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3惑甘ネジ

接点③

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「本当、すっきりしてそうだね。よかった。私は何もないなぁ。そもそも出会いがないよ。仕事しだしたら同じルーティンで、会社の男は所帯持ち、下手したら孫までいる人ばっかだし。若い男との出会いってどこ状態」
「合コンとかは?」
「ないこともないけど。でも、芋っぽいていうかパッとしないというか。紹介されても何か違うんだよね。学生じゃないのだから、がっつかれても引くし。かといって、今時の草食男子も物足りないし。こう、この人っていうのがなかなか」

 ようは今の自分が惹かれる人との出会いがないと言いたいようだ。

「出会いねぇ」
「そう、出会い!」

 年を重ねるごとに経験も積んできているから、見方も変わってきてしまう。前は良いと感じたものが響かなくなり、なかなかこの人だっていう出会いがないのだろう。
 環境が変われば、価値観も知らず知らずに変わってくるのは仕方がないことだ。

 学生の時は格好いいなとか、趣味が合うなとか、学生という社会的に重責がないなかで楽しむことは気が楽で、だからこそ純粋にいろんなことを楽しめたりもして。
 その範囲の中で波長があったり惹かれたりして、付き合うことが多い。

 もちろん苦しい恋愛もあるし、学生だからといって気楽というわけではない。
 千幸も何でも自由にというわけにはいかなかったが、学生生活と恋愛を楽しんできた。あの日々はとても貴重でかけがえのないものだ。

 比べたりするものでもないが、やはり社会人と学生とでは時間の使い方、動き方、お金の使い方などは確実に違う。
 社会人になると、社会に出ている大人としての自覚を相手にも求めてしまう。

 恋愛関係なく、仕事をスマートにこなす人は格好いいと感じる。
 良いにこしたことはないが、顔の美醜や年齢はあまり関係ないように思う。
 どちらかというと、性格、性質のほうが目につく。それに顔や経済力がプラスされると、騒がれるというかそんな感じだ。

 楽しいだけでは駄目だし、相手がしていることを尊敬できるかというのも大事だったりする。年齢とともに増えた経験が積み重なり、見える範囲が増える。
 そこにどう恋愛感情が絡むかということなのだろう。

「確かに、まだ一年しか経ってないけど学生の時と今の気持ちというか求めているものって変わってきているかもしれないね」
「そうなんだよねー。職種だけじゃなくて趣味でも譲れないものを持って取り組んでいるとか、続けているとかは素敵だよね。遊んでいてもいいけどチャラすぎるだけとかはちょっとなぁ。で、千幸って今彼氏は?」
「さっき別れたって言ったけど?」
「そうなんだけどさ、噂であのキングと夜デートしてたって聞いたから」

 絵理奈はにやっと笑みを浮かべ、さあ、取り調べの時間だと、好奇心旺盛な視線を向けてくる。
 ああ、これが話したくて今日はいきなり切り出してきたのかと苦笑しながら、そこまで興奮する話題でもないだろうと肩を竦める。

「噂って。仕事関係でたまたま男の人といるのを見たとかじゃないの? どうせそれはまた美耶みやちゃんあたりからでしょ?」
「仕事の人じゃないって。キングだよ。キ・ン・グ」
「キング? って誰?」

 直訳すると王様って。
 そんな風に呼ばれている人周りにはいないし、聞いたこともない。

「キングってほら、大学の時に三つ上の先輩で有名だった人。キングとその仲間と取り巻きみたいな感じでうじゃっと華やかな集団あったでしょ?」
「んー、そういう華やかな集団があるのは聞いたことはあるけど、実際間近で見たことないしよく覚えてないなぁ」

 そう告げると、絵理奈の目がこれでもかってほど驚愕に開かれた。
 ぎらぎら、きらきらビームを発するかのごとく、力強い眼差しになる。

「本当? ちらっとも?」

 ずずずっと前に寄ってきて、信じられないとばかりに千幸を見てくる。

「さすがに遠目では何度かあるよ。でも、たくさん人だかりがあって誰が誰とかまで気にして見たことないし」
「嘘だって。夏休み明けくらいだったかな? 千幸の近くにいるのを何回か見たことあったよ」
「そうなの? でも、記憶にないし。話したことのない人はあまり覚えてないから」

 断言されても、記憶にないものはない。
 そう告げると、何でよおっと大袈裟に溜め息をつかれる。

「記憶力いいくせに、関係ないと思ったらすっぱり記憶の外なのは相変わらずだよね」

 絵理奈は呆れたようにくるくるとフォークを回しながら、取り分けたボンゴレパスタを口に運んだ。同じように千幸も口に入れる。
 あさりのだし汁とスパイスの辛味が程よく口の中に広がり、少し辛味が最後に残ったので水を飲むと、会話を続ける。

「だって、容量は限られてるから覚えたいこと覚えてたらいいと思うし。実際、それで困ったことないからいいと思うけど」

 キャパシティは人それぞれだ。その使い方は本人が決めてもいいと思っている。
 必要か不必要。
 キャパが狭いとは思わないが、広いほうでもないので、有効活用しようと思って何が悪いと居直る。
 絵理奈は肩を竦めると、どうしてもこの話を先に進めたいと前のめりになって続ける。

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