30 / 143
3惑甘ネジ
接点②
しおりを挟むまあ、いろいろ思うことはあるが本気で嫌なわけではない。
気になるから考えるし悩む。
今朝も考えるといった手前相手をしていたら休日だったこともあり、結局待ち合わせギリギリになってしまった。
店が立ち並ぶ小道にある小さな公園で待ち合わせをしている。
カップルなどが休憩していたり、千幸たち同様待ち合わせとして利用している者もいて、結構人が多い。
どこにいるかな、と視線を凝らす前に見つけた相手もすぐに千幸に気づいたようで、手を振りながら変わらぬ明るさで千幸を呼ぶ。
「千幸、久しぶり~」
「絵理奈! 元気にしてた?」
「元気、元気。千幸も元気だった?」
「うん。変わらずやってるよ」
学生の時のノリでハイタッチをしながら、久しぶりの再会を喜びあう。彼女と会うのは今年に入ってから初めてだ。
学生の時は暇さえあれば一緒に行動していたが、仕事しだしてからはなかなか時間を合わせられない。
「そっか。それは何より。早速だけど、どうする? 買い物する前にランチしたいなと思うのだけど。積もる話はあるし」
「そうだね。昼前で空いてるだろうし、先にランチしよっ」
「やった。ここに来る前にいい感じの店見つけたんだ。イタリアンの店。どう?」
「そこでいいよ」
学生の時も、絵理奈が先陣を切って提案し誘ってくれていた。
こうして会うのも彼女からの誘いのほうが多く、都合が悪くなければそれに千幸は乗っかっていた。
今日はランチと買い物、そして夕方からまた数人の友人と合流して飲みにいく予定だ。
人混みの中、「あっ、この店変わった?」とか、「あの店員さん、まだいる!」とか、懐かしみながら通りを歩いていく。
変わっていることも、変わっていないことも、学生時代の友人と一緒だとどれも楽しいことのように映る。
十分ほど歩いて着いた木目調の店は道路に向かう入り口も板が張られ、外に置かれた看板メニューにはイタリア語が書かれていた。
店内に入ると冷房が効いて涼しく、白のシャツに黒のエプロンをした店員に案内され席に座った。
鞄をカゴに入れ、改めて店内を見回す。
数か所、周囲の視線を隠すように観葉植物が置かれてあり、ランチ時と時間がずれていたこともあり、店内には自分たちと三組ほど座っているだけだ。
氷を入れた水が置かれメニューを頼み終えると、絵理奈はさっそくとばかりに嬉々として聞いてきた。
「で、千幸の近況はどうなの?」
一口水を飲んでいた千幸が視線を上げると、さあ、話したまえとばかりの輝きを放つ眼差しとかち合う。
数秒見つめ合っていたが、堪えきれず千幸は笑いをこぼした。
絵理奈は話好きだ。
とくに恋愛話は本人が大好物だと宣言するほどで、学生の時から根ほり葉ほり聞かれ、また聞くのが上手だからついつい話していた。
この感じも久しぶりだなと思いながら、隠すこともないので千幸はいつも通り報告をする。
「んー、前話してた会社の先輩とは別れた」
「えっ、うそー。確か同棲してなかった?」
びっくりだとばかりに目を見開き、少し前のめりなった絵理奈とは反対に、過ぎ去った話なので感情がイマイチ乗り切らない千幸は苦笑しながら告げる。
「してたけど、浮気されて」
「ええ~っ!? 千幸が浮気されたの? 話を聞いて時はそういうタイプでななさそうだったのに」
信じられないと口を尖らせ怒ってくれる友人の姿に、千幸は当時の辛く悲しかった気持ちを思い出した。
終わってしまったことだし、吹っ切れていることだが、それに対して怒ってくれる友人の姿が嬉しくて微笑する。
「うん。私もびっくりで。現場押さえちゃったからその時にすぱっと切れた。それに最近になって彼の転勤が決まったし、これはこれでタイミングよかったのかなとは思ってる」
「そうなの? ならそのうちいなくなっちゃうんだ?」
「うん。そういうこと」
絵理奈は目を細め頷いた千幸をじっと見ていたが、ふぅーんと声を漏らし真剣な顔をした。
「なんか、そんなに落ち込んでない感じ?」
「まあ、一か月ほど前のことだし。もう、吹っ切れてるよ。それよりも絵理奈は?」
「それよりもじゃないし。連れ込みって普通にあるんだね。そのことにびっくりだわ。まあ、千幸が吹っ切れてるならいいけど」
「うん。すっぱり。誤魔化しようのないもの見たから、もういいって気持ちが切れちゃった。もしかしたら、中途半端に怪しげな証拠とかだったら、今も悶々としてたかも」
現場を押さえたのは衝撃で、そのため千幸も行動をすぐに移せた。
「ふーん。そういうもん?」
「多分、ね」
あと、それ以上の衝撃的な出来事があったことも加味されるだろうけど、と心の中で付け足す。
元彼どころではなく、ありとあらゆる方法で主張し占拠してくる小野寺のことでいっぱいいっぱいだ。
未練の『み』の字はどこへ? くらいさっぱりしている。
運ばれてきた定番のマルゲリータピザを切り分けながらさらっと告げる千幸を見て、絵理奈がほっと笑うと口を尖らせた。
61
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる