秘める交線ー放り込まれた青年の日常と非日常ー

Ayari(橋本彩里)

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────1・可視交線────

19近づく①

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 それは睫毛の影に隠された瞳が神秘のベールを被ったようで、相手にどう印象づけるのか蒼依本人は理解していない。
 蒼依の双眸は日本人にしては色素が薄く灰色で、光の加減で青くも見え相対する者からは神秘的に映る。一度その瞳に魅入られた者は、手を伸ばしたくて、その視線を向けさせたくて仕方がなくなるものだった。

 それは翠も例外ではない。
 久しぶりに目の当たりにしたその姿に、高ぶりそうになる気持ちをぐっと手を握りしめ逃し、深く深く大きく息を吐き出した。
 目を細めゆっくりと意識して力を抜くと、翠から一歩踏み出し蒼依へと近づいた。

「言いたいことはたくさんあります。この二年間どこで何をしていたのかとか。探しても見つからなかった相手が、予告もなく急に、しかも学園に姿を現した。正直、何から話せばとか理解が追いついていなくて整理できていません」

 どうやら顔を合わせたくないようでしたしね、と付け足された言葉に、蒼依が式の時にあえて視線を合わせないようにしていたことをしっかり把握されていたことを知る。

「…………それは、ごめん。こっちも急だったからどうしていいのかわからなくって」

 本当に申し訳ない。
 避けられていると感じても、このように話に来てくれた翠の大人の対応に頭が下がる。

 この学園に放り込まれて、翠がいるとわかって、気持ちが定まらないうちに再会して。
 何もかもが急すぎて、蒼依も翠と同様に気持ちや考えの整理ができていない。

 どうしたら納得してもらえるのか、自己満足にならない説明ができるのか、答えを見つけていない。
 今の蒼依では、たくさんの疑問を抱えているだろう翠にうまく説明できると思えなかった。そんな状態で話しても、きっといい結果にならない。

 蒼依は控えめに、これだけははっきりしていると気持ちを告げる。

「視線を逸らしたのは、本当にどうしていいのかわからなくて焦っただけというか。翠がどう思っているのかもわからなかったし……。だけど、翠とこうして会えて嬉しいのは本当。いろいろあるけれど、これだけは本当の気持ちだから……」

 信じてほしいと、縋るような気持ちで見つめる。
 しばらく沈黙していた翠が、小さく息を吐き出した。さっきから溜め息をばかりつかせている。

「……そうですか。なら、今はひとつだけ確認させてください」
「うん」

 答えられることなら、何でも。
 傷つけたであろう翠には誠実でいたいんだと見つめ返し、蒼依は力強く頷いた。

「もう何も言わずにいなくならないでください」
「……それはっ」
「事情があったのだろうことは理解してます。でも、納得はしていない。今すぐ全てを話せなくても、ここに入学したということはそういうことでいいんですよね? 俺のところから勝手に消えないって」

 翠がまた一歩近づき、顔を覗き込んでくる。

 小さい頃から、本当に知りたいこと見極めたいことがあると、至近距離でじっと見つめてきた。これはもう翠の癖なのだろう。
 自分よりも背が高くなって見下ろされるのは新鮮だけど、その真摯な瞳に見据えられては否とは言えない。

「……わかった。約束する」
「今度は逃しません。逃げようとするなら、すべて暴きますから」
「わかってる」

 翠にはそうする資格はある。はきっと逃れられないことは蒼依もわかっていた。
 実際のところ、それが心の奥ではわかっていたから会う覚悟がなかったというのが一番の理由だ。

 もしかしたら、それを見透かされての翠の行動なのかもと思い当たり、やっぱり敵わないなと蒼依はこくりと頷いた。

 知られたくない。──でも、知って欲しい。相反する気持ちは常にせめぎ合い、常に不安定だ。
 行動も思考も定まらない自分は、きっと周囲に迷惑をかけてしまう。わかっていても、迷ってしまう。

 迷っている時に、寄り添われると甘えそうになる。
 蒼依はどうしようもない陰鬱な気持ちになって、それを隠すように瞳を伏せた。

「アオ」

 甘やかにそっと名を呼ばれ、蒼依は視線を上げる。
 再会して初めて呼ばれる己の名があまりにも優しく丁寧に呼ばれたことに、白い羽がふわりふわりと頭上からゆっくりと落ちてくすぐりながら心に浸透するようで、どこか現実味が帯びずぱちぱちっと瞬き、翠を凝視した。

 目の前の翠の眼差しが一瞬懐かしそうに細められ、長く伸びた前髪にするりと手が伸ばされる。
 ゆっくりと前髪を横にと流され、耳にかすめる手がくすぐったくて蒼依は瞼を再び下げた。

 一気に空気が甘く優しくなった。表情はあまり変わらずそっけないと思うことの方が多いのに、触れられると胸の奥がそわそわする。
 指の感触にぴくっと身体を揺らして反応をすると、翠の指がさわさわと明らかに耳をなぞっていく。

「翠」
「なんですか?」
「耳、くすぐったいんだけど」
「嫌ですか?」
「嫌というか」
「なら、いいじゃないですか? この二年間のことを今ここで問いたださないことの代わりと思って」
「……翠が意地悪だ」
「それをアオが言いますか」
「なんで?」

 どういう意味かと訊ねると、そこでじっとこちらを見ていた翠が軽く肩を竦め、はあ、と溜め息をついた。
 また、溜め息をつかれてしまった。

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