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────1・可視交線────
26通り名①
しおりを挟むエレベーターを先に降りた先輩たちの後を着いて行く。
「姫さんは食堂初めてか?」
「結城です。ええ、昨日案内はしてもらいましたが、使用するのは初めてです」
桐生の問いかけと『姫』呼びを速攻訂正し答えながら、しばらく歩き食堂へと繋がる大きな扉を開けると、高い天井の空間が広がった。
大きな窓から太陽の光が部屋を照らし、開放感をもたらす。
テラスもあり、そこには色とりどりの花が咲いた庭が広がっている。
そこにある白いテーブルと椅子は、天気がいいこともあって埋まり、寮生たちは気持ち良さそうに食事をしながらおしゃべりに興じていた。
南条寮長に案内された時に軽く覗いただけであったが、実際に中に入ってみると高級ホテルのような仕様。磨かれた床に十分な間隔をとったテーブルの配置。
そこに、スタッフが料理を運ぶ姿もあった。
桐生と西園寺がドアを開けた途端、ざわっと食堂内が騒がしくなる。
「来たー」
「プラチナ王子~」
「生徒会揃ってるぅ」
きゃっ、きゃっと黄色い声。うん。朝で慣れたよ。
「如月会長だ」
「氷の女王と一緒だ」
「桐生先輩と西園寺先輩、やっぱり仲いいな」
「如月も一緒か」
「西園寺様が麗しい」
うん。うん。この雰囲気は体育館で嫌という程知った。縮小版ですね。
それとは別に、蒼依に少し余裕が生まれたためか、体育館とはまた違った反応も聞こえる。
「ちっ、うるさいな」
「ダル」
「毎度、毎度飽きないな」
「食事くらい静かに食べろって」
へえ、この反応は新しい。
この空気が嫌いな人もいるのだろうと、それはそれで納得だ。どちらかというと正常な意見だとも思う。
「あれが抱っこ姫の」
「おおぉぉぉぉ~、なんか豪華だな。メガネあれだけど、転入生は可愛い系?」
「小さいしな」
うん。最後のはいらない。男に可愛い系ってなんだ?
それに、小さいって失礼だし。なるべくそちらに向かないようにしよう。
聞き取れたのはこれくらいだが、プラチナ王子は西園寺の通り名というのは知っている。抱っこ姫は、不本意ながら自分。あとは、氷の女王?
選択肢でいうと、翠か桐生だが消去法で翠だろう。
桐生は女王というよりは、宰相系。目的のためなら悪巧みオーケーオーケーどんどんいこうという感じで、率先して動きそうだ。
ぶわぁっと一気に押し寄せる波のような騒ぎに圧倒され固まっていると、桐生がすっと手を挙げるとシーンと静かになった。
調教師??
ここに調教師がいるっ!! この人数を一瞬で黙らせるってすごい。
「じゃ、行くぞ」
「そうだね」
桐生が呼びかけ、西園寺が頷く。
何事もなかったかのように、足を進める二人に蒼依も翠とともに後を追いかける。
というか、やっぱりこの流れは一緒に食べる感じだよね。いいの?
そう思い翠の方を見やると、小さく諦めの息を吐く。
「この際だから、ここのシステムのことを先輩方に聞くのもいいです。同じ寮ですから、知り合いになっておくのは悪いことではなので」
「よくわからないけど、翠が言うなら」
「ただ、くれぐれも気をつけてくださいね」
「……何に?」
「それは、のちのちわかると思います。ここまで来たら、関わるなら関わっておく方がいいでしょう」
「……うん。ここまで来たらっていうの不安だけど。この学園ちょっと変わってるよね?」
ずっと溜め込んでいたことを、ついっと翠のブレザーを引っ張り背伸びしてこそこそと耳元で告げる。
その際に、後ろに並んでいた人物がざわついた気がしたが、翠がちろりと視線をやると静かになった。
「えっと……」
何かやってしまったかと躊躇いながら翠から離れると、翠は静かに蒼依を見下ろしてきた。
「そういうところ、本当変わらない……」
「翠?」
何やらぶつぶつと口を動かしたが聞こえず首を傾げると、はあっと溜め息をつかれる。
「まあ、アオに何か言ったところで変わらないか」
「それはどういう意味?」
「そのままです。それで独特という話ですが、ここは閉鎖された空間ですからね。外の常識とは違うところも多々あります」
「ああ~、なんとなくくらいはわかるかな」
「ここで話すことでもないので、また後で教えます。今は先にお昼を食べましょう」
「うん。そうだね」
注文の仕方を教えてもらいながらメニューを決め、先輩二人が座っている席に同じように着く。
寮内の食堂は夜の利用と、学園の活動がない時の昼食時に使用できる。授業が昼を跨ぐ時は校舎内の食堂、もしくは売店を利用するのが決まりだと教えてもらっている。
基本、自分のものは自分で持っていき返却するまでが決まりだが、役職持ちや人が少ない時はレストランのように給仕してくれることもあるらしい。それは、寮でも校舎でも同じこと。
なので、運ぶ方が困らないようにどちらも役職持ちは役職持ちスーペースが設けられているらしく、現在は四人中三人が役職持ちということもあって蒼依のものも運んでくれることになった。
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