26 / 38
────1・可視交線────
25幼馴染と先輩④
しおりを挟むそのタイミングで、ブゥーンと機械音が近づき扉が開く音。
エレベーターが来るの遅くないだろうか。トラブルでもあったのだろうかと思えるくらい、エレベーター前で時間を食った気がする。
「乗りますよ」
端的に告げた翠は、蒼依の腕を有無を言わさず掴み乗り込んだ。
「す、翠っ」
驚いて翠を見上げるが、こちらを見下ろす瞳はどこか責めるような光があった。不機嫌さを漂わせたまま、蒼依を奥へと促すと手がそっと離される。
「如月も幼馴染の前ではそういう表情するんだな」
蒼依の目の前に立つ翠に、にやにやしながら桐生が西園寺とともに乗り込んでくる。
西園寺はふふっと笑い、小さくウインクをして見せた。その仕草は、モデルのパフォーマンスのように様になりすぎて全く違和感がない。
失礼ではなかったとしても、明らかに話を遮った失礼な後輩の態度に気を悪くすることなく、二人は楽しげだ。
「いつもと変わりませんが?」
翠は淡々と返しているが、さすがにさっきの態度は違和感を覚えるものだろう。
「ま、そういうことにしておこうか」
それににやりと返しながら、桐生が一階のボタンを押した。
他にも誰かエレベーターに乗る人がいるかと廊下を見たが、役員優先だということを思い出し、結局は誰も乗ってこないまま四人でそのまま降りることになった。
──というか、これは四人で食堂の流れ?
普通にお腹を満たす予定が、思わぬ翠との再会。
そのまま食事をしながら会話となるはずが、さらに生徒会役員で同じ朱雀寮でもある先輩二人も追加され、このメンツで何を話すというのか。
先輩二人が自分たちの前で昼は何にするかと話しているのを聞きながら、蒼依はそっと翠を見上げた。
翠もこちらを見ていたらしく目を細めると、するりと前髪を触られおでこを見せるように横に流される。
「髪、伸びましたね。切らないの?」
先ほど西園寺に触られた場所を二度ほど往復し、そっと手が離れていく。
妙に大人っぽいその仕草にどきっとしながら、昨日から視界を遮る黒縁越しに己の前髪を見た。
「切る時間がなくって。落ち着いたら切ろうと思ってる」
「眼鏡は? 目悪くなった?」
「理仁さんが餞別だって。だから、切るまではつけとこうかなって」
「……そう。その方がいいかもね」
少し考えるように顎に手を当てた翠は、分けた前髪を元に戻すとそれっきり前を向いた。
何を考えているかわからないが、翠の和らいだ空気にほっととする。
──これって、これからも翠と幼馴染として接していいってことでいいのかな?
微妙な距離感をずっと感じているが、さっきは少しだけ敬語が崩れたし。
だよね? だよね? と期待を胸に、蒼依はにこにこと翠を見つめた。
先輩たちがいるから踏み込んだ会話はできないが、翠も少しずつ調整してきてくれているのを感じ、慌てなくてもいいかと思う。
一度、視線を交わすと欲が出る。
言葉を交わすともっともっとキリがない。話したいこと、聞きたいことがたくさんあるが、またいつでも話せるのだと余裕も出てきた。
翠のことを考えて不安でそわそわしていたのは今朝のことなのに、こうして会いに来てくれただけですっかり気分が良くなるなんて自分でも現金すぎると思う。
すべてのわだかまりが互いになくなったわけではないが、また一緒に過ごすことができる現実が蒼依の心を満たしていく。
朝とは違ったドキドキを胸に、蒼依は口元を綻ばせながら胸を押さえた。
「本当にアオは……」
小さな吐息とともに、翠がくしゃりと蒼依の髪を撫でる。
「翠?」
「いいえ。アオより大きくなりましたよ」
ふっ、と笑うと、真剣な表情で翠は蒼依を覗き込み、亜麻色の瞳が切なげに揺れる。
蒼依が口を開けようとしたが、エレベーターが階下に到着すると一瞬でその瞳は感情を隠し、翠は姿勢を戻した。
蒼依も思うところはあるが、今は二人きりではないと思考を現実に戻し、それ以上は何も言わなかった。
2
あなたにおすすめの小説
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
先輩たちの心の声に翻弄されています!
七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。
ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。
最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。
乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。
見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。
****
三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。
ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる