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氷姫救出編
魔術
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神殿は王都の王城、その裏手にあった。俺たちは馬車で移動し、王城上階にあるアイリス王女の私室に来ていた。
騎士と神官――正確には騎士団長と魔術師団長なんだとか――は私室に入る事を反対していたが、アイリス王女が押し通した形だ。
その際、サナは勇者として、俺とカナタはアイリス王女の客人として扱うことが決まった。
初めは俺たちも勇者として扱うと提案されたが丁重にお断りした。
あまり目立ちたくなかったからだ。もしもの時に動き辛くなるのはゴメンだ。カナタも俺と同じ理由で便乗した。
アイリス王女の私室は豪華だった。まさにお姫様の部屋と言った感じだ。家具から調度品、小物に至るまでいくらするのか想像も付かない煌びやかな物が揃っていた。壊したら大事になりそうだ。
『さて、では教えていただけますか?』
全員が椅子に座ったところでアイリス王女が言った。
『その前に言語理解の魔術を使ってもらえますか? カナタはこちらの言葉を話せないので』
『これは失礼しました』
アイリス王女がカナタに手を翳すと魔術式が浮かび、魔術が発動した。
『カナタどうだ?』
「大丈夫だ。サナは大丈夫なのか?」
「うん! 私はちゃんと理解できてる。話せはしないけど多分日本語で通じてるよね?」
アイリスは俺がこちらの世界へ来る前にサナへ謝罪をしたと言っていた。おそらくサナは勇者召喚の術式でこちらの言葉が通じるようになっている。
「はい。サナ様のお言葉は通じています」
「なんでだろうね?」
『多分、勇者召喚の影響だ。言語理解の魔術が組み込まれているんだろう』
そもそもの話、俺が異質なのだ。
普通は召喚された人間と召喚者で意思疎通なんてできない。それが当たり前だ。なにせ世界が違う。歩んできた歴史も違ければ文明も違う。だから言語も違うと考えるべきだ。同じ方がおかしい。
しかしそれでは効率が悪すぎる。もし召喚者が言語理解の魔術を使えなかったら言語学習からやる羽目になる。
それならば勇者召喚に言語理解の術式を組み込んだ方が効率的だ。あんな天体術式を遠隔で発動できるのだからそんなことは造作もないだろう。
「それにしてもこんな魔術があるのか……」
カナタの言葉が尻すぼみになる。
『どうした?』
「いや。少し気になったことがあってな。アイリス王女。差し支えなければ火を出す魔術式を教えてもらっても?」
『わかりました』
アイリス王女が人差し指を立ててその先に魔術式を記述した。
魔術とは魔術定数を組み合わせて魔術式と呼ばれるものを作る。そこに魔力を流すとはれて魔術の完成だ。
魔術師達は大抵、自分の魔力を編み込んで空間に式を記述する。
「やっぱり同じだ」
カナタが難しい顔で頷く。
それは俺も気になっていた事だ。
ラナとカナタが使う魔術式が似ていた。ならば必然的にアイリス王女とカナタの魔術も似ている事になる。
そして魔術師であるカナタが同じであるというならそうなのだろう。
「俺たち地球の魔術師も火を出すなら同じ魔術式で魔術を発動する」
カナタもアイリス王女と同じように魔術式を記述した。そして魔力を流し込み小さな火が指先に現れた。
考えてみるとおかしい。地球と異世界の魔術が同じ。偶然では説明できないような気がする。
……言語は違うのに魔術式は同じか。
俺は爺から魔術の理論は一通り教わっている。
魔術定数とは世界に定められている文字だ。物理定数のように絶対不変の数値なのだ。
それが同じということは少なくとも魔術において、この世界は地球と同じ法則が適応されている。
……やっぱりそれを偶然の一言で片付けるのは無理だな。
俺はラナを救った後に聞いてみようと決めた。
天才であるラナならば俺の疑問を解消してくれるかもしれない。
「ちょっと待って。カナタって魔法使いなの!? 何もないところから刀出してたのも魔法!?」
「……魔法使いじゃない。魔術師だ」
「……何か違うの?」
「全然違う。俺たち魔術師は魔術定数っていう法則を使って魔術を発動する。だけど魔法使いは法則そのものを創り出す。まあ簡単に言うとバケモノだな。この世界にいるのかはわからないが地球には一人だけしかいない」
魔術の事を知れば魔法使いがどれほどのバケモノかがよくわかる。
彼らの武器は概念だ。
例として刀の魔法使いがいたとする。そいつの武器は刀ではなく、刀という概念だ。
無から刀を作り出すことが可能だし、作り出した刀は全てを斬り裂く。原理とか物理法則、魔術法則なんて物は通じない。
簡単にいうと魔法使いは魔術師の上位互換だ。
「魔法使いもいるんだ……。もしかしてレイも魔術師? なの?」
「いや俺は違う。魔力がないから魔術なんて使えないしな」
「じゃあレイは何者?」
「それをこれから話すんだ。カナタ。もういいか?」
「大丈夫だ。なんで同じ魔術式なのか疑問は残るけどな。アイリス王女もありがとうございます」
『いえ、私も少し……いえかなり気になります。……もしよかったらあとでチキュウの魔術を教えていただけますか?』
「それは願ってもない申し出ですね。是非よろしくお願いします」
魔術師同士で話がまとまり二人がこちらを向いた。
『じゃあ始めるか。まずは前提条件を知らないサナに勇者召喚について話そうと思う』
騎士と神官――正確には騎士団長と魔術師団長なんだとか――は私室に入る事を反対していたが、アイリス王女が押し通した形だ。
その際、サナは勇者として、俺とカナタはアイリス王女の客人として扱うことが決まった。
初めは俺たちも勇者として扱うと提案されたが丁重にお断りした。
あまり目立ちたくなかったからだ。もしもの時に動き辛くなるのはゴメンだ。カナタも俺と同じ理由で便乗した。
アイリス王女の私室は豪華だった。まさにお姫様の部屋と言った感じだ。家具から調度品、小物に至るまでいくらするのか想像も付かない煌びやかな物が揃っていた。壊したら大事になりそうだ。
『さて、では教えていただけますか?』
全員が椅子に座ったところでアイリス王女が言った。
『その前に言語理解の魔術を使ってもらえますか? カナタはこちらの言葉を話せないので』
『これは失礼しました』
アイリス王女がカナタに手を翳すと魔術式が浮かび、魔術が発動した。
『カナタどうだ?』
「大丈夫だ。サナは大丈夫なのか?」
「うん! 私はちゃんと理解できてる。話せはしないけど多分日本語で通じてるよね?」
アイリスは俺がこちらの世界へ来る前にサナへ謝罪をしたと言っていた。おそらくサナは勇者召喚の術式でこちらの言葉が通じるようになっている。
「はい。サナ様のお言葉は通じています」
「なんでだろうね?」
『多分、勇者召喚の影響だ。言語理解の魔術が組み込まれているんだろう』
そもそもの話、俺が異質なのだ。
普通は召喚された人間と召喚者で意思疎通なんてできない。それが当たり前だ。なにせ世界が違う。歩んできた歴史も違ければ文明も違う。だから言語も違うと考えるべきだ。同じ方がおかしい。
しかしそれでは効率が悪すぎる。もし召喚者が言語理解の魔術を使えなかったら言語学習からやる羽目になる。
それならば勇者召喚に言語理解の術式を組み込んだ方が効率的だ。あんな天体術式を遠隔で発動できるのだからそんなことは造作もないだろう。
「それにしてもこんな魔術があるのか……」
カナタの言葉が尻すぼみになる。
『どうした?』
「いや。少し気になったことがあってな。アイリス王女。差し支えなければ火を出す魔術式を教えてもらっても?」
『わかりました』
アイリス王女が人差し指を立ててその先に魔術式を記述した。
魔術とは魔術定数を組み合わせて魔術式と呼ばれるものを作る。そこに魔力を流すとはれて魔術の完成だ。
魔術師達は大抵、自分の魔力を編み込んで空間に式を記述する。
「やっぱり同じだ」
カナタが難しい顔で頷く。
それは俺も気になっていた事だ。
ラナとカナタが使う魔術式が似ていた。ならば必然的にアイリス王女とカナタの魔術も似ている事になる。
そして魔術師であるカナタが同じであるというならそうなのだろう。
「俺たち地球の魔術師も火を出すなら同じ魔術式で魔術を発動する」
カナタもアイリス王女と同じように魔術式を記述した。そして魔力を流し込み小さな火が指先に現れた。
考えてみるとおかしい。地球と異世界の魔術が同じ。偶然では説明できないような気がする。
……言語は違うのに魔術式は同じか。
俺は爺から魔術の理論は一通り教わっている。
魔術定数とは世界に定められている文字だ。物理定数のように絶対不変の数値なのだ。
それが同じということは少なくとも魔術において、この世界は地球と同じ法則が適応されている。
……やっぱりそれを偶然の一言で片付けるのは無理だな。
俺はラナを救った後に聞いてみようと決めた。
天才であるラナならば俺の疑問を解消してくれるかもしれない。
「ちょっと待って。カナタって魔法使いなの!? 何もないところから刀出してたのも魔法!?」
「……魔法使いじゃない。魔術師だ」
「……何か違うの?」
「全然違う。俺たち魔術師は魔術定数っていう法則を使って魔術を発動する。だけど魔法使いは法則そのものを創り出す。まあ簡単に言うとバケモノだな。この世界にいるのかはわからないが地球には一人だけしかいない」
魔術の事を知れば魔法使いがどれほどのバケモノかがよくわかる。
彼らの武器は概念だ。
例として刀の魔法使いがいたとする。そいつの武器は刀ではなく、刀という概念だ。
無から刀を作り出すことが可能だし、作り出した刀は全てを斬り裂く。原理とか物理法則、魔術法則なんて物は通じない。
簡単にいうと魔法使いは魔術師の上位互換だ。
「魔法使いもいるんだ……。もしかしてレイも魔術師? なの?」
「いや俺は違う。魔力がないから魔術なんて使えないしな」
「じゃあレイは何者?」
「それをこれから話すんだ。カナタ。もういいか?」
「大丈夫だ。なんで同じ魔術式なのか疑問は残るけどな。アイリス王女もありがとうございます」
『いえ、私も少し……いえかなり気になります。……もしよかったらあとでチキュウの魔術を教えていただけますか?』
「それは願ってもない申し出ですね。是非よろしくお願いします」
魔術師同士で話がまとまり二人がこちらを向いた。
『じゃあ始めるか。まずは前提条件を知らないサナに勇者召喚について話そうと思う』
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