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第二章(謎解きのおわり)
たろちゃん、変身す。
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……あれ?
「……こんな裏道を通って行くんですか?」
太郎さんが、僕を引き連れて行ったのは、駅前の飲食店街ではなくて、むしろ反対側の住宅街だった。
でも、こんな街灯さえ、まばらな道沿いに、個室の飲食店なんて、あるのだろうか?
隠れ家とか、そんな、間宮辺りが知ってそうな穴場の店でもあるのか?
そんな僕の疑問をよそに、太郎さんは予想もしないタイミングで、急に建物の中へと入り込んだ。
僕には一言も了解を得ないで、無言で勝手に入って行ったので、慌てて後に続いた。
まだ外は明るいのに、入口に入った途端に、ほの暗いせいで、何とも不安を煽られるような建物だった。
辺りには、カビ臭いような埃っぽい空気が充満している。古びた建築物のニオイがした。
そういえばここは、僕がまだ子供だった頃に、何やらいかがわしい店をやっていたとかで、子供たちの間でも知られていた場所だったはずだ。
今時あまり見かけない、茶色いレンガ積みの薄暗い建物は、特にリフォームもされないまま、それでもまだ取り壊されることもなく残されていたようだ。
「……え?」
今は、風営法に引っかかるとかで、風俗みたいなお店はやっていないはずだけれど、それでも、かつての淫靡な面影がどこかしこに残る店舗で、マトモな飲食店をやってる店があるとは、とても思えなかった。
「……なに?」
「……あの、こんなところに飲み屋なんて、ありましたっけ?」
「あー、ここ、ラブホだから」
「あー、ラブホテルですか、なるほどって……えええええっ!?」
「おいおい、声うるせーから」
「……えっ、だって、ちょっと……待ってくださいよ」
てっきり居酒屋に行くものと思い込んでいた矢先の、まさかのラブホテルに連れて来られて、僕は、完全に混乱していた。
「……だって、男同士で、そんなところ……」
「……ハーア」
僕の話を聞くなり、太郎さんは、あからさまに顔をしかめた。
「おまえなー、だから、ほんとに……そういうとこだぞ」
「……えっ、なにがですか?」
そう、小声で聞き返しながらも、もちろん心は上の空である。
「だから、そういう男同士だとか、そういう同性同士であることを問題に上げることが、まず失礼だろ」
「いやでも……僕、ほんとにこういう場所に来るのって初めてで、しかも男と入るなんて」
いや、あったわ。
一緒に入った記憶こそ無いけど、気がついたら男と二人でラブホテルのベッドの上だった経験は、そういえば、何故だかあります。
しかも、そのときの相手が、今あなたの持ってるスマホの中に居ます。
僕は、非常にパニクった。
「……ったく、しゃーねーな。んじゃ、これなら文句ねーだろ」
そう言うなり太郎さんは、おもむろに、頭の後ろで一つ結びにしていた髪の毛をほどいた。
腰の付近まである、しなやかな黒髪がサラサラと太郎さんの頬に寄り添っていく。
そして、僕は、いつだったか、どこかで、同じ光景を見たことがあるような、そんな気分に心を動かされていた。
そうだ、これはデジャヴだ。
そして、思い出した。
「……あっ、あのときの本屋の女性って、あなただったんですかっ……!?」
僕の目の前に、まだツイッターでデジャヴさんと出会う前に、本屋で店員さんに話しかけられてパニックになったときの、まさに、その女性店員さんが立っていた。
マスクをしているせいで、目元しか見えず、頬の骨格も黒髪で隠されているから、本当に女の人にしか見えなかった。
しかも太郎さんのまつ毛は、とても長いのだ。
またもや唖然として何も言えなくなった僕を見て、太郎さんは勝ち誇ったように微笑んでいる。
「……こんな裏道を通って行くんですか?」
太郎さんが、僕を引き連れて行ったのは、駅前の飲食店街ではなくて、むしろ反対側の住宅街だった。
でも、こんな街灯さえ、まばらな道沿いに、個室の飲食店なんて、あるのだろうか?
隠れ家とか、そんな、間宮辺りが知ってそうな穴場の店でもあるのか?
そんな僕の疑問をよそに、太郎さんは予想もしないタイミングで、急に建物の中へと入り込んだ。
僕には一言も了解を得ないで、無言で勝手に入って行ったので、慌てて後に続いた。
まだ外は明るいのに、入口に入った途端に、ほの暗いせいで、何とも不安を煽られるような建物だった。
辺りには、カビ臭いような埃っぽい空気が充満している。古びた建築物のニオイがした。
そういえばここは、僕がまだ子供だった頃に、何やらいかがわしい店をやっていたとかで、子供たちの間でも知られていた場所だったはずだ。
今時あまり見かけない、茶色いレンガ積みの薄暗い建物は、特にリフォームもされないまま、それでもまだ取り壊されることもなく残されていたようだ。
「……え?」
今は、風営法に引っかかるとかで、風俗みたいなお店はやっていないはずだけれど、それでも、かつての淫靡な面影がどこかしこに残る店舗で、マトモな飲食店をやってる店があるとは、とても思えなかった。
「……なに?」
「……あの、こんなところに飲み屋なんて、ありましたっけ?」
「あー、ここ、ラブホだから」
「あー、ラブホテルですか、なるほどって……えええええっ!?」
「おいおい、声うるせーから」
「……えっ、だって、ちょっと……待ってくださいよ」
てっきり居酒屋に行くものと思い込んでいた矢先の、まさかのラブホテルに連れて来られて、僕は、完全に混乱していた。
「……だって、男同士で、そんなところ……」
「……ハーア」
僕の話を聞くなり、太郎さんは、あからさまに顔をしかめた。
「おまえなー、だから、ほんとに……そういうとこだぞ」
「……えっ、なにがですか?」
そう、小声で聞き返しながらも、もちろん心は上の空である。
「だから、そういう男同士だとか、そういう同性同士であることを問題に上げることが、まず失礼だろ」
「いやでも……僕、ほんとにこういう場所に来るのって初めてで、しかも男と入るなんて」
いや、あったわ。
一緒に入った記憶こそ無いけど、気がついたら男と二人でラブホテルのベッドの上だった経験は、そういえば、何故だかあります。
しかも、そのときの相手が、今あなたの持ってるスマホの中に居ます。
僕は、非常にパニクった。
「……ったく、しゃーねーな。んじゃ、これなら文句ねーだろ」
そう言うなり太郎さんは、おもむろに、頭の後ろで一つ結びにしていた髪の毛をほどいた。
腰の付近まである、しなやかな黒髪がサラサラと太郎さんの頬に寄り添っていく。
そして、僕は、いつだったか、どこかで、同じ光景を見たことがあるような、そんな気分に心を動かされていた。
そうだ、これはデジャヴだ。
そして、思い出した。
「……あっ、あのときの本屋の女性って、あなただったんですかっ……!?」
僕の目の前に、まだツイッターでデジャヴさんと出会う前に、本屋で店員さんに話しかけられてパニックになったときの、まさに、その女性店員さんが立っていた。
マスクをしているせいで、目元しか見えず、頬の骨格も黒髪で隠されているから、本当に女の人にしか見えなかった。
しかも太郎さんのまつ毛は、とても長いのだ。
またもや唖然として何も言えなくなった僕を見て、太郎さんは勝ち誇ったように微笑んでいる。
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