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氷姫救出編

勇者パーティ選抜試験

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「結局なにも思い付かなかった……」

 天窓からは朝日が差し込んでいた。
 昨日はベッドの上で試験内容を考えていたら寝てしまった。

 というのも俺には戦うことしかできない。
 一対一では時間がかかり過ぎるし、そもそも相手は後衛だ。前衛の俺と一対一をしても意味がない。
 かと言って集団戦にすると遠距離から魔術を集中砲火されて試験の意味がない。

 頭を悩ませていると扉からノックがした。

「レイ。起きてるか?」
「カナタか。起きてるよ。入っていいぞ」

 カナタが扉を開けて部屋に入ってきた。朝早いというのにしっかりと身支度を整えている。

「どうした?」
「いや、また徹夜して寝過ごすなんてことも考えられるからな。起きてるならいい」
「わるいな。そういや試験は何時いつからだ?」
「二時間後だ。試験内容は決めたのか?」
「うっ」

 言葉を詰まらせた俺にカナタが笑った。まるで他人事だ。

「そう言うお前は決めたのかよ」
「決めたさ。あとはお前が何人残すかだな。全員は落とすなよ?」
「そんな事しねぇよ。サナからもにって言われてるしな」
「それが一番困るやつだな」
「だな」

 ひとしきり雑談をした後にカナタとは別れた。
 今から食事に行くらしい。俺は起きたばかりで身なりを整えないといけないから先に行ってもらった。

 ……まあなるようになるか。

 楽観視、もとい現実逃避をしながら俺は着替えを始めた。



 勇者パーティ選抜試験は、王都にある闘技場で行われる。
 闘技場は地球でいうコロッセオのような円形闘技場だった。中央には舞台があり、外周には観客席がある。
 観客席には一部分、豪華な装飾を施された貴族専用の席も完備され夜に開催されるパーティーの出席者達はここにいる。

 そして俺たち勇者パーティも同じ場所にいる。
 今は舞台上にいる参加者達を見下ろす形でアイリスが演説を行なっている。

「この度は、集まっていただきありがとうございます――」

 本物の王女なだけあってその姿は板についている。
 その横には勇者であるサナが、そのまた隣には俺とカナタがいる。
 
 サナはこちらに来てからも制服を着ていたが、今は勇者に相応しい煌びやかな騎士服を着ていた。
 馬子にも衣装というやつだ。口に出せば怒られるので絶対に言わない。
 
 かく言う俺とカナタも正装に身を包んでいる。勇者パーティの正装はそのまま戦闘服になるらしい。
 俺は全体的に黒を基調としたロングコートだ。左胸には黒い氷の結晶が刺繍されている。
 この結晶は胸の封印と同じデザインをしている。アイリスのアイデアだ。
 
 闇を纏って戦うため防御面は心配ない。だから服装なんてテキトーでいいとアイリスには伝えたのだが出来上がった正装はごりっごりの魔導具だった。
 普通の剣ぐらいなら斬られても弾くし、各種耐性も完備されているらしい。大盤振る舞いだ。
 良い物であるに越したことは無いので俺は素直にお礼を言って受け取っておいた。

 カナタは俺と同じようなデザインだが、雷をイメージしてかロングコートに白いラインが入っている。胸にある紋章も雷をモチーフにした物になっている。

 俺とカナタはいままで客人という立場だったが、これからは勇者パーティの一員となる。
 あくまで一員なだけで地球出身だとは伏せてある。俺は柊木レイではなくただのレイだ。

「こちらがこの度召喚された勇者、サナ・スメラギ様です!」

 アイリスが勇者であるサナを観衆へ紹介した。
 その言葉に会場中だけでなく王都中が沸いた。空気がビリビリと震えるような大歓声がここまで伝わってくる。

 この演説は魔導具を通じて王都中に放送されているらしい。

 名前を呼ばれたサナがアイリスの隣に立つ。その姿は堂々とした物だった。

「ご紹介に預かりました。勇者サナ・スメラギと言います」

 サナの行った自己紹介にまたもや歓声が上がった。

「この度は勇者パーティの募集に集まって頂きありがとうございます。試験は私の仲間が行います。全力を出し尽くしてがんばってください。……それと結果はどうであれこの場に集まった方々は皆、勇者だと私は思っています。国を、世界を私と一緒に守りましょう!」

 一息に言い切ってサナが拳を天に突き上げた。それでまた大歓声が上がる。
 サナが観衆へ向け一礼してから下がる。

 手筈としてはこの後すぐに試験が開始される。つまり俺の出番だ。

「ではレイさん。よろしくお願いします」

 アイリスが小さな声で言ってきた。それに頷くと俺は前に出る。
 残念な事にまだ試験内容は決まっていない。

「勇者パーティ、前衛のレイだ」

 俺が名乗りを上げると会場中が静まり返った。サナの時とは逆だ。
 無数の視線が俺に突き刺さる。

 ……なんだ?

 その視線に好意的な物は含まれていなかった。
 疑念や俺を値踏みするような視線だ。敵意まではいかずとも快く思っていないことは確実。そんな視線だった。

 ……ああ。なるほど。

 考えればすぐにわかる事だ。
 つまり、無名の人間がどうして初めから勇者パーティにいるのか。そういう事だ。

 彼らから見れば俺はぽっと出の若造だ。実績もろくにないヤツがどうしてという心境だろう。
 それに俺が若いのもある。ここに集まっている人々は経験を積んだベテランだ。ほとんどが俺よりも年上なのだ。
 そりゃ不信感も募るという物だ。

 ……まあ俺には関係ないけどな。
 
 そこで俺は一つの案を思いついた。
 集団戦でもはじめに数を減らせば良いのだ。それにこの方法ならば数も減らせる。

 だから俺は尊大に言い放つ。

「お前らの不信感は最もだ。だから……これぐらい――」

 要は実力を見せつければ良い。
 
 ――耐えて見せろよ?

 俺は獰猛に笑い呟く。

「第一封印解除」

 封印が解け、俺の胸から闇が溢れ出し周囲に漂う。それと共に眼下へ向けて跳躍し、俺は――。

 ――殺気を放った。
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