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気分はヒーローショーのヒーローを前にした子供 1
しおりを挟む手にした紙面に視線を走らせる。
大きな字で書きだされた見出し。
紙面を賑わす話題はここ最近既に見慣れたもので。
読み終えたニュースペーパーを折り畳み、バサリと机の上に置いた。
「会いたいな」
机の上で組んだ腕に顎を乗せ、一言呟く。
「彼に会えるかい?」
「お望みとあらば」
「遣り合って無事でいられる見込みは?」
「問題ありません」
問い掛けに簡潔に返される言葉。
視線の先で跪いた黒を纏う男から返されるその言葉には自惚れも取り繕いもなく。
ただ事実を述べているのだとわかる。
そのことに微笑んで告げる。
「では、彼を此処に。但し、無理だけは決してしないように。話をしたいだけで事を荒立てる気は毛頭ないから彼方が如何しても拒むようならそれで構わない」
「はっ」
短い了承と一礼を残し男は消えた。
中断していた仕事を再開させるためにニュースペーパーを脇へとよけながら思う。
だけどきっと無理矢理にでも連れてくるんだろうなと。
忠義の塊みたいなあいつなら。
その男を拾ったのは偶然だった。
二年ほど前、避暑に別荘を訪れていたときのことだ。
その男は木に寄りかかるようにして倒れていた。
仔狐を追って走り出したベアトリクスが彼を見つけた。
「きゃっ」
聞こえた小さな悲鳴に何事かと慌てて俺達も走り出す。
「あの、お具合が悪いのですか?」
ぐったりとした様子に具合が悪いと思ったのだろう。
恐る恐る男へと手を伸ばすベアトリクス。
「ベアトリクスっ!?」
見知らぬ男に不用意に近づくベアトリクスに制止の声を掛けるもその声が届くよりも早く、鮮血が舞った。
風の切り裂く音と、煌めく軌跡。
それをベアトリクスが瞳に映すことはなかっただろう。
何故なら、彼女は男に庇われ抱き留められていたから。
突如現れた二人の不届き者。
一人が振るった短剣を男が弾きとばし、もう一人が振るった刃から守るように男がベアトリクスを腕に庇う。
その刃が届くよりも俺の剣が最愛の妹に刃を向けたその腕を斬りつける方がずっと速かった。
悲鳴を上げさせるつもりもなかったのでそのまま腹に一撃を喰らわせ、もう一人は剣の柄を首筋に叩き込んで気絶させる。
「お…兄……様…?」
可哀想に震えた声で俺を呼ぶベアトリクスに慌てて血に濡れた剣を収めた。
「大丈夫だよ。だけどもう少しだけ眼を瞑っていなさい」
見知らぬ男の腕からベアトリクスを抱き起し、その瞳を塞ぐように胸元に抱き込んだまま安心させるように髪を何度も撫でる。
カタカタと小さく震える躰。
指通りのいい髪を何度も撫でるうちに震えは少しずつ収まった。
その時の俺の心境。
はらわたが煮えくり返っていた。
倒れ伏せた二人を睨む俺の視線は絶対零度だったと思う。俺の最愛の妹を怖がらせたうえ刃を向けたなど万死に値する!!
だけどベアトリクスを怖がらせるのは本意でないので溢れる殺気を何とか自重する。
「ベアトリクスっ!大丈夫だったか?!」
妹を心配するガーネストに視線で合図をし、ひとまずベアトリクスをここから遠ざけさせることに成功。
ガーネストがベアトリクスを支えながら遠ざかったのを確認して、漸く俺は男へと視線を戻した。
その間、残り二名は捕縛済み。
突発的な出来事だったのに縄とか持ってたんだね!とか突っ込みたいけど突っ込んじゃダメかな?
そしてさり気無く俺の盾になれる位置をずっとキープしてるリフ。
俺の従者が今日も超優秀ですっ!!
「さて、ひとまず可愛い妹を庇ってくれたことに礼を言おう。彼らはお仲間かい?」
それが出会い。
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