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ピークパッツァの果樹園で、ネロが間引いた果物が真っ赤な大きな実をつけた
みずみずしく甘い香りはするけれど、まだまだ果実は熟れていないらしい。熟れるとぱっくり割れるんだそうだ。
ビタンビタンと尻尾を振って喜ぶピークパッツァと、大きな実に防護の油紙を実に被せていく
実がなるまで、名称のわからないゲジゲジした蟲達との戦いや、木を掘り起こす魔獣をピークパッツァと棒でしばいて叩き出したり、夜中に来る泥棒を大きな音を出すことで威嚇して追い出したり大変だった
基本スキルが使えないネロと、まだ子供なので非力?な(本当かわからないが軍竜人だと噂のある)ピークパッツァの2人組で組まされる事が多く、喋れないネロがつまらないからと、子供のピークパッツァの相手をしたくない奴隷達の取り決めでこうなっているのだろう
しかし、ネロはピークパッツァの無邪気さや可愛さが好きになった
ピークパッツァは絶対に一人でオヤツを食べず必ずネロに半分こしてくるし、水浴びも好きだから2人でよく近くの川に行って水浴びもした
まるで弟みたいに可愛らしい
ピークパッツァはネロに懐いて、たまに他の人には絶対に触らせないという頭の角や尻尾を触らせてくれた
「なー、クロもこっちに住むでち。わし1人は寂しいでち。どうせ寮はつまらない、ピークパッツァいないからクロもさびちいでちょ?」
ピークパッツァのお誘いに少し誘惑される。寮は確かに退屈だけれど、ピークパッツァみたいに竜人ではないから果物だけでは暮らせない
寮はボリューム満点のご飯が出るのだ
「一緒に寝るでちょ。ピークパッツァの尻尾、好きなだけ触るといいでち」
必死のピークパッツァは滅多に触らせてくれない尻尾をネロの手に触れさせてまでお願いしてくる
少し考えて、食事だけ摂りに戻ればいいかと頷く
どのみち寮にいてもする事はない
頷いたネロにピークパッツァは嬉しそうに抱きついて来る
その日から、ネロはピークパッツァと寝床を共にするようになった
ピークパッツァは基本体温が高いので湯たんぽみたいに心地よい
ある夜、ピークパッツァがネロを揺さぶり起こした
「ね、クロいいもの見せるでち。ついて来るのよ」
小さい手に引かれて、まだ眠たい目を擦りつつピークパッツァについていく
行き先は、いつも2人で水浴びしている川辺だった
真っ暗な道に、ぽつぽつと淡い光が飛ぶ
ピークパッツァが座ってシーと指を立てて、目をキラキラとさせている
横に座ると、暫くすると光の洪水みたいに、辺りから光りが飛び立つ
「魔物の一種なんでちが、綺麗しゅ?クロに見せたかったでつ」
にこにこ笑うピークパッツァに涙が溢れた
この世界に来て、滅茶苦茶理不尽な目に遭い辛かった。不安だった。悔しかったし心が引き裂かれそうにもなった
でも、光の洪水に包まれて綺麗な光を前に痛いことも苦しいことも、ミネルバにされた色々な事、それを許せるような気持ちにさせられた
あくまで、そんな気がするだけだが
「わ、わ!どうちたでつ?」
首を振る。ありがとうを込めてピークパッツァを抱きしめた
「ふふ、クロわしより泣き虫でつ。よしよしでち。明日、ミネルバ様が帰ってくるでつ。実がいっぱいなったから、わし褒めてもらえるでつ。クロもたくさん褒められるでち」
頭を撫でるピークパッツァの手よりも、恐怖が先にきた
血の気が引く。明日、ミネルバが帰ってくる。怖い
しがみついてくるネロを不思議に思ったのか、ピークパッツァは優しく頭を撫で続けてくれた
「大丈夫でち。果樹園にいる限り、わしが守ってあげるでしゅ。ミネルバはとってもかっこよくて、優しいでちよ?」
ピークパッツァは知らないのだ。ミネルバがどんな事をしてネロを追い詰めたのかを
しかし、奴隷の人数を考えると滅多に会わないのかもしれない
寮に帰らなくなってからはアクロワナすら会わない
「クロ、また見にこようしゅ?」
まだ震えるネロの体をどう思ったのか、ピークパッツァは笑顔で来た道を引き返して行く
手を引かれ、ピークパッツァと寝床に入ったが、ネロは眠れなかった
朝方、ピークパッツァに今日は寝てていいでちよ?と心配そうに言われて毛布に包まり震える
朝日の柔らかさに、ようやくうとうとと眠りが来たのだった
昼に目が醒めて、教会に行き、祈りを貰う
いつまで続ければ呪いは解けるのか、やきもきしながら果樹園に戻ると、俄に騒がしいので咄嗟に身を隠す
金髪の美麗な男が、優しい笑みを浮かべてピークパッツァの頭を撫でているところだった
ミネルバはネロには向けない優しい表情で笑っていた
堪らない気持ちになって、教会に戻る
まだネロの呪いは解けていない。その事にひどく絶望する。本当に呪いが解ける日はくるのか?
「どうしたんですか?祈りは一日一回しかききませんよ?」
項垂れながら必死に祈るネロに、神父はどうしたのか聞いてくるが、答えようがない
「まあ好きなだけいていいですけど、帰らないと怒られませんか?」
ピークパッツァが果樹園を取り仕切っているので怒られはしないだろうが、ただでさえ午前中の仕事をピークパッツァに一人でさせたので、さすがに午後は戻らなければならないだろう
でも、まだミネルバがいると思うと脚がすくんで怖くて戻れない
迷っているうちに、ピークパッツァが迎えに来た
「クロー、いないから迎えに来たでち。帰ろう?」
ピークパッツァに渋々頷き、手を繋いで帰る
こんなに弱気ではダメだ!相手を信用させて、誓約を緩めなくては解呪やブレスレットを返すのも夢のまた夢となってしまう
しかしミネルバを前にしたら怖くてどうしようもなくて足が竦んでしまう
「ミネルバ様がクロを探してたでつ。ミネルバ様のあんな顔やばいでつ。一番キツイ労働をさせていて、体調が悪いから寮に帰っているんじゃないかと惚けておいたでち」
なんて事ないみたいに呟いたピークパッツァの顔を弾かれるように見ると、心配しているのがわかる
こんなちっちゃい子にまで、心配させて自分が情けなくなる
握っている手に思わず力が入ってしまった
「屋敷に行けば、わしは助けられないでち。ごはんもこっちで食べよ?クロ」
鼻を啜りながら頷く。怖かったし、ミネルバを前にしたら色んな感情が溢れて無理になるに決まっていた。きっと、あの冷酷な目でネロであることを否定し、酷いことを言われる。
何回も頷きながら、ピークパッツァに感謝した
果樹園に着くと、ピークパッツァはいそいそとネロの首に縄を巻いて括る
ん?
訳がわからないネロにピークパッツァは満足そうに頷きながら、背中にも鞭を何発か入れてきて、痛みに思わず蹲る
えええ…いたああああ…
「悲壮感があった方がいいでち。ミネルバ様は、ああなったら絶対殺すモードでち。顔も泥で汚して…虐待されてると思ったら満足してちょっかい出さないでち。鞭はガチ入れするでちが、悪く思うなでつ」
背中に消毒液をぶっかけられ、更に痛みに呻くネロの手にピークパッツァは剪定鋏を握らせる
て、手慣れてるのは何故?
本当に怖い
「これで化膿はしないでつ、なるべく卑屈な感じを出すでち。決して楽しく仕事をしていると思わせないよう、無意味に井戸の周りの木をガラガラ回したりするでつ」
意味がわからなすぎるが、ピークパッツァなりの優しさだったらしい。
それからというもの、ミネルバが見にきているときは、ピークパッツァが無意味に鞭を振るったりネロは怯えた様子で俯いたまま走り回ったりして、いない時はだらだらとピークパッツァと水浴びしたり剪定をしたりして難を逃れていた
たまに傷を残す為にピークパッツァに鞭打たれたりはキツかったけれど、本当に虐げられているとミネルバに何か言われたりもされなかった。
そんなに憎いのかと悲しくもなる。
そんなある日、アクロワナがピークパッツァと言い争いをしていた。
「だから、旦那様が寮に返せと。配置換えなのだから仕方ないでしょう?」
「まだ本館に勤められる態度じゃないし、ダメでち、あいつはサボったりするから早朝から鞭を打って働かさないとダメでつ。夜中までこき使ってやっても一人前じゃないでち!寮に返したらダラダラするに決まってまつ!」
「そんな可哀想なことしないでください。旦那様付になるのだから、奴隷としては名誉な事ですよ?」
ピークパッツァが怒りのあまり尻尾をビタンビタンと地面に叩きつけている…一方アクロワナも怯む様子もない
「ピークパッツァ様、奴隷は貴方の玩具じゃないんですよ?諦めてください」
言い争う二人の言葉にネロは震え上がった
アクロワナは、ミネルバ付きになると言った。ミネルバの側にネロを置く気なのだ。ネロをどこまで甚振れば満足するのだらろう
「ピークパッツァ様でもダメです。諦めてください。あ、クロ、行きますよ。屋敷に戻りますよ」
アクロワナに手を引かれピークパッツァは難しい顔をしていたが、もう何も言えないみたいだった。
「こんなに震えて見窄らしくなってしまって…気がつかなくて申し訳ないです。旦那様はお優しい方なので、もう安心ですよ」
屋敷に着くと湯殿に放り込まれ、背中の傷を診てもらい手当てされ真新しい衣服が用意されていて、上から羽織り帯で留めるような上等な刺繍の入った衣服に着替えさせられた
肌には香油を塗られ、何故かシリアルナンバーの入った首輪を付けられた
そのまま、屋敷奥の広い豪華な部屋に通される
その部屋にはベッドと本棚しかない
所在なく、なぜこのような事になっているのか考える
屋敷には、奴隷部屋でもあるネロの部屋もあるのに、ここで待つように言われた
部屋の隅に行き、蹲る
ミネルバが来るかもしれない。会いたいけれど会いたくない。
ぶるぶると震えながら体を縮こませていると、何時間経ったのか夜になってから、扉が開いた
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