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1.毒を盛られました。
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いつもと変わらない夕食。
今日も家族そろってテーブルを囲み、ナイフとフォークを使って静かな空間で何の会話もないまま目の前の食事をとる。
それはここ、ポルテ伯爵家での日常だった。
家長の席には父、ガストンが座り、そこから左手に義母 バルバラ、義兄 アラン、義姉 ジゼルと続く。
そしてバランスの悪いことに、父の右手側のすぐ隣に俺 オーバンが座っている。
わかるだろうか?
そう。俺の目の前に座っているのは義母という感じなのだ。
何故こんな状況なのかを説明すると、父は自分の容姿に非常にコンプレックスを抱えている人だった。
別に不細工なわけではないのだが、自身の一重の切れ長の目が単純に物凄く嫌いだったのだ。
そして正妻として迎えたバルバラは奥二重ではあるが少々目つきが悪く凄みのある顔立ちで、ご多分に漏れず子供である兄、姉は鋭い切れ長の目を持つ凄みのある子供となってしまったのである。
それ故に父は我が子をなんとなく敬遠して可愛がれず、夫婦の溝は深まってしまった。
そこから当然夫婦の営みも消えてしまったところで、父はメイドに手を付けてしまったのだ。
パッチリ二重の童顔な娘で、無邪気な笑顔が可愛くてついつい寝てしまったのだという(勿論同意の上で)。
それでできちゃったのが俺だ。
ちなみに俺の母であるその人は俺を産んだら「この子のことは旦那様にお任せします。私一人ならどこででも生きていけますから」と涙ながらに屋敷を去っていったらしいのだが、メイド仲間たちから詳しく話を聞くと「奥様にいびりまくられる生活なんてもう懲り懲りだわ。子供を犠牲にしても逃げてやる!」と妊娠期間中ずっと愚痴をこぼし続けていたらしい。
どうやら俺はその言葉通り生贄にされたらしい。
けれど母に似た俺のことを父はそれはもう溺愛していた。
「オーバン」
二人っきりになると優しい目で俺を見る父。
昔は別にそれでもよかった。
けれど俺が15を迎えた昨今では、少々事情が変わってきたような気がする。
「オーバン…益々母に似て愛らしくなってきたな」
そうしてうっとりとした顔を向けられて背筋が寒くなる日が増えてきたのだ。
今も────父は口を閉じて食事を進めているものの、その目はちらちらとこちらへと向けられてきていて、正直気持ちが悪い。
しかもそれを見て正妻であるバルバラや兄姉達が良い気がするはずもなく、陰で『さすが妾腹。父であっても関係なく誑かすのね。汚らしい』と罵られているのを知っていた。
誰が好き好んで自分の親を誑かすかって話なんだが、彼らからしたらその感情は抱いてもおかしくはないものなのだということは理解できたので我慢していた。
そう……我慢していたんだ。
何も文句を言わず、父の好色な目も見て見ぬ振りをして、嫌味も聞こえないふりをして感情を押し殺して生きてきた。
それがこの家に生まれた俺に課せられた日常で、それはきっとこの先もずっと変わることなく続いていくのだとそう思っていた。
それなのに─────。
食後のデザートを一口口に運んだところで全身に冷や水を浴びせられたかのように急激な寒気に襲われてしまった。
ガターン…!と倒れる椅子と自分の身体。
動けない…意識がどんどん遠のいていく。
きっと先程のデザートには毒が入れられていたのだろう。
(ああ…俺、死ぬのか……)
自分の名を呼ぶ悲壮な父の声が聞こえてくるが、何も答えることが出来ない。
「お前がオーバンに毒を盛ったのか?!」
「貴方が悪いんですわ!私たち家族をないがしろにして!私たちがこれまでどんなに我慢を重ねてきたかお分かりですか?!」
「煩い煩い!文句があるなら出ていくがいい!ここの当主はこの私だ!」
「ふざけないでくださいな!こんな子がいるせいで貴方は狂ってしまったのですわ!いい加減目を覚ましてください!」
完全に意識が飛ぶ前にそんな夫婦喧嘩の声が聞こえた気がした─────。
今日も家族そろってテーブルを囲み、ナイフとフォークを使って静かな空間で何の会話もないまま目の前の食事をとる。
それはここ、ポルテ伯爵家での日常だった。
家長の席には父、ガストンが座り、そこから左手に義母 バルバラ、義兄 アラン、義姉 ジゼルと続く。
そしてバランスの悪いことに、父の右手側のすぐ隣に俺 オーバンが座っている。
わかるだろうか?
そう。俺の目の前に座っているのは義母という感じなのだ。
何故こんな状況なのかを説明すると、父は自分の容姿に非常にコンプレックスを抱えている人だった。
別に不細工なわけではないのだが、自身の一重の切れ長の目が単純に物凄く嫌いだったのだ。
そして正妻として迎えたバルバラは奥二重ではあるが少々目つきが悪く凄みのある顔立ちで、ご多分に漏れず子供である兄、姉は鋭い切れ長の目を持つ凄みのある子供となってしまったのである。
それ故に父は我が子をなんとなく敬遠して可愛がれず、夫婦の溝は深まってしまった。
そこから当然夫婦の営みも消えてしまったところで、父はメイドに手を付けてしまったのだ。
パッチリ二重の童顔な娘で、無邪気な笑顔が可愛くてついつい寝てしまったのだという(勿論同意の上で)。
それでできちゃったのが俺だ。
ちなみに俺の母であるその人は俺を産んだら「この子のことは旦那様にお任せします。私一人ならどこででも生きていけますから」と涙ながらに屋敷を去っていったらしいのだが、メイド仲間たちから詳しく話を聞くと「奥様にいびりまくられる生活なんてもう懲り懲りだわ。子供を犠牲にしても逃げてやる!」と妊娠期間中ずっと愚痴をこぼし続けていたらしい。
どうやら俺はその言葉通り生贄にされたらしい。
けれど母に似た俺のことを父はそれはもう溺愛していた。
「オーバン」
二人っきりになると優しい目で俺を見る父。
昔は別にそれでもよかった。
けれど俺が15を迎えた昨今では、少々事情が変わってきたような気がする。
「オーバン…益々母に似て愛らしくなってきたな」
そうしてうっとりとした顔を向けられて背筋が寒くなる日が増えてきたのだ。
今も────父は口を閉じて食事を進めているものの、その目はちらちらとこちらへと向けられてきていて、正直気持ちが悪い。
しかもそれを見て正妻であるバルバラや兄姉達が良い気がするはずもなく、陰で『さすが妾腹。父であっても関係なく誑かすのね。汚らしい』と罵られているのを知っていた。
誰が好き好んで自分の親を誑かすかって話なんだが、彼らからしたらその感情は抱いてもおかしくはないものなのだということは理解できたので我慢していた。
そう……我慢していたんだ。
何も文句を言わず、父の好色な目も見て見ぬ振りをして、嫌味も聞こえないふりをして感情を押し殺して生きてきた。
それがこの家に生まれた俺に課せられた日常で、それはきっとこの先もずっと変わることなく続いていくのだとそう思っていた。
それなのに─────。
食後のデザートを一口口に運んだところで全身に冷や水を浴びせられたかのように急激な寒気に襲われてしまった。
ガターン…!と倒れる椅子と自分の身体。
動けない…意識がどんどん遠のいていく。
きっと先程のデザートには毒が入れられていたのだろう。
(ああ…俺、死ぬのか……)
自分の名を呼ぶ悲壮な父の声が聞こえてくるが、何も答えることが出来ない。
「お前がオーバンに毒を盛ったのか?!」
「貴方が悪いんですわ!私たち家族をないがしろにして!私たちがこれまでどんなに我慢を重ねてきたかお分かりですか?!」
「煩い煩い!文句があるなら出ていくがいい!ここの当主はこの私だ!」
「ふざけないでくださいな!こんな子がいるせいで貴方は狂ってしまったのですわ!いい加減目を覚ましてください!」
完全に意識が飛ぶ前にそんな夫婦喧嘩の声が聞こえた気がした─────。
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