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氷姫救出編
ヒュドラ
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漆黒の鱗に覆われた体。大地を踏み締める雄々しい四本足。太く長い強靭な尾。そして胴から生えている六つの首。
その姿は蛇というよりもドラゴンに近い。
目的としていた首より少ない事を喜ぶべきか、落胆するべきか。
……前者なんだろうな。
連戦に次ぐ連戦。みんなの疲労を考えるならここで七本首が出てこなくて良かった。
たとえ六本首だとしても一目見てわかる。白大蛇なんかとは比べ物にならないほど強い。まるで大人と赤子だ。体内に秘める魔力、纏う雰囲気。どれをとっても格が違う。
同じS級でもここまで違うのかと戦慄する。
「第三偽剣、断黒!」
時間が惜しい。みんなが動ける内に倒さなければならない。やるならば短期決戦だ。
断罪刃がヒュドラの首を断つべく放たれた。だが俺はすぐに自分のミスを悟った。
白大蛇の首をも容易く切断する斬撃はヒュドラの黒鱗に難なく弾かれた。
「チッ!」
つい舌打ちが漏れる。
……硬すぎる!
温存なんてしている場合ではなかった。考えが甘かったとしか言いようがない。ヒュドラはそれ程の敵だ。
即座に二刀を闇へと戻し、大太刀と鞘を作り出す。取るのは抜刀の構え。
第一偽剣は放てない。ならば――。
「……第六偽――」
だがそこでヒュドラが持つ全ての首が大口を開けた。口内にはすでに色とりどりの魔術式が記述されている。つまり地水火風、そして光と闇。
それぞれの首がそれぞれの属性を司っている。
これこそがヒュドラだ。
本能が警鐘を鳴らす。俺は偽剣を中断しその本能に従った。
「アイリス!!! サナ!!! 全力で防御!!!」
「はい!」
「うん!」
アイリスとサナが即座に魔術式を記述した。
カナタと俺は頷き合う。俺は縮地、カナタは瞬雷を使い一瞬で後退した。
二人が即座に魔術式を記述する。
――聖属性結界魔術:神聖結界
――光属性防御魔術:絢爛なる城壁
後退した俺たちの目の前に光り輝く結界と煌びやかな城壁が現れた。魔術に内包されている魔力が凄まじい。文字通り全力の防御だ。
防御魔術が出現するのとヒュドラが再び口を開けるのは同時だった。
六つの首から六つの魔術が放たれる。
全てを呑み込む土石流、渦巻く炎、猛々しい激流、荒れ狂う竜巻、七色に輝く極光、静かに燃える黒炎。
魔術と魔術が衝突し、凄まじい轟音と閃光が洞窟全体を満たす。
「「……くぅ!」」
二人から苦悶の声が漏れた。見れば防壁にヒビが入り、広がっていく。
「防ぎ切れるか!?」
「……できる!」
「……できます!」
二人が魔術に魔力を込める。できたヒビが修復されていく。だが、修復された側から再度ヒビが入る。
膠着状態だ。だが防ぎ切ればこちらの勝ちだ。このままの状態を維持できればいい。
俺は行動で示してくれた二人の言葉を信じる。
「任せたぞ! みんな! これを防ぎ次第攻勢に出る! カノン! 前に六本首と戦った時はどうやって倒した?」
「……呪いで弱らせてから首を切断した。……でもあいつはわたしが戦った六本首とは違う。……私たちに切断できてレイに切断できないはずがない」
「……変異種か」
眉を顰める。白大蛇に続いてヒュドラも。
……勇者を仕留めるのが目的か?
そう考えずにはいられない。魔物の動きといいタイミングといい俺たちに都合が悪すぎる。
「まあだからと言ってやる事は変わらねぇな。カノン。ありったけの呪いをかけて弱らせてくれ」
「……わかった」
カノンと肩に乗った鴉が魔術式を記述する。そうして生まれたのは二羽のカラス。そして生まれた鴉がまた魔術式を記述する。
すぐに鴉たちは十羽になった。カノンの頭上を飛び回る三つ目の鴉。
「「「カァァァ!!!」」」
鴉が甲高く鳴いた。
全ての鴉が頭上を飛び回り一つの魔術式を記述していく。黒くおどろおどしい巨大な魔術式。それも普通の魔術式とは違い、立体的な魔術式だ。
「……立体……魔術式」
カナタが呆然と呟いた。目の前で繰り広げられている光景がどれほど高度な物か、俺にはわからないがカナタが驚くぐらいだ。大変な事なのだろう。
立体魔術式が一際大きく輝き、中心へと集束していく。それが鎌を形作った。
カノンの身長を優に超える大鎌が姿を現す。
――呪属性召喚魔術:死鎌
試験の時に見たものとは別格だ。見ているだけで息が詰まる。死を無理矢理形にしたような大鎌だった。
カノンが大鎌を手にした時、役目は終えたとばかりに鴉たちが消えていった。
「……これが私の使える最高の呪具。……でも魔力がすっからかん」
「わかった。その鎌はどれだけもつ?」
「……内包した魔力が尽きるまで」
「了解。やっぱ短期決戦だな」
おそらくだがこの魔物の大群もヒュドラで最後だろう。
こんなものを持ち出してきたのだ敵の司令塔も切羽詰まっていると考えていい。
「そんなん使われたら俺も負けてられねぇな」
ウォーデンが得意の二槍を虚空へと消した。
ちなみにウォーデンが槍をどこから取り出しているのかというと、自分の魔力と同化させているらしい。原理はよくわからないが、魔剣や魔槍と言った物はそういう機能を持っている事が多いらしい。
カナタの刀も同じ原理だとか。
新たに取り出したのは見たことの無い槍。その槍は身長の高いウォーデンと同じぐらいの長さだった。
カノンの出した大鎌とは違い、何も感じない。見た目もボロボロで刃も欠けている。ヒュドラに突き立てようものなら折れてしまいそうで心配になる。
だが、不思議と目が離せない。
「……それは?」
「無槍アルデガルデ・エルナミス。貫けない物は無いと言われている魔槍だ。ヤツの鱗はオレが貫く」
「そりゃ頼もしいな」
その時、アイリスとサナが張った防御魔術が大きな音を立てて砕けた。
だが、宣言通りヒュドラの魔術は防ぎ切った。
「二人ともよくやった! 少し休んでろ! 行くぞ! 第五封印解除!!!」
俺とカナタが瞬時に距離を詰め、カノンとウォーデンが己の得物を構えた。
その姿は蛇というよりもドラゴンに近い。
目的としていた首より少ない事を喜ぶべきか、落胆するべきか。
……前者なんだろうな。
連戦に次ぐ連戦。みんなの疲労を考えるならここで七本首が出てこなくて良かった。
たとえ六本首だとしても一目見てわかる。白大蛇なんかとは比べ物にならないほど強い。まるで大人と赤子だ。体内に秘める魔力、纏う雰囲気。どれをとっても格が違う。
同じS級でもここまで違うのかと戦慄する。
「第三偽剣、断黒!」
時間が惜しい。みんなが動ける内に倒さなければならない。やるならば短期決戦だ。
断罪刃がヒュドラの首を断つべく放たれた。だが俺はすぐに自分のミスを悟った。
白大蛇の首をも容易く切断する斬撃はヒュドラの黒鱗に難なく弾かれた。
「チッ!」
つい舌打ちが漏れる。
……硬すぎる!
温存なんてしている場合ではなかった。考えが甘かったとしか言いようがない。ヒュドラはそれ程の敵だ。
即座に二刀を闇へと戻し、大太刀と鞘を作り出す。取るのは抜刀の構え。
第一偽剣は放てない。ならば――。
「……第六偽――」
だがそこでヒュドラが持つ全ての首が大口を開けた。口内にはすでに色とりどりの魔術式が記述されている。つまり地水火風、そして光と闇。
それぞれの首がそれぞれの属性を司っている。
これこそがヒュドラだ。
本能が警鐘を鳴らす。俺は偽剣を中断しその本能に従った。
「アイリス!!! サナ!!! 全力で防御!!!」
「はい!」
「うん!」
アイリスとサナが即座に魔術式を記述した。
カナタと俺は頷き合う。俺は縮地、カナタは瞬雷を使い一瞬で後退した。
二人が即座に魔術式を記述する。
――聖属性結界魔術:神聖結界
――光属性防御魔術:絢爛なる城壁
後退した俺たちの目の前に光り輝く結界と煌びやかな城壁が現れた。魔術に内包されている魔力が凄まじい。文字通り全力の防御だ。
防御魔術が出現するのとヒュドラが再び口を開けるのは同時だった。
六つの首から六つの魔術が放たれる。
全てを呑み込む土石流、渦巻く炎、猛々しい激流、荒れ狂う竜巻、七色に輝く極光、静かに燃える黒炎。
魔術と魔術が衝突し、凄まじい轟音と閃光が洞窟全体を満たす。
「「……くぅ!」」
二人から苦悶の声が漏れた。見れば防壁にヒビが入り、広がっていく。
「防ぎ切れるか!?」
「……できる!」
「……できます!」
二人が魔術に魔力を込める。できたヒビが修復されていく。だが、修復された側から再度ヒビが入る。
膠着状態だ。だが防ぎ切ればこちらの勝ちだ。このままの状態を維持できればいい。
俺は行動で示してくれた二人の言葉を信じる。
「任せたぞ! みんな! これを防ぎ次第攻勢に出る! カノン! 前に六本首と戦った時はどうやって倒した?」
「……呪いで弱らせてから首を切断した。……でもあいつはわたしが戦った六本首とは違う。……私たちに切断できてレイに切断できないはずがない」
「……変異種か」
眉を顰める。白大蛇に続いてヒュドラも。
……勇者を仕留めるのが目的か?
そう考えずにはいられない。魔物の動きといいタイミングといい俺たちに都合が悪すぎる。
「まあだからと言ってやる事は変わらねぇな。カノン。ありったけの呪いをかけて弱らせてくれ」
「……わかった」
カノンと肩に乗った鴉が魔術式を記述する。そうして生まれたのは二羽のカラス。そして生まれた鴉がまた魔術式を記述する。
すぐに鴉たちは十羽になった。カノンの頭上を飛び回る三つ目の鴉。
「「「カァァァ!!!」」」
鴉が甲高く鳴いた。
全ての鴉が頭上を飛び回り一つの魔術式を記述していく。黒くおどろおどしい巨大な魔術式。それも普通の魔術式とは違い、立体的な魔術式だ。
「……立体……魔術式」
カナタが呆然と呟いた。目の前で繰り広げられている光景がどれほど高度な物か、俺にはわからないがカナタが驚くぐらいだ。大変な事なのだろう。
立体魔術式が一際大きく輝き、中心へと集束していく。それが鎌を形作った。
カノンの身長を優に超える大鎌が姿を現す。
――呪属性召喚魔術:死鎌
試験の時に見たものとは別格だ。見ているだけで息が詰まる。死を無理矢理形にしたような大鎌だった。
カノンが大鎌を手にした時、役目は終えたとばかりに鴉たちが消えていった。
「……これが私の使える最高の呪具。……でも魔力がすっからかん」
「わかった。その鎌はどれだけもつ?」
「……内包した魔力が尽きるまで」
「了解。やっぱ短期決戦だな」
おそらくだがこの魔物の大群もヒュドラで最後だろう。
こんなものを持ち出してきたのだ敵の司令塔も切羽詰まっていると考えていい。
「そんなん使われたら俺も負けてられねぇな」
ウォーデンが得意の二槍を虚空へと消した。
ちなみにウォーデンが槍をどこから取り出しているのかというと、自分の魔力と同化させているらしい。原理はよくわからないが、魔剣や魔槍と言った物はそういう機能を持っている事が多いらしい。
カナタの刀も同じ原理だとか。
新たに取り出したのは見たことの無い槍。その槍は身長の高いウォーデンと同じぐらいの長さだった。
カノンの出した大鎌とは違い、何も感じない。見た目もボロボロで刃も欠けている。ヒュドラに突き立てようものなら折れてしまいそうで心配になる。
だが、不思議と目が離せない。
「……それは?」
「無槍アルデガルデ・エルナミス。貫けない物は無いと言われている魔槍だ。ヤツの鱗はオレが貫く」
「そりゃ頼もしいな」
その時、アイリスとサナが張った防御魔術が大きな音を立てて砕けた。
だが、宣言通りヒュドラの魔術は防ぎ切った。
「二人ともよくやった! 少し休んでろ! 行くぞ! 第五封印解除!!!」
俺とカナタが瞬時に距離を詰め、カノンとウォーデンが己の得物を構えた。
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