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社交辞令的な「こんど」じゃなかった……
しおりを挟む「本当にいいのかなぁ……」
「大丈夫ですわ。おじ様はお優しい方ですのよ」
「うーん。そういうこと以前にね」
「兄さま?」
現在、クラレンスはただっ広い厨房にいた。
もはや入り浸っているといっても過言でない自宅の厨房でも、たまにお邪魔する騎士団の厨房でもない。正真正銘の王城の厨房だった。
そう、王城リターンです。
覚えておいでだろうか?
先日王妃様がおっしゃっていた「可愛い姪っ子と甥っ子の手作りが気になる」「こんど料理を作って」というお言葉を。
あのお言葉はどうやらガチだったようです。
城から再びの招待状が届きました。……あのあとわりとすぐに。
「ごめんなさい、クラレンス様。お母様もノリ気でおば様と盛り上がってしまったようで……」
エプロン姿のシルクが申し訳なさそうに頭を下げた。
「べつにシルクが謝ることじゃないけど」
クラレンスとて料理をするのが嫌なわけじゃない。
決してそうではないのだが……見知らぬこどもの作ったものを王様に提供していいのか、と疑問なだけだ。
まぁ、王様の奥さんからのご依頼なので怒られることはないだろうが……。
「王妃様がたもとても楽しみにしておりましたよ」
穏やかに声をかけてくれたのは、やや目尻の下がった背の高い男性。
厨房に案内されてまず紹介されたここの責任者さんだ。
他にも何人かの料理人さんたちが料理を手伝ってくれる。
そしてもう一人。
ブロンデル家の料理長、クマさんことベアーズさんもいます。
助っ人として一緒に来てくれた。とっても心強い。
「えっと、まずは……今日つくるのはトルティーヤと、あとピタパンを作ろうと思います」
「具材はなにを?」
「…………」
責任者さんに問われ、クラレンスは一瞬だまった。
なぜなら作る予定のものが彼らのしらないメニューばかりだから。
「どうしました?」
「いえ、たぶんしらない料理名なのでなんて説明しようかなぁって。から揚げと、照り焼きとポテトサラダなんですけど……」
「から揚げに照り焼き、それからポテト、サラダ……ですか?」
料理人さんたちの頭上にものすごくハテナマークが見えました。
特にポテトサラダ。
前者二つはよくわからないながらも調理法だと認識されたのだろう。
ポテトサラダはシルクと同じく生のジャガイモを想像しているのかもしれない。ポテトをサラダに??という疑問がめちゃくちゃ伝わってきた。
「んー、チキンを使った料理とポテトサラダはまったり系のサラダです」
「サラダがまったり?」
上手く伝わらなかったうえに、さらに疑問が深まったようだ。
そもそも、マヨネーズが流通していないこの世界ではサラダはオイル系のサラッとしたドレッシングをかけて食べるぐらいなのでまったりとは程遠い。
「チキンを使った二品はわりとボリュームのあるメニューです。ですので皆さまには野菜や魚介を使った具材を数種作って頂きたいです。ああ、照り焼きは甘めで、ポテトサラダはマイルドな味ですのでスパイシー系なんかも宜しいかと」
ハテナを深める料理人さんたちへの説明に戸惑っていると、料理長が救いの手を差し伸べてくれた。
クラレンスは瞳を輝かせてクマさんを仰ぎ見る。
料理長の言葉を受け、料理人さんたちがなんの具材をつくるか話し合ってくれる。
王城の厨房で働く料理人さんたちだ、王族の人たちの好みもしっかりと把握しているだろう。
さあ、お料理開始です。
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