秘める交線ー放り込まれた青年の日常と非日常ー

Ayari(橋本彩里)

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────1・可視交線────

25幼馴染と先輩④

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 そのタイミングで、ブゥーンと機械音が近づき扉が開く音。
 エレベーターが来るの遅くないだろうか。トラブルでもあったのだろうかと思えるくらい、エレベーター前で時間を食った気がする。
 
「乗りますよ」

 端的に告げた翠は、蒼依の腕を有無を言わさず掴み乗り込んだ。

「す、翠っ」

 驚いて翠を見上げるが、こちらを見下ろす瞳はどこか責めるような光があった。不機嫌さを漂わせたまま、蒼依を奥へと促すと手がそっと離される。

「如月も幼馴染の前ではそういう表情するんだな」

 蒼依の目の前に立つ翠に、にやにやしながら桐生が西園寺とともに乗り込んでくる。
 西園寺はふふっと笑い、小さくウインクをして見せた。その仕草は、モデルのパフォーマンスのように様になりすぎて全く違和感がない。

 失礼ではなかったとしても、明らかに話を遮った失礼な後輩の態度に気を悪くすることなく、二人は楽しげだ。

「いつもと変わりませんが?」

 翠は淡々と返しているが、さすがにさっきの態度は違和感を覚えるものだろう。

「ま、そういうことにしておこうか」

 それににやりと返しながら、桐生が一階のボタンを押した。
 他にも誰かエレベーターに乗る人がいるかと廊下を見たが、役員優先だということを思い出し、結局は誰も乗ってこないまま四人でそのまま降りることになった。


 ──というか、これは四人で食堂の流れ?


 普通にお腹を満たす予定が、思わぬ翠との再会。
 そのまま食事をしながら会話となるはずが、さらに生徒会役員で同じ朱雀寮でもある先輩二人も追加され、このメンツで何を話すというのか。

 先輩二人が自分たちの前で昼は何にするかと話しているのを聞きながら、蒼依はそっと翠を見上げた。
 翠もこちらを見ていたらしく目を細めると、するりと前髪を触られおでこを見せるように横に流される。

「髪、伸びましたね。切らないの?」

 先ほど西園寺に触られた場所を二度ほど往復し、そっと手が離れていく。
 妙に大人っぽいその仕草にどきっとしながら、昨日から視界を遮る黒縁越しに己の前髪を見た。
 
「切る時間がなくって。落ち着いたら切ろうと思ってる」
「眼鏡は? 目悪くなった?」
理仁りひとさんが餞別だって。だから、切るまではつけとこうかなって」
「……そう。その方がいいかもね」

 少し考えるように顎に手を当てた翠は、分けた前髪を元に戻すとそれっきり前を向いた。
 何を考えているかわからないが、翠の和らいだ空気にほっととする。


 ──これって、これからも翠と幼馴染として接していいってことでいいのかな?


 微妙な距離感をずっと感じているが、さっきは少しだけ敬語が崩れたし。

 だよね? だよね? と期待を胸に、蒼依はにこにこと翠を見つめた。
 先輩たちがいるから踏み込んだ会話はできないが、翠も少しずつ調整してきてくれているのを感じ、慌てなくてもいいかと思う。

 一度、視線を交わすと欲が出る。
 言葉を交わすともっともっとキリがない。話したいこと、聞きたいことがたくさんあるが、またいつでも話せるのだと余裕も出てきた。

 翠のことを考えて不安でそわそわしていたのは今朝のことなのに、こうして会いに来てくれただけですっかり気分が良くなるなんて自分でも現金すぎると思う。
 すべてのわだかまりが互いになくなったわけではないが、また一緒に過ごすことができる現実が蒼依の心を満たしていく。

 朝とは違ったドキドキを胸に、蒼依は口元を綻ばせながら胸を押さえた。

「本当にアオは……」

 小さな吐息とともに、翠がくしゃりと蒼依の髪を撫でる。

「翠?」
「いいえ。アオより大きくなりましたよ」

 ふっ、と笑うと、真剣な表情で翠は蒼依を覗き込み、亜麻色の瞳が切なげに揺れる。
 蒼依が口を開けようとしたが、エレベーターが階下に到着すると一瞬でその瞳は感情を隠し、翠は姿勢を戻した。

 蒼依も思うところはあるが、今は二人きりではないと思考を現実に戻し、それ以上は何も言わなかった。


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