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夫婦は只今別居中!
12.説得①
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翌朝。俺は自室でうんうん唸っていた。
ちなみに別に身体が辛いわけではない。
シーファスに屋敷に戻れと上手く言える自信がなかったから悩んでただけだ。
(どうしよう…)
どう言ったらいいのかがさっぱりわからない。
大体抱いた翌日にいきなり相手から『奥さん大事にしろよ』とか『屋敷に帰ってやれよ』とか言い出されたら、絶対遊ばれたとか下手だったから捨てられたんだとか思うよな?
そんな風に勘違いされたくはないから、どう言えばいいのか悩みに悩んでたんだ。
だからまあ……ちょっとギルドに顔を出し辛くなったのもしょうがないと思うんだ。
3日くらい…別に顔を出さなくたっていいよな?
そしてやっと4日目の今日、俺は意を決して冒険者ギルドの扉をくぐった。
気持ちは落ち着いている。
取り敢えずシーファスにはあの日は勝手に帰ってゴメンと謝ろう。
で、『よく考えたら浮気だって思ったから』云々言って、『一回帰って奥さんとちゃんと向き合ってほしいな』と促す!これでどうだ?!
そんな脳内シミュレーションをしてからここにやってきた俺に死角はない!
そう思ったのに、ドアをくぐって三秒でシーファスに拉致られて、ギルドの外に連れ出された。
あれ?おかしいな?
「ハルッ!良かった!やっと会えた!」
しかもそんなことを言われながら脇道で思いきり抱き締められる俺。
ちょっと抱かれた時のことを思い出して心臓がバクバク弾むから勘弁してほしい。
「シ、シーファス…」
「ハル!起きたらいなかったから心配したんだぞ?」
その顔は本当に俺のことを心配していたようにしか見えなくて、せめてメモの一つでも残しておけばよかったと後悔が滲む。
「その…ゴメン。家の者に言ってなかったから心配かけてると思って…」
「家の……」
「そう」
そこまで言ってからしまったと我に返る。
これじゃあ家族持ちと思われないだろうか?
シーファスに変に勘違いされたくない。
「そ、その、侍女にっ、いや、えっと…っ」
マズい。これだと実は貴族なんだと自分から言っているようなものだ。
折角あんなに脳内シミュレーションをしてきたのが全部無駄になってパニック寸前だ。
でもそんな俺にクスッと笑って、シーファスはそっと俺の頭に手を伸ばし、優しく撫でてくる。
「ハルが貴族だってことはわかってる。すまなかったな。あの日、引き留めるようなことをして」
その言葉になんだか泣きそうなくらい安堵して、俺は慌てて下を向いた。
やっぱりシーファスは優しくて良い男だ。
浮気クズ野郎なんかじゃない。
(よし!)
そして俺は気合を入れて、この三日で考えた言葉をシーファスへと思い切って伝えにかかる。
「シーファス!」
「ん?」
「その、俺……」
頑張れ俺!言うんだ、俺!
「よく考えたら、う、浮気!に、なるんじゃないかって思って…っ!」
「…………」
「その…会うのが怖くなって……」
ええと…。あれ?何が言いたかったんだっけ?
自分で言ってて段々わからなくなってきた。
こんな感じだったっけ?
合ってる…よな?
「ハル……」
「だから、その…っ、一回、ちゃんと奥さんに会って、ちゃんと話したらとか思うんだけど…っ」
そこまで言ったら何故か抱き寄せられてそのまま唇で口をふさがれた。
「んっ?!」
クチュッ…と深く口づけられ、舌を引きずり出すように誘導され、そのままチュゥッと吸い上げられる。
「ふ…あ…っ」
初めての感覚に力が抜けそうになり、慌てて縋るようにシーファスの背に腕を回した。
そんな俺に優しく言い聞かせるようにシーファスが言う。
「ハル。お前が俺の妻に会う必要なんてないから」
「ふぇっ?」
「三か月…いや、あと二か月弱だな。白い結婚が成立する期間が過ぎたら離婚届を持って屋敷に行って全部済ませてくるつもりだ。だからハルは妻に接触せず、それまで待っていてくれないか?」
その言葉にダラダラと背中に嫌な汗をかく。
(そうじゃないんだよー!!)
俺が奥さんに話しに行くわけじゃなくて、シーファスに屋敷に帰ってもらいたいだけなんだ!
詰まるところ、シーファスに俺が嫁だってわかってもらえたら済むだけの話で…。
(でも言えないからサフランに頼る羽目になっただけなのに…!)
困った。非常に困った。
でもサフランは諦めずに何度でも言えって言ってた。
諦めずにもう一回言おう。
「ん…じゃあその、俺のことは気にせず、いつでも話し合いに行ってくれていいからな?」
「わかった」
取り敢えずさっきのはなかったことにして、軽い感じで話し合いを促してみたら、シーファスも安心したように笑って、俺の髪にまたキスを落としてきた。
「さ。それは置いておいて、今日は一緒に依頼を受けようか。記念すべきEランク初の依頼は何がいい?」
そしてそんな風に笑顔で話を振られ、そうだったと思い出す。
あの日俺はランクアップしたからもうEランクの依頼も受けられるようになったんだった。
「忘れてた!え?Eランクってどんなのが受けられるんだろ?」
「Eランクはトレントとかビッグボアなんかの討伐も受けられるぞ?」
「へぇ。流石シーファス。詳しいな」
「ああ。じゃあ今日も一緒に一狩り行こうか」
そんなことを言いながら俺達は連れ立って冒険者ギルドへと戻ったのだった。
ちなみに別に身体が辛いわけではない。
シーファスに屋敷に戻れと上手く言える自信がなかったから悩んでただけだ。
(どうしよう…)
どう言ったらいいのかがさっぱりわからない。
大体抱いた翌日にいきなり相手から『奥さん大事にしろよ』とか『屋敷に帰ってやれよ』とか言い出されたら、絶対遊ばれたとか下手だったから捨てられたんだとか思うよな?
そんな風に勘違いされたくはないから、どう言えばいいのか悩みに悩んでたんだ。
だからまあ……ちょっとギルドに顔を出し辛くなったのもしょうがないと思うんだ。
3日くらい…別に顔を出さなくたっていいよな?
そしてやっと4日目の今日、俺は意を決して冒険者ギルドの扉をくぐった。
気持ちは落ち着いている。
取り敢えずシーファスにはあの日は勝手に帰ってゴメンと謝ろう。
で、『よく考えたら浮気だって思ったから』云々言って、『一回帰って奥さんとちゃんと向き合ってほしいな』と促す!これでどうだ?!
そんな脳内シミュレーションをしてからここにやってきた俺に死角はない!
そう思ったのに、ドアをくぐって三秒でシーファスに拉致られて、ギルドの外に連れ出された。
あれ?おかしいな?
「ハルッ!良かった!やっと会えた!」
しかもそんなことを言われながら脇道で思いきり抱き締められる俺。
ちょっと抱かれた時のことを思い出して心臓がバクバク弾むから勘弁してほしい。
「シ、シーファス…」
「ハル!起きたらいなかったから心配したんだぞ?」
その顔は本当に俺のことを心配していたようにしか見えなくて、せめてメモの一つでも残しておけばよかったと後悔が滲む。
「その…ゴメン。家の者に言ってなかったから心配かけてると思って…」
「家の……」
「そう」
そこまで言ってからしまったと我に返る。
これじゃあ家族持ちと思われないだろうか?
シーファスに変に勘違いされたくない。
「そ、その、侍女にっ、いや、えっと…っ」
マズい。これだと実は貴族なんだと自分から言っているようなものだ。
折角あんなに脳内シミュレーションをしてきたのが全部無駄になってパニック寸前だ。
でもそんな俺にクスッと笑って、シーファスはそっと俺の頭に手を伸ばし、優しく撫でてくる。
「ハルが貴族だってことはわかってる。すまなかったな。あの日、引き留めるようなことをして」
その言葉になんだか泣きそうなくらい安堵して、俺は慌てて下を向いた。
やっぱりシーファスは優しくて良い男だ。
浮気クズ野郎なんかじゃない。
(よし!)
そして俺は気合を入れて、この三日で考えた言葉をシーファスへと思い切って伝えにかかる。
「シーファス!」
「ん?」
「その、俺……」
頑張れ俺!言うんだ、俺!
「よく考えたら、う、浮気!に、なるんじゃないかって思って…っ!」
「…………」
「その…会うのが怖くなって……」
ええと…。あれ?何が言いたかったんだっけ?
自分で言ってて段々わからなくなってきた。
こんな感じだったっけ?
合ってる…よな?
「ハル……」
「だから、その…っ、一回、ちゃんと奥さんに会って、ちゃんと話したらとか思うんだけど…っ」
そこまで言ったら何故か抱き寄せられてそのまま唇で口をふさがれた。
「んっ?!」
クチュッ…と深く口づけられ、舌を引きずり出すように誘導され、そのままチュゥッと吸い上げられる。
「ふ…あ…っ」
初めての感覚に力が抜けそうになり、慌てて縋るようにシーファスの背に腕を回した。
そんな俺に優しく言い聞かせるようにシーファスが言う。
「ハル。お前が俺の妻に会う必要なんてないから」
「ふぇっ?」
「三か月…いや、あと二か月弱だな。白い結婚が成立する期間が過ぎたら離婚届を持って屋敷に行って全部済ませてくるつもりだ。だからハルは妻に接触せず、それまで待っていてくれないか?」
その言葉にダラダラと背中に嫌な汗をかく。
(そうじゃないんだよー!!)
俺が奥さんに話しに行くわけじゃなくて、シーファスに屋敷に帰ってもらいたいだけなんだ!
詰まるところ、シーファスに俺が嫁だってわかってもらえたら済むだけの話で…。
(でも言えないからサフランに頼る羽目になっただけなのに…!)
困った。非常に困った。
でもサフランは諦めずに何度でも言えって言ってた。
諦めずにもう一回言おう。
「ん…じゃあその、俺のことは気にせず、いつでも話し合いに行ってくれていいからな?」
「わかった」
取り敢えずさっきのはなかったことにして、軽い感じで話し合いを促してみたら、シーファスも安心したように笑って、俺の髪にまたキスを落としてきた。
「さ。それは置いておいて、今日は一緒に依頼を受けようか。記念すべきEランク初の依頼は何がいい?」
そしてそんな風に笑顔で話を振られ、そうだったと思い出す。
あの日俺はランクアップしたからもうEランクの依頼も受けられるようになったんだった。
「忘れてた!え?Eランクってどんなのが受けられるんだろ?」
「Eランクはトレントとかビッグボアなんかの討伐も受けられるぞ?」
「へぇ。流石シーファス。詳しいな」
「ああ。じゃあ今日も一緒に一狩り行こうか」
そんなことを言いながら俺達は連れ立って冒険者ギルドへと戻ったのだった。
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