122 / 143
7激甘ネジ
それは過去という名の⑤
しおりを挟む何を当たり前のことをとばかりに眉を跳ね上げて、その手は官能を誘うように動く。
美人は三日で飽きるというが、知れば知るほど深みが増す美貌に飽きる気がしない。それは想像もつかない彼の言動のせいだ。
深みが増し、常に新鮮で、そこに小野寺の想いや優しさがあるからそれらを取りこぼさず受け止めたい。だから、一緒にいたい。
小野寺の熱と自分の熱。匂い。それらが混ざり合い、空気に重みが加わってドキドキするのに心は穏やかだった。
姉との電話で覚えた妙な動悸はすっかり消えた。わかってしまえば、結構簡単なことだった。
今までずっと高校時代の元彼のことを思うとどこか引っかかってしまっていたのは、彼が、というよりは家族の前で構えてしまうことが要因だったのだろう。
別れた経緯とか、関係性とかいろいろな要素はあるが、いつか再会することが姉が結婚したことで決定ずけられ、意識することが多くなった。
気持ちを周囲には見せることはできないから、どう見られるか、今の気持ちをどうやってうまく伝えられるかを考えてしまう。
少しごちゃごちゃ考えがちになってしまっていた。相手が、というより周囲の視線に対しての己の在り方を気にしていた。
思い入れのある相手だっただけに、自分の気持ちが見えにくかっただけ。
だって、こんなにも気持ちは小野寺に向いている。
彼のそばにいるとこんなにも満たされる。
熱くて、心地よくて。
自分の中にそういった恋情がほかに入る余地はないくらいに、小野寺で占められていた。
──ああ~、最近、なんか思考が甘いっていうか。
恋愛脳っていうのかな。自分でもちょっと心配になる。
仕事とか他のことをおろそかにしているつもりはないが、それ以外はすべて小野寺一色になりつつあるというか。
「翔さん。そんな自信満々に言うことでもないっていうか。どこから自信が? ずっとというのもそうだし……。えっと、軽々しいって思ってるわけではないんですけど、そう言われて喜んでしまうっていうか。なんか、翔さんに満たされすぎて怖いです」
嬉しがってくれてるんだと、にやにやと相好を崩した小野寺が頬を摺り寄せてくる。
「なんで、そこで怖いってなるんだ?」
満たされることの何が悪いのかと、口にすることで何を思ったのか今度は眉間に軽くしわが寄る。
「えっ、ん~、ほかが見れないから? ですかね」
「見なくていい」
自分でもよくわからないままそう告げると、小野寺はそこであからさまに顔をむすっとしかめた。
言葉の意味を誤解させてしまったようだ。腰に回された手の力がぐっと込められる。
「違います。そういう意味じゃなくって」
「なら、どういう意味?」
「違う相手を見るとかそういうのではなくて、翔さんの隣にいて当たり前になるのが怖いっていうか。居心地よすぎて困るっていうか」
小野寺は独占欲が強い。だけど、大人の男という感じで包容力もあるから、窮屈さも感じない。
今だって嫉妬心だとかを向けてくれるのを申し訳ないけど心地よいとも感じていて、そう感じる自分がやばいって思うっていうか。
「溺れるのが怖い?」
……ああ、そうなのかも。
元彼の話をした後だからこそ、いろんなブレーキを踏まなくなってからいなくなることが怖い。
「……そうかもしれません」
「ふ~ん。でも、今さらだ。俺は千幸にとっくに溺れてる。千幸も観念したら?」
「無理、です」
「嫌ではなくて、無理なんだ。千幸らしいな」
「らしいってなんですか?」
自分らしいっていうのが本当にわからない。
小野寺には自分がどう映っているのか疑問に思うことだらけだ。
「真面目で、優しくって、そして甘え下手な千幸。何をするにもまっすぐな視線が俺は好きだ。だから、蔑まれても嬉しかったし、つい出してしまう本音とか、あとでちょっぴり反省しているところとか、そんな全部が可愛いって思ってるから大丈夫。溺れてることもわからないくらい溺れさせるつもりだし、それだけの度量はあるつもりだから安心して寄りかかったらいい」
「………」
流れるような賛辞に、言葉につまり思わず胡乱げに見てしまった。
あっ、こういうのがと思っても後の祭り。耳が熱くなる。
ちょっと発言におかしな部分あったが、小野寺は構わず続ける。
それはもう凄絶な微笑とともに。
「いいよ。恥ずかしいんだよね。そんなところも可愛いな。とりあえず、俺の腕の中で溺れようか?」
甘くささやかれ、するりとシャツを捲り入ってくる指先に直接肌を撫で回される。
「……んっ、手」
「手がどうした? もしかしてそれで咎めてるつもり? 磁石みたいに吸い寄せられて今さら止められないから。俺に愛でられて?」
「よく、そんなセリフばかり出ますね?」
ブラジャーの境をつつつっとなでられて、おへそへと降りてくる手から逃れようと腰をよじらせながら睨みつける。
言葉もだが、伸びる手に期待もしてしまっていて、そんな態度しか千幸はとることができない。
「千幸がツンってしてる分、こっちは押さないとデレが程遠い」
「ツンって……。そんなクールではないですし、いたって対応は普通です」
普通のはずだ。
照れ臭かったり、やはり相手がオープンすぎるので比較すると目立つかもしれないけれど。
「でも、こっちが何もしなければ何の反応もなく澄ましてるだろ? それは嫌だ。千幸のいろんな表情を引き出して、俺だけが知る表情をたくさん見たい」
「……っ」
そんな言葉も慈しむような眼差しで言われ、千幸は言葉がでなかった。
本気で心底可愛いと思っているのだと偽りのない眼差しで告げられると、実際はそうじゃなくても小野寺にそう映っていることは認めるしかないなと思う。
小野寺が自分を見る目には、分厚い桃色フィルターがかかっているのではと思うことはあった。
だけど、案外、素直になりきれない自分のダメなところも見てくれてそれでも好きだと言ってくれているようだった。
千幸は冷静といえば聞こえはいいが、どこかで自分を守るために理屈をこねてしまって自分の気持ちに正直になりにくいほうだ。
わからないというか、見えないことも多くて、そういったことも含めて可愛いと言われるともう完敗だった。
14
あなたにおすすめの小説
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる