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1.王弟殿下のプロローグ
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王立学園ヴェルヴァーナ。
俺も何年も前に卒業した、貴族ご用達の学園。
まさかここにまた戻ってくることになるとは思いもしなかった。
まあ今度は学生ではなく教師としてなのだが────。
事の起こりはここミランデルフィア王国の国王であり、俺の兄でもあるグラン=フィル=デルフィアから呼び出されたことに発する。
いつもニコニコとしながら一回り年の離れた俺を可愛がってくれる兄が、いつもと違うちょっと憂いを含んだ顔で俺にこんなことを言ってきた。
「アノス。学園で息子のカノンが馬鹿なことをやらかしているようだ。すまないが、教育的指導をしてやってはもらえないか?」
ちなみにアノスというのは俺の名だ。
アノス=キラ=デルフィア。現在27才。
少し前に公爵位を貰って、領地を治めながら悠々自適な毎日を送っている、王のお気に入りの弟。
この兄はちょっと困った性癖があって、それを俺が解消してあげるようになってから物凄く可愛がってくれるようになったという経緯がある。
あれはいつだったか。
ちょうど俺が14、15才頃のこと。
もう少ししたら学園に入るから、図書室で自主的に色々調べようと思い足を運んでいたら、突如不審な声が聞こえてきたのだ。
何だと思いそっと声が漏れ聞こえてきたであろう部屋へと近づくが、人払いがされているのか扉前には誰もいなかった。
それをいいことに中を覗き、気になると思い中に入って歩を進めると、奥の寝室で縄遊びに失敗して蒼白になっている兄を発見したのだ。
『兄上。何をやっているんです?』
『ア、アノスっ!こ、これは違うんだ!』
涙目で違うと言っているが、近くには縛り方の本が落ちているし、何も言い逃れはできないと思う。
『だ、誰も呼ばないでくれ…』
絶望的な顔でそんな風に懇願してくる兄。
なんだかとっても可愛らしい。
きっといつも立派な王太子であれと言われ続けてストレスが溜まっていたんだろう。
ちょっと遊ぶくらい好きにすればいいと思う。
とは言えこのまま放置も可哀想だ。
縄がごちゃごちゃに絡まってしまっていて、どう見ても一人でほどけそうにはない。
このまま俺が部屋から出て、その後いつまで経っても姿を見せない兄を探しにきた侍女や従者に見つけられたら赤っ恥をかくこと間違いなしの状況だった。
どう考えても言い訳に苦慮するのは明白だろう。
だから溜息を一つ吐き、俺はその言葉を紡いだ。
『兄上。お手伝いしましょうか?』
『……え?』
『一人でそれ、ほどけないでしょう?』
そう言って俺は部屋の鍵をしっかり締めてから兄に絡みついた縄をほどき、本を見ながら正しい縛り方をしてあげる。
『ふぅ。これでどうです?』
『ア、アノス…。引かないのか?』
『別に引きませんけど』
そう言ったら兄は目を輝かせて、俺に感謝の言葉を述べた。
それ以来たまに頼まれて兄を縛ってあげている。
ついでに踏んで欲しいとか、罵ってほしいとも言われたからそれにも付き合ってあげた。
変に鬱屈をため込むくらいなら俺がそれを解消してあげた方がいいだろうと思ったからだ。
それ以来兄は俺を殊の外可愛がってくれるようになった。
ああ、最初に言っておくが身体の関係はない。
俺には別に恋人がいるからだ。
兄に対してそんなことをしているうちに、何故か兄の近衛騎士に告白されて付き合うようになった。
ちなみに恋人とはやることはやっているし、そっちとは道具やら何やらで楽しい時間を過ごしていたりもする。
それを知っているから、兄は俺にそんなことを頼んできたんだと思う。
まあいいけど。
「カノンが学園で?どんな馬鹿なことを?」
「それが一人の男爵令嬢に夢中になるあまり、婚約者を蔑ろにしているらしい」
「それは困りましたね」
「ああ。ついでに他の子息達も一緒になって彼女を悪女に仕立て上げている節がある。すまないが彼らについてもできればカノン同様教育的指導をしてやって欲しいのだが」
どうやらまとめて面倒を見ろということらしい。
「このまま卒業すればクルバーナ公爵家が黙っていないだろう。その前に何とかしたい」
「なるほど」
カノンの婚約者はクルバーナ公爵家の当主が溺愛してやまない イライザ=シオン=クルバーナ。
ボンキュボンなナイスバディの持ち主だが、顔も服装もド派手で好みじゃないとカノンは常々言っていたようだ。
それもあって浮気という手段に出たのかもしれない。
「とは言え本当にいいんですか?俺がやるとやり過ぎになってしまうかもしれませんよ?」
調教は別に苦手ではないが、本当にいいんだろうか?
カノンはノーマルだったはずだし、殆どの者はこちら方面の耐性はないんじゃないだろうか?
使い物にならなくなって後から文句を言われたくはない。
けれど兄はそこは大丈夫だと太鼓判を押した。
「どうせこのまま放っておいても全員廃嫡になるだけだ。各家に迷惑を掛けずに済むならその方が何倍もマシだ。引き受けてはくれないか?お前の好きなようにしてくれて構わないから」
なるほど。そういうことなら引き受けよう。
「わかりました。では引き受けます」
そうして俺はその話を快く引き受けて、教師としてここヴェルヴァーナ学園へとやってきたのだった。
俺も何年も前に卒業した、貴族ご用達の学園。
まさかここにまた戻ってくることになるとは思いもしなかった。
まあ今度は学生ではなく教師としてなのだが────。
事の起こりはここミランデルフィア王国の国王であり、俺の兄でもあるグラン=フィル=デルフィアから呼び出されたことに発する。
いつもニコニコとしながら一回り年の離れた俺を可愛がってくれる兄が、いつもと違うちょっと憂いを含んだ顔で俺にこんなことを言ってきた。
「アノス。学園で息子のカノンが馬鹿なことをやらかしているようだ。すまないが、教育的指導をしてやってはもらえないか?」
ちなみにアノスというのは俺の名だ。
アノス=キラ=デルフィア。現在27才。
少し前に公爵位を貰って、領地を治めながら悠々自適な毎日を送っている、王のお気に入りの弟。
この兄はちょっと困った性癖があって、それを俺が解消してあげるようになってから物凄く可愛がってくれるようになったという経緯がある。
あれはいつだったか。
ちょうど俺が14、15才頃のこと。
もう少ししたら学園に入るから、図書室で自主的に色々調べようと思い足を運んでいたら、突如不審な声が聞こえてきたのだ。
何だと思いそっと声が漏れ聞こえてきたであろう部屋へと近づくが、人払いがされているのか扉前には誰もいなかった。
それをいいことに中を覗き、気になると思い中に入って歩を進めると、奥の寝室で縄遊びに失敗して蒼白になっている兄を発見したのだ。
『兄上。何をやっているんです?』
『ア、アノスっ!こ、これは違うんだ!』
涙目で違うと言っているが、近くには縛り方の本が落ちているし、何も言い逃れはできないと思う。
『だ、誰も呼ばないでくれ…』
絶望的な顔でそんな風に懇願してくる兄。
なんだかとっても可愛らしい。
きっといつも立派な王太子であれと言われ続けてストレスが溜まっていたんだろう。
ちょっと遊ぶくらい好きにすればいいと思う。
とは言えこのまま放置も可哀想だ。
縄がごちゃごちゃに絡まってしまっていて、どう見ても一人でほどけそうにはない。
このまま俺が部屋から出て、その後いつまで経っても姿を見せない兄を探しにきた侍女や従者に見つけられたら赤っ恥をかくこと間違いなしの状況だった。
どう考えても言い訳に苦慮するのは明白だろう。
だから溜息を一つ吐き、俺はその言葉を紡いだ。
『兄上。お手伝いしましょうか?』
『……え?』
『一人でそれ、ほどけないでしょう?』
そう言って俺は部屋の鍵をしっかり締めてから兄に絡みついた縄をほどき、本を見ながら正しい縛り方をしてあげる。
『ふぅ。これでどうです?』
『ア、アノス…。引かないのか?』
『別に引きませんけど』
そう言ったら兄は目を輝かせて、俺に感謝の言葉を述べた。
それ以来たまに頼まれて兄を縛ってあげている。
ついでに踏んで欲しいとか、罵ってほしいとも言われたからそれにも付き合ってあげた。
変に鬱屈をため込むくらいなら俺がそれを解消してあげた方がいいだろうと思ったからだ。
それ以来兄は俺を殊の外可愛がってくれるようになった。
ああ、最初に言っておくが身体の関係はない。
俺には別に恋人がいるからだ。
兄に対してそんなことをしているうちに、何故か兄の近衛騎士に告白されて付き合うようになった。
ちなみに恋人とはやることはやっているし、そっちとは道具やら何やらで楽しい時間を過ごしていたりもする。
それを知っているから、兄は俺にそんなことを頼んできたんだと思う。
まあいいけど。
「カノンが学園で?どんな馬鹿なことを?」
「それが一人の男爵令嬢に夢中になるあまり、婚約者を蔑ろにしているらしい」
「それは困りましたね」
「ああ。ついでに他の子息達も一緒になって彼女を悪女に仕立て上げている節がある。すまないが彼らについてもできればカノン同様教育的指導をしてやって欲しいのだが」
どうやらまとめて面倒を見ろということらしい。
「このまま卒業すればクルバーナ公爵家が黙っていないだろう。その前に何とかしたい」
「なるほど」
カノンの婚約者はクルバーナ公爵家の当主が溺愛してやまない イライザ=シオン=クルバーナ。
ボンキュボンなナイスバディの持ち主だが、顔も服装もド派手で好みじゃないとカノンは常々言っていたようだ。
それもあって浮気という手段に出たのかもしれない。
「とは言え本当にいいんですか?俺がやるとやり過ぎになってしまうかもしれませんよ?」
調教は別に苦手ではないが、本当にいいんだろうか?
カノンはノーマルだったはずだし、殆どの者はこちら方面の耐性はないんじゃないだろうか?
使い物にならなくなって後から文句を言われたくはない。
けれど兄はそこは大丈夫だと太鼓判を押した。
「どうせこのまま放っておいても全員廃嫡になるだけだ。各家に迷惑を掛けずに済むならその方が何倍もマシだ。引き受けてはくれないか?お前の好きなようにしてくれて構わないから」
なるほど。そういうことなら引き受けよう。
「わかりました。では引き受けます」
そうして俺はその話を快く引き受けて、教師としてここヴェルヴァーナ学園へとやってきたのだった。
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