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2.同じ夢
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けど、今は気にしている場合じゃない。今の最優先は、先生に呼ばれた理由だ。
「だったらこれは偶然か。それとも友達同士、示し合わせて協力したのか」
今村先生はやや厳しめの口調で言いながらデスクの抽斗を開けると、原稿用紙を選び取った。クリップで留めて二枚を一つにしたのを二つ分。一つは私が提出した宿題だとすぐに分かった。そう、「不思議な体験」をテーマにした作文だ。
ということは、もう一つは……。私はあまたの位置をちょっとずらし、原稿用紙にある名前のところを覗き込んだ。想像した通り、岸本君の名前が見えた。
「先生の言い方から想像したんですけど、もしかして、僕と吾妻さんとで、作文の内容が似ていたとかですか?」
「勘がいいな」
先生はそれぞれの原稿用紙を広げて、縦に並べた。先生から見て上が私の分、下が岸本君の分。
「あんまり勘がいいと、元々知っていて、知らないふりをしていたのかと思えてしまうじゃないか。いや、疑いたくはないんだぞ」
「えっと、先生。作文の中身がちょっと似ていたくらいで、疑うだなんて大げさだなあ」
「そうですよ。実際に見た夢について書いたことが被った程度なら、たいした問題じゃないと思います」
岸本君に続いて、私も反論した。岸本君の作文をちらっと見て、夢について書いているのはすぐに察することができた。細かい内容はまだ分からないけれども、共通するのが夢っていうだけなら、文句を言われる筋合いじゃないよね。
「単に夢について書かれているのが同じなら、わざわざ呼んだりしないさ。事実、クラスには他にも二名ほどいるからな、夢を題材にして書いていた者が」
「だったらどうして……」
問い返しながら私はふっと想像して、まさかと思いもした。その考えが顔に出ていたのかしら、今村先生は「示し合わせたのではないのであれば、まさかの偶然だな」と前置きし、改めて原稿用紙を指差した。
「文章や構成はさすがに異なるが、夢の中身がそっくりなんだ。まったく一緒と言ってもいい」
「ええ? そんなばかな」
岸本君が私の作文に手を伸ばすが、今村先生はそれを制する。
「宿題とは言え個人情報みたいなものだ。関連するところだけ読むから、聞いてみろ。吾妻さんもだぞ」
「はい」
先生は原稿用紙を重ねて取り上げ、最初に私の分から読み上げた。
「おかしな声がしゃべった中ではっきり覚えているのはここだけという流れから、『十二年間いい子にしてきた褒美に一つだけ、何でも願いを叶えてやるぞい。願いを思い付いたら、チョメチョメチョメと唱えてみよ。いつでも現れて叶えてみせようぞい。』と書いている。吾妻さん、間違いないな?」
「は、はい。私が書いた物です。チョメチョメとは書いてませんけど」
「うむ。次、岸本君の作文だ」
そう言われた岸本君は、口を半分ぐらい開けて呆気にとられているように見えた。そっか、岸本君からすればもう私の作文の内容を知ったのだから、どれくらい似ているのか分かったってわけね。そしてそんな顔をするからには。
「岸本君の方は、とりあえず起きた事柄を順番に書いて行ってる。つまり夢だと明かされるのはラスト近くなんだ。が、途中で出て来る台詞がな。闇から聞こえてくる声が、『十二年間いい子にしてきたご褒美に一つだけ、何でも願いを叶えてやるぞ。願いを思い付いたら、呪文を唱えてみよ。いつでも現れて叶えてみせようぞ。』と言ったことになってる。そして呪文のところはよく聞こえなかったとある」
「……信じられない。本当にほとんど一緒……」
語尾の“ぞい”と“ぞ”が違っているけれども、これは聞き取り方次第でどうにもでなる。褒美とご褒美も気にするほどじゃない。要するに、同じ夢を見ていたとしか思えない。
今村先生の手元の原稿を私はじっと見てから、思い出したように岸本君の方を振り向いた。
「ほんとにそんな夢、見たの?」
「ああ。嘘でこんなこと書くもんか。嘘ならもっと面白くする」
胸を張って変に自慢げになった岸本君。私は続けて尋ねてみた。
「じゃあ、夢を見たのはいつ?」
「え? だいぶ前だよ。作文にも書いたんだけど、きっちりとは覚えちゃないんだが、確か中学校に入ったばかりの頃だったと記憶しているよ」
「中学に……」
内容だけでなく見た時期までも一致しそう。これっていったい……。身体がぶるっと震えた。
「で、どうなんだ」
先生が机の縁をトントンと指先で叩き、私達の注意を引いた。
「二人はたまたま、そっくりな夢を見て、ちょうどいいやってことで作文に書いたのかな」
「はい、偶然ですとしか」
「言いようがありません」
返事一つ取っても、連係プレーを決めたときみたいにぴったり息が合ってしまった。おかげで、今村先生の疑いが完全に晴れるには時間が掛かっちゃった。
結局は、同じネタを使って作文を書いたとしても組み立て方がだまったく異なっており、示し合わせるメリットがないこと。他の科目の宿題では解答に類似点が見られなかったこと等、一つ一つ積み上げていってやっと納得してもらえたみたい。
「だったらこれは偶然か。それとも友達同士、示し合わせて協力したのか」
今村先生はやや厳しめの口調で言いながらデスクの抽斗を開けると、原稿用紙を選び取った。クリップで留めて二枚を一つにしたのを二つ分。一つは私が提出した宿題だとすぐに分かった。そう、「不思議な体験」をテーマにした作文だ。
ということは、もう一つは……。私はあまたの位置をちょっとずらし、原稿用紙にある名前のところを覗き込んだ。想像した通り、岸本君の名前が見えた。
「先生の言い方から想像したんですけど、もしかして、僕と吾妻さんとで、作文の内容が似ていたとかですか?」
「勘がいいな」
先生はそれぞれの原稿用紙を広げて、縦に並べた。先生から見て上が私の分、下が岸本君の分。
「あんまり勘がいいと、元々知っていて、知らないふりをしていたのかと思えてしまうじゃないか。いや、疑いたくはないんだぞ」
「えっと、先生。作文の中身がちょっと似ていたくらいで、疑うだなんて大げさだなあ」
「そうですよ。実際に見た夢について書いたことが被った程度なら、たいした問題じゃないと思います」
岸本君に続いて、私も反論した。岸本君の作文をちらっと見て、夢について書いているのはすぐに察することができた。細かい内容はまだ分からないけれども、共通するのが夢っていうだけなら、文句を言われる筋合いじゃないよね。
「単に夢について書かれているのが同じなら、わざわざ呼んだりしないさ。事実、クラスには他にも二名ほどいるからな、夢を題材にして書いていた者が」
「だったらどうして……」
問い返しながら私はふっと想像して、まさかと思いもした。その考えが顔に出ていたのかしら、今村先生は「示し合わせたのではないのであれば、まさかの偶然だな」と前置きし、改めて原稿用紙を指差した。
「文章や構成はさすがに異なるが、夢の中身がそっくりなんだ。まったく一緒と言ってもいい」
「ええ? そんなばかな」
岸本君が私の作文に手を伸ばすが、今村先生はそれを制する。
「宿題とは言え個人情報みたいなものだ。関連するところだけ読むから、聞いてみろ。吾妻さんもだぞ」
「はい」
先生は原稿用紙を重ねて取り上げ、最初に私の分から読み上げた。
「おかしな声がしゃべった中ではっきり覚えているのはここだけという流れから、『十二年間いい子にしてきた褒美に一つだけ、何でも願いを叶えてやるぞい。願いを思い付いたら、チョメチョメチョメと唱えてみよ。いつでも現れて叶えてみせようぞい。』と書いている。吾妻さん、間違いないな?」
「は、はい。私が書いた物です。チョメチョメとは書いてませんけど」
「うむ。次、岸本君の作文だ」
そう言われた岸本君は、口を半分ぐらい開けて呆気にとられているように見えた。そっか、岸本君からすればもう私の作文の内容を知ったのだから、どれくらい似ているのか分かったってわけね。そしてそんな顔をするからには。
「岸本君の方は、とりあえず起きた事柄を順番に書いて行ってる。つまり夢だと明かされるのはラスト近くなんだ。が、途中で出て来る台詞がな。闇から聞こえてくる声が、『十二年間いい子にしてきたご褒美に一つだけ、何でも願いを叶えてやるぞ。願いを思い付いたら、呪文を唱えてみよ。いつでも現れて叶えてみせようぞ。』と言ったことになってる。そして呪文のところはよく聞こえなかったとある」
「……信じられない。本当にほとんど一緒……」
語尾の“ぞい”と“ぞ”が違っているけれども、これは聞き取り方次第でどうにもでなる。褒美とご褒美も気にするほどじゃない。要するに、同じ夢を見ていたとしか思えない。
今村先生の手元の原稿を私はじっと見てから、思い出したように岸本君の方を振り向いた。
「ほんとにそんな夢、見たの?」
「ああ。嘘でこんなこと書くもんか。嘘ならもっと面白くする」
胸を張って変に自慢げになった岸本君。私は続けて尋ねてみた。
「じゃあ、夢を見たのはいつ?」
「え? だいぶ前だよ。作文にも書いたんだけど、きっちりとは覚えちゃないんだが、確か中学校に入ったばかりの頃だったと記憶しているよ」
「中学に……」
内容だけでなく見た時期までも一致しそう。これっていったい……。身体がぶるっと震えた。
「で、どうなんだ」
先生が机の縁をトントンと指先で叩き、私達の注意を引いた。
「二人はたまたま、そっくりな夢を見て、ちょうどいいやってことで作文に書いたのかな」
「はい、偶然ですとしか」
「言いようがありません」
返事一つ取っても、連係プレーを決めたときみたいにぴったり息が合ってしまった。おかげで、今村先生の疑いが完全に晴れるには時間が掛かっちゃった。
結局は、同じネタを使って作文を書いたとしても組み立て方がだまったく異なっており、示し合わせるメリットがないこと。他の科目の宿題では解答に類似点が見られなかったこと等、一つ一つ積み上げていってやっと納得してもらえたみたい。
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