代理婚!

オレンジペコ

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夫婦は只今別居中!

13.説得②

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「それで?」

ズモモモモ…と俺を威圧してくるのは侍女ズな二人。
言わずもがな、サフランとフリージアだ。

あれから一か月。
二人はちっともシーファスを連れ帰らない俺に対してとっても怒っていた。
でも聞いて欲しい。
一応何度か言ってはみたんだ。
でも総スルーされてて難しいんだよ!

機を見て折を見て何度も『そう言えば帰ってみたか?』とか『あんまり屋敷を空けたらそろそろ気になるんじゃないか?』とか色々言ってはみたんだ。
でもその度に『ハルが気にする必要はない』とか『仕事は重要案件書類は送ってもらってるし大丈夫』とか言って流されるんだ。
夕食食べながら直球で『奥さん、今頃どうしてるんだろうな』とか言ったらおかしな嫉妬をされて、強引に抱かれたし…。

うん。そうなんだ。
実はあれから何度か抱かれてるんだ。

ギルドに報告に行って、夕食でも一緒にって誘われて家にお邪魔したら大抵そうなる。
もちろんちゃんと配慮はしてくれて、午前様にならないようにはしてくれるし、ちゃんとシャワーを浴びてから帰ってるけど、侍女ズはそれに関してもご立腹。
すっかり二人の中でシーファスは『クズの浮気野郎』で定着してしまった。
俺がいくら『シーファスは面倒見もいいし、優しくて親切で』とフォローを入れても『単に浮気相手に良い顔したいだけでしょう?騙されないでください!』と一刀両断にされてしまう。

いや。シーファス自身が知らないだけで、本当は浮気相手じゃなく妻を抱いてるだけなんだけどな?
まあ、この『知らない』って言う点がネックだっていうのはわかってはいるんだけど……複雑。

「もういい加減堪忍袋の緒が切れそうです!私が乗り込みましょうか?!」
「いやいやいや?!流石にそれはやめてくれ!」

大体なんて言うつもりだよ?

妻を手籠めにしやがって?
シーファスは夫だから別に問題ないよな?

浮気すんなクズ男?
これも、嫁本人が相手なら浮気じゃないと思うし…。

困ったな。本当になんだかややこしくてどうしていいんだかサッパリだ。
よく姉さんからも『このバカ!』とか『脳みそ筋肉でできてるんじゃないの?!』とか言われたし、頭はそんなによろしくはない。
学園での成績だって中の下って感じだったし、だからこそ頭をそこまで使わなくて済む冒険者になろうって思ったっていうのはあった。
だって剣術と魔法に関しては別に苦手じゃなかったし、どちらかというとそこだけ切り取ったらそこそこ得意な方だったから。

(まあ…それも実践で使えるかって言われたら、初っ端から咄嗟に使えなくて微妙だったけど)

そこまで考えてフルフルと頭を振る。
これからだ!シーファスに助けられたと言っても一応俺はEランクにはなれたんだから。
それにDランクへのランクアップも目前だったりする。
これに関してもシーファスのサポートあってこその話で、凄く感謝してる。
そんなシーファスを責めるようなこと、俺にはとてもできそうにない。

「と、兎に角、もうちょっと猶予をくれ!絶対連れてくるから!」

そう言って俺は屋敷を飛び出した。

トボトボと歩くいつもの道。
でもその日はいつもと違って、何故か道を塞がれた。
誰だと思って顔を上げたらつい先日俺をパーティーに勧誘してくれたCランクパーティー【殲滅の獅子】の者達だった。
カッコいいパーティー名だし、折角誘ってくれたのは有り難いんだけど、俺は屋敷に住んでる関係上パーティーに入るには不向きだと薄々感じているし、シーファスが付き合ってくれるから無理に誰かと組もうとも今は思っていない。
だからお断りさせてもらったんだ。

「ラインハルト。考え直してくれたか?」

そう言ってきたのはリーダーのレリック。
爽やかな見た目に反してどこかねっとりした目で見てくるのがちょっと嫌だったりする。

「折角リーダー直々に声を掛けたんだ。頷いてくれるよな?」

そう言ってきたのはパーティーの斥候。確かジード。

「俺達が守ってやる。頼りにしてくれていい」

次に口を開いたのは魔法使いのハーメット。

「俺達は強いぜ?これから今はまだCランクだが、絶対に伝説のSランクまで登って見せる!」

これは前衛を務める大剣使いのゴードン。
夢を見るのは自由だし、頑張ってほしいとは思う。

それにしても四人もいたらパーティーメンバーは十分だろうに、どうして俺なんかを誘ってくるのか謎だ。

「えっと。俺、この間も言ったけど、今のところソロでやってくつもりだから」

だからそう言ったんだけど、ここでシーファスの件を持ち出されて、誰かと組むならパーティーに入ったって一緒だって言われてしまう。

「シーファスは確かにAランクで頼りになるかもしれないが、ソロのAランクとCランクパーティーならトータルで見たら同じくらいの強さだ!だから、な?うちに入れよ」

正直その言葉には首を傾げずにはいられない。
だってシーファスは俺の目から見てもかなりの実力者に見える。
何だったら同じAランクの者と比べても飛びぬけて強いんじゃないだろうか?
なのにCランクパーティーと同等?

(ないない)

思わず横に首を振ってしまう。
そんな俺に業を煮やしたのか、パーティー加入届をズイッと突き出し、まさかのサインを強要してきた。

「ほら、書けよ!」
「ぜ、絶対に書かない!」

サイン強要は婚姻届だけで十分だと必死に抵抗する。
あれのせいで痛い目を見てるんだから、強制されたってそう簡単に書く気はない。

「ちょっとここにサラッとサインするだけだろ?」
「それが嫌なんだ!」
「いいから書け!」
「絶対嫌だ!」

そんなやり取りをしているところへズンズンと誰かがやってきてその加入届を取り上げるや否や、思い切りビリビリに破いてバラまいた。

「なっ?!何をするんだ!」

リーダーのレリックが怒りを露わに紙を破った男の方へと目を向ける。
けれど────。

「シ、シーファス…」
「何をやっている?」
「こ、これはっ…!」
「パーティーへの強制加入はギルドで禁止されていると知らないわけではあるまい?」
「……っ!」
「ハルは確かにソロだが、ギルド公認で俺が面倒を見てる。下手な横槍は入れないでもらおうか」

その言葉に悔しそうにしながら四人はシーファスを睨みつけ、渋々ではあったが『行くぞ』と言ってその場から去っていった。
それを見送り俺はホッと安堵の息を吐く。

「はぁ…助かった」
「ハル。大丈夫だったか?」
「ああ。シーファスが助けてくれたから」
「そうか」
「サイン強要なんて本当最悪」
「同感だ。あれほど酷いものはない」
「だよな」

二人揃ってサインには痛い目を見たことがあるだけに物凄く共感してもらえた。
でも……。

「シーファス。奥さんもさ、もしかしたら無理矢理サインさせられたとかかもしれないし、そろそろ話だけでも…」
「ハル。そんなに気にしなくても後たったひと月だ。下手に会った方が面倒なんだ。聞き分けてくれ」

(だからそれが待てないから言ってるんだよ!!)

ここだけはわかり合えないなと、俺は今日もガックリと肩を落としたのだった。


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