた。
「で、どうなんだ」
 先生が机の縁をトントンと指先で叩き、私達の注意を引いた。
「二人はたまたま、そっくりな夢を見て、ちょうどいいやってことで作文に書いたのかな」
「はい、偶然ですとしか」
「言いようがありません」
 返事一つ取っても、連係プレーを決めたときみたいにぴったり息が合ってしまった。おかげで、今村先生の疑いが完全に晴れるには時間が掛かっちゃった。
 結局は、同じネタを使って作文を書いたとしても組み立て方がだまったく異なっており、示し合わせるメリットがないこと。他の科目の宿題では解答に類似点が見られなかったこと等、一つ一つ積み上げていってやっと納得してもらえたみたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

観察者たち

崎田毅駿
ライト文芸
 夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?  ――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。

集めましょ、個性の欠片たち

崎田毅駿
ライト文芸
とある中学を中心に、あれやこれやの出来事を綴っていきます。1.「まずいはきまずいはずなのに」:中学では調理部に入りたかったのに、なかったため断念した篠宮理恵。二年生になり、有名なシェフの息子がクラスに転校して来た。彼の力を借りれば一から調理部を起ち上げられるかも? 2.「罪な罰」:人気男性タレントが大病を患ったことを告白。その芸能ニュースの話題でクラスの女子は朝から持ちきり。男子の一人が悪ぶってちょっと口を挟んだところ、普段は大人しくて目立たない女子が、いきなり彼を平手打ち! 一体何が?

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

真夏の温泉物語

矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

化石の鳴き声

崎田毅駿
児童書・童話
小学四年生の純子は、転校して来てまだ間がない。友達たくさんできる前に夏休みに突入し、少し退屈気味。登校日に久しぶりに会えた友達と遊んだあと、帰る途中、クラスの男子数人が何か夢中になっているのを見掛け、気になった。好奇心に負けて覗いてみると、彼らは化石を探しているという。前から化石に興味のあった純子は、男子達と一緒に探すようになる。長い夏休みの楽しみができた、と思ったら、いつの間にか事件に巻き込まれることに!?

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

処理中です...