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全然眠れなかった…

眠い目を擦り、ミネルバの横で丸まる

昨夜は凄かった…。好きって言ったあとミネルバが豹変して、とにかく凄かった…

終わりがない営みに、先に根を上げたのはネロだった

そのあと、シャワーを浴びに行き中に出されたものを出しているとミネルバが入ってきて、また襲われた

そのままベッドでも何回かして、無防備な顔をして寝ているミネルバの頬を撫でる

目を閉じていても凄まじい美貌だ。寸分違わず神様が設計したような美しさに見惚れながら、もう室内は明るくなってきている

目が冴えてしまったけれど、少しでも眠ろうと目を瞑る

見つかったネロとは何者だろう?ミネルバの嬉しそうな顔、結婚まで申し込んでいたから当たり前かもしれないけれど…

内心複雑だ

ミネルバには恥ずかしい事を沢山された。こんなことしておいて、自分以外の誰かが好きとか言わないよね?

ミネルバにくっついて祈るように眼を閉じる

そのうち揺り起こされて、まだ眠いうちからふわふわのシャツと黒いパンツを履かされ、履き物をミネルバの手ずから履く

手を引かれて、連れて行かれたのは噴水の近くの庭園だった

薔薇が瑞々しく咲き、雨上がりの匂いがする

庭園に広げられたテーブルや椅子、白いレースのランナーの上には果物が沢山並んでいた

そして、そこにその人はいた

人懐っこそうな笑顔を浮かべ、さらりとした黒髪に吸い込まれそうな黒い瞳、顔立ちは平凡ながらも、なんとなく危うい色気を感じる

装飾品を身に纏い、貴族のような恰好をした自分と瓜二つの男を二度見する

どう見ても自分と瓜二つの人物がいるのだ


「……ネロ!昨夜はよく寝れたか?」

ミネルバはクロの手を離し、ネロと呼ばれた少年に駆け寄って抱きしめる

いつも冷たい碧眼が愛おしそうに細められるのを見て、ハンマーでガンっと頭を殴られたような衝撃を受けた

あの眼は、向けられた事がない。かつて、ネロだった時はあったのかもしれないけれど

心臓が嫌な感じでバクバクと鳴った

手を取り、大事なものだといわんばかりに、少年の手にキスをする

少年がミネルバと変わらない貴族のような出立ちと、ネロの質素で飾り気のない格好が立場を明確に分けていた

ミネルバの抱擁を受けていた少年はゆっくりと顔を上げて、ネロを見つけると、花が咲き綻ぶように笑顔に変わって駆け寄ってきた

「………クロ!無事で良かった!!」

ネロは抱きついてくる自分と違わぬ男に眼を白黒させる。一体、お前は誰なのだと問い詰めたい気持ちを堪え、戸惑う

「ふふ、驚きすぎて声が出ないみたいだね。兄との再会を喜んでくれないの?」

頬に触れるだけのキスをされ、頭を掻き乱される

「あ、に?兄さん……?」

ネロに兄などいない。これは一体誰なのか?戸惑うネロの視線が、下に下がる

これは一体どういうことだろうか?またミネルバが幻覚を見せているんだろうか?グリフォンの時のようなものなのだろうか?

ミネルバは笑顔のまま上機嫌そうだ

「クロは今日は疲れているみたいだから、そのまま朝食をとりなさい。ネロ、屋敷を案内しよう」

ミネルバは少年の手を取り、いとおしげに肩を抱いて一度もネロを振り返らずに案内に行ってしまった

残されたネロは、へなへなと椅子に座る。自分は大方、婚前交渉出来ないネロの代わりだったのだろう

髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。最高に嫌な気分だった

というか、あれは一体誰なのだろうか

薄絹のシャツを引き千切りたいような気持ちになる

涙も出なかった。自分が馬鹿だったのだ。

ミネルバの挙動に一喜一憂し、少し優しくされたぐらいで舞い上がり馬鹿みたいに腰を振って、好きなんて言うんじゃなかった。ミネルバはクロを見てはいやしない。ずっとネロを見ていたのだ。

自分なのだが、自分でないような不可解な現象は、名前を取り戻すまでもう立証できなくなってしまった

いつ呪いが解けるか解らないのに。

本当に馬鹿みたいだ

どちらも自分と言えるし、どちらも自分とは言えない。しかし、少年が現れた事で明確に違う人物になってしまった。

握った拳が震える。

あまりの出来事にふらふらと教会で神父に祈りを貰った後、果樹園に来てしまった

「クロ、今日の格好可愛いでち!わしの嫁世界一可愛いでち!」

すぐに作業をしていたであろうピークパッツァが飛びついてきた

ピークパッツァの頭を撫でながら混乱を鎮めようとするが、全然おさまらない。自分そっくりの人間が自分を名乗って現れたのだ

「ぴ、ピークパッツァ、ごめんね仕事の邪魔して…」

「遠慮するなでち!クロ、今日元気ないでち?大丈夫よ?ピークパッツァはクロの味方よ?」

そのまま、ピークパッツァの肩に顔を埋めて、ネロは静かに泣き始めた

ショックだった。あんなにあっさりと違いを見せつけられた事が。

自分なんてどうでもいいと見せつけられたことが

「か、果樹園に、帰りたいよぅ…」

啜り泣くネロの髪をピークパッツァは優しく梳く

ピークパッツァが口を開きかけたとき、ネロは首いきなり根っこを掴まれて、後ろに放り投げられた

あまりの衝撃に涙が止まり、自分を放り投げた人物をがたがたと震えながら見上げる

「そんなに、鞭打たれる生活が恋しいか。少し優しくしてやっただけで随分なのぼせ様だな!そんなに戻りたいなら戻してやるっ!!」

いつの間に居たのか、激昂したミネルバが怒鳴りながら机の上にあったピークパッツァの鞭を振り上げネロに振り下ろす

腕や、脚を強かに打った鞭で、皮膚が裂け、血が溢れた

痛みといきなりの暴力にネロに出来たことは、蹲る事だった

泣きながら身を丸めるネロにミネルバは何度も鞭を振り下ろす

「奴隷の分際で主人に逆らうな!!生意気な!クロ!!」

「ミネルバ、やめて!ピークパッツァが、寂しい言ったからでちょ!クロは悪くないでつ!」

慌ててピークパッツァが泣きながら止めに入ったが、ミネルバの逆上の仕方は凄まじく、ピークパッツァは振り払われて転がって壁に頭を打ち、気絶してしまった

「…ピークパッツァ!」

ピークパッツァに駆け寄ろうとしたネロの前にミネルバが立ち塞がる

「二度と、果樹園に戻りたいなど言うな!戻るぞ。悪いことしたら何ていうんだ?」

ミネルバに怯え震えて身を丸めるネロの腕を無理矢理掴み、ミネルバは引きずっていく

「うう、ごめんなさい!ごめんなさい…!」

泣きじゃくるネロにミネルバは舌打ちし、向き直る

「あのようなこと、二度と言うな…」

そっと抱き寄せられても、恐怖しかない。身体はガタガタ震えている

いつまでも泣き止まないネロにミネルバは舌打ちしてきて、あの昏くて怖い目で見てくる。

そのまま部屋に連れて行かれ、虹色の液体、オンズの花の露を無理矢理飲まされた。

きっと、ネロのキズをあの少年に言い訳がきかないから治すのだろう

ネロはむっつり口を結んで部屋の隅で、ずっと泣いていた

ミネルバは苛立ったように、ずっとクロの前で腕組みをして見下ろしている。

「ミネルバー?いる?入るよ?」

自分と同じ声が外から聞こえ顔を上げると、少年がニコニコしながら部屋に入ってきた

ミネルバは、ぱっと顔色を変えて少年を迎え入れる

「ネロ、どうかしたか?」

「いや、クロの声が聞こえたから。あ、クロと同じ部屋にしてもらってもいい!?積もる話があるからさ。ん?クロ?なんで泣いてんの?え!?怪我してんじゃん!」

蹲るネロの手を引き、心配そうに少年が顔を覗きこんできた
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