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【本編】
11.辞職 Side.ディオン&ヴォルフガング
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竜王陛下…いや、ラスターの前で醜態を晒してしまったが、兎にも角にも俺は領地へ帰ることにした。
今は『一緒に領地に帰るのでそれまでここに居てください』と頼みこみ、何とか屋敷に滞在してもらっている最中だ。
引継ぎがあるからすぐには帰れないが、なんとしてでも早急に手続きを終えてしまわないと。
「皇太子殿下!」
「どうした、ディオン?そんなに切羽詰まった顔をして」
「急遽領地に帰ることになりました。お約束通り近衛騎士の職を辞すことをお許しください!」
いつも通り仕事の手を止めないまま俺に声を掛けていた皇太子の手がぴたりと止まる。
「……聞き間違いか?職を辞すと聞こえたような気がしたが…」
「聞き間違いではありません。そう申し上げました」
恭しく礼を取って改めてそう言い直すとガタッと音を立てて皇太子が椅子から立ち上がる。
「どういうことだ?!辺境伯に何かあったのか?!」
どうやらそちらの可能性が高いと思ったらしい。
確かにその気持ちはわからなくもない。
運命の相手探しはこれまでずっと難航していたのだから、まさか見つかるとは思わなかったんだろう。
「いえ。父から様子窺いの使者が送られてきたのです」
「なんだそうか。焦って損したぞ」
「どうやら随分心配をかけてしまったようで」
「それはそうだろうな。5才でこちらに来てからずっと、お前は一度も領地に顔を出していないんだから」
「はい。ですからいい機会ですし、これを機に領地へ帰ろうと思います」
「爵位を継ぐのか?」
「その辺りは父次第ですが」
「運命の相手はもういいのか?」
「それにつきましては、昨日やっと…見つかりましたので」
まさか領地にいたなんて思いもよらず随分回り道をしてしまったが、見つかったのなら側に行くに決まっている。
これからはずっと側に居て絶対離れない。
そんな強い思いを抱きつつ、やっと出会えた喜びでつい頬が綻んでしまう。
「…………今度こそ聞き間違いか?今見つかったと聞こえた気がするんだが?」
そこへ皇太子が戸惑うように声を掛けてきたから、俺は素直に答えた。
「聞き間違いではありませんよ?やっと運命の相手に出会えたんです」
笑顔で報告をする俺。
そんな俺に皇太子はどこか複雑そうな表情で尋ねた。
「それはどこの国の王侯貴族だ?」
「俺の領地の平民です」
「平民?!」
俺の答えは予想外だったらしく、気持ちはわかると思いながら俺はうんうんと頷き言葉を付け足す。
「俺も正直驚きました。あれほど高貴な見た目の素晴らしい方がまさか平民に生まれているなんて思いもしませんでしたから」
「…………高貴な見た目。会ったことがあったのか。もしかして向こうが偶々王都に出て来ていた際に見初めたのか?」
まあ確かに竜王陛下とは前世で王都に出てきた際にパレードで出会ったと言えば出会った。
とても一方的ではあったけど。
「その辺りはご想像にお任せします。近衛の仕事は引継ぎが終わり次第退職させていただきますので、よろしくお願いいたします」
「……わかった。約束は約束だ。許そう。だが、友として力を借りたい時は連絡をしても構わないか?」
「もちろんです。もしお力になれるのでしたらどうぞいつでもお呼びください」
「助かる。ディオン。お前という友がいて俺は幸せ者だ」
「身に余るお言葉です。皇太子殿下の未来が明るく希望に満ちたものであるよう領地より祈っております」
さて挨拶も終わった。
さっさと仕事の引継ぎに向かおう。
俺は足取りも軽く皇太子の執務室を後にした。
***
【Side.ヴォルフガング】
ずっと何年も恋に恋していた辺境伯の息子ディオンが見るからに上機嫌で俺の前から去っていく。
そんな姿に俺は遣る瀬無い気持ちを抱いたままこぶしを握り締めた。
あいつへの恋心を自覚したのはもうずいぶん前だ。
幼い頃から学園で机を並べていたから、最初は他の者達と変わらないという認識しかなかった。
でも月日と共にその差は顕著になった。
学園に通う者は全員貴族だ。
当然皇族である俺に下心を持って話しかけてくる。
親に仲良くしろと言われているんだろう。
俺が頼んでもいないのに先回りしてあれこれ世話を焼こうとしたり、余計な話を耳に届けに来たり、ご機嫌伺いをしに来たりとうんざりすることばかり。
そんな中、ディオンだけは一線を引きつつも周囲と平等に扱ってくれた。
誰にでも優しいディオン。
俺に敬意を持ちながらもその行動はいつでも自然体で、こちらを不快にさせない絶妙な距離感を常に保ってくれるその姿に好感を覚えた。
社交的だから誰とでも仲良くなり親しく話す。
けれどそんなディオンを目で追っていたからこそ気づいたことがある。
(ああ。特別親しい者もいないのか)
それは凄く意外ではあった。
誰とでも仲が良いのにちゃんと彼なりの線引きがあるのだ。
誰に対しても踏み込み過ぎないその姿勢は兎に角徹底していた。
その時だろうか?
彼の特別になりたいと思ったのは────。
それからの俺は頑張った。
兎に角距離を詰めたくて、些細な接点さえも生かし、誰よりも側にいたように思う。
そんな俺にディオンは困ったようにしていたが、俺が『友達がいないんだ!察しろ!』と言ってやったら初めて破顔して、『そういうことなら仕方がないですね』と受け入れてくれたのだ。
これは快挙だろう。
だからそう。期待もあったんだ。
俺だけはディオンの特別なのだと。
それは決して自惚れではなくて、ディオンとの会話からも間違いないものだと思えた。
「ディオンは運命の相手を探していると聞いたが、理想があるのか?」
「はい。実は…お恥ずかしながら」
「どんな相手が理想なんだ?」
「そうですね。常に民のことを考え、国を思い尽力する。そんな姿に憧れます」
(待て。それはどう考えても理想の相手は王族ではないのか?)
「民に愛される王って…いいですよね」
うん。やはりそうだ。
だとしたらどう考えても相手は皇太子である俺しかいないな。
いや、違うか。あくまでもこれは理想の相手像を語っているに過ぎない。
(他国の王族という可能性も考えられる…か?)
だが俺がこの先素晴らしい王となって民を導いていけばディオンの理想に近づくのは確実だ。
「そ、それ以外に何かないのか?」
ついでにもっと聞いておこう。
何を言われるだろう?凄くドキドキする。
でも折角だから可能な限り理想に近づきたい。
「そうですね。いつでも穏やかに微笑んで、周囲とも良好な関係を築ける。そんな姿も素敵だと思います」
なるほど。
威圧的な王は良くないということだな。
それなら大丈夫だ。
「後は適材適所で人を配置したりその時々で適切な指示が出せる、そんな有能なところを傍で見られたら惚れ直してしまうかもしれません」
「そ、そうか」
(惚れ直す?これはもう遠回しな告白だな)
そんな王になってくれる人が好きなので頑張ってくださいと、きっとそう言いたいのだろう。
これは期待に応えて一度しっかりと学び直した方がいいかもしれない。
一応皇太子として恥ずかしくない程度には学んできたが、完璧かと問われたらそんなことはない。
ここはひとつディオンの理想に近づけるべく頑張ろうではないか。
そう思い、俺は皇太子として改めて自覚を持ち直し、父にも話して鍛えてもらった。
結果的に良い心掛けだと褒めてもらえたし、講師陣や貴族達からの印象も良くなった。
その頃だろうか?チラホラと俺とディオンの噂話が学園内で聞こえてくるようになった。
ディオンが告白を断る際に想い人がいるという話をしていると聞いたことはあったし、それが俺だと皆に思われるのは素直に嬉しかった。
俺がディオンの言葉を受けて努力しているのは皆に伝わっているし、それが噂の信憑性を高くしたのだと思う。
最早公認の仲と言っていいだろう。
とは言え男同士だし当然結婚はできない。
それでも恋人関係にはなれる。
父も結婚までは好きにしていいと言ってくれた。
そうして無事に優秀な成績で学園を卒業し、俺はいよいよディオンとの関係を進めるべく一歩を踏み出した。
俺の中ではラブラブな遊学になる予定だったんだ。
それなのにディオンの態度は何も変わらず、あろうことかこっぴどく振られてしまった。
それでもなんとか嫌われることなく近衛騎士になることに頷いてもらえたから、今度こそ振り向かせて見せると思っていたのに────。
「見事に脈なしでしたね」
「おかしいだろう?!」
あの条件を満たしているのは俺だけだと思ったのに、何が違ったんだ?!
「お互いに後継が必要な立場ですし、まあ結果的に良かったのでは?」
「グッ…だが、少しくらい夢を持っても構わないだろう?どうせ俺だってまだすぐに結婚する予定なんてないんだから」
少しくらい甘い恋に浸ってもいいじゃないか。
恨めし気に俺に現実を突きつけてくる側近を見遣るが、側近はどこ吹く風だ。
「折角一緒に遊学にも行って、なんとか近衛騎士として傍に置くこともできたのに…どうしてだ。ディオン」
遊学先で堂々とした姿を見せれば振り向いてもらえるかもしれない。
側で俺の仕事ぶりを見れば気持ちも変わるかもしれない。
そんな気持ちで頑張っていたのに、唐突に運命の相手を見つけたから帰るだなんて…!
(しかも相手は平民だと?!話が違うじゃないか!!)
相手が平民なら絶対に王にはなれない。
それこそ謀反でも起こさない限りは。
「きっとお相手に一目惚れでもしたんでしょう。ご愁傷さまです」
「いや!諦めるのはまだ早い。所詮相手は平民!ディオンもきっとすぐに目が覚めるはずだ!」
確かに側近の言葉通りどうせ見た目がドストライクだったとかそんなところだろう。
それなら諦める必要はない。
相手が平民ならどう転がったってディオンの理想を満たせはしないのだから。
そうなればディオンは絶対にここに戻ってくるはずだ。
「俺は諦めないぞ!」
「はいはい。頑張ってください」
側近の淡々とした声にぐぬぬと思いながら、俺は一瞬でディオンの心を奪った相手をどうしようもなく羨ましく思ったのだった。
今は『一緒に領地に帰るのでそれまでここに居てください』と頼みこみ、何とか屋敷に滞在してもらっている最中だ。
引継ぎがあるからすぐには帰れないが、なんとしてでも早急に手続きを終えてしまわないと。
「皇太子殿下!」
「どうした、ディオン?そんなに切羽詰まった顔をして」
「急遽領地に帰ることになりました。お約束通り近衛騎士の職を辞すことをお許しください!」
いつも通り仕事の手を止めないまま俺に声を掛けていた皇太子の手がぴたりと止まる。
「……聞き間違いか?職を辞すと聞こえたような気がしたが…」
「聞き間違いではありません。そう申し上げました」
恭しく礼を取って改めてそう言い直すとガタッと音を立てて皇太子が椅子から立ち上がる。
「どういうことだ?!辺境伯に何かあったのか?!」
どうやらそちらの可能性が高いと思ったらしい。
確かにその気持ちはわからなくもない。
運命の相手探しはこれまでずっと難航していたのだから、まさか見つかるとは思わなかったんだろう。
「いえ。父から様子窺いの使者が送られてきたのです」
「なんだそうか。焦って損したぞ」
「どうやら随分心配をかけてしまったようで」
「それはそうだろうな。5才でこちらに来てからずっと、お前は一度も領地に顔を出していないんだから」
「はい。ですからいい機会ですし、これを機に領地へ帰ろうと思います」
「爵位を継ぐのか?」
「その辺りは父次第ですが」
「運命の相手はもういいのか?」
「それにつきましては、昨日やっと…見つかりましたので」
まさか領地にいたなんて思いもよらず随分回り道をしてしまったが、見つかったのなら側に行くに決まっている。
これからはずっと側に居て絶対離れない。
そんな強い思いを抱きつつ、やっと出会えた喜びでつい頬が綻んでしまう。
「…………今度こそ聞き間違いか?今見つかったと聞こえた気がするんだが?」
そこへ皇太子が戸惑うように声を掛けてきたから、俺は素直に答えた。
「聞き間違いではありませんよ?やっと運命の相手に出会えたんです」
笑顔で報告をする俺。
そんな俺に皇太子はどこか複雑そうな表情で尋ねた。
「それはどこの国の王侯貴族だ?」
「俺の領地の平民です」
「平民?!」
俺の答えは予想外だったらしく、気持ちはわかると思いながら俺はうんうんと頷き言葉を付け足す。
「俺も正直驚きました。あれほど高貴な見た目の素晴らしい方がまさか平民に生まれているなんて思いもしませんでしたから」
「…………高貴な見た目。会ったことがあったのか。もしかして向こうが偶々王都に出て来ていた際に見初めたのか?」
まあ確かに竜王陛下とは前世で王都に出てきた際にパレードで出会ったと言えば出会った。
とても一方的ではあったけど。
「その辺りはご想像にお任せします。近衛の仕事は引継ぎが終わり次第退職させていただきますので、よろしくお願いいたします」
「……わかった。約束は約束だ。許そう。だが、友として力を借りたい時は連絡をしても構わないか?」
「もちろんです。もしお力になれるのでしたらどうぞいつでもお呼びください」
「助かる。ディオン。お前という友がいて俺は幸せ者だ」
「身に余るお言葉です。皇太子殿下の未来が明るく希望に満ちたものであるよう領地より祈っております」
さて挨拶も終わった。
さっさと仕事の引継ぎに向かおう。
俺は足取りも軽く皇太子の執務室を後にした。
***
【Side.ヴォルフガング】
ずっと何年も恋に恋していた辺境伯の息子ディオンが見るからに上機嫌で俺の前から去っていく。
そんな姿に俺は遣る瀬無い気持ちを抱いたままこぶしを握り締めた。
あいつへの恋心を自覚したのはもうずいぶん前だ。
幼い頃から学園で机を並べていたから、最初は他の者達と変わらないという認識しかなかった。
でも月日と共にその差は顕著になった。
学園に通う者は全員貴族だ。
当然皇族である俺に下心を持って話しかけてくる。
親に仲良くしろと言われているんだろう。
俺が頼んでもいないのに先回りしてあれこれ世話を焼こうとしたり、余計な話を耳に届けに来たり、ご機嫌伺いをしに来たりとうんざりすることばかり。
そんな中、ディオンだけは一線を引きつつも周囲と平等に扱ってくれた。
誰にでも優しいディオン。
俺に敬意を持ちながらもその行動はいつでも自然体で、こちらを不快にさせない絶妙な距離感を常に保ってくれるその姿に好感を覚えた。
社交的だから誰とでも仲良くなり親しく話す。
けれどそんなディオンを目で追っていたからこそ気づいたことがある。
(ああ。特別親しい者もいないのか)
それは凄く意外ではあった。
誰とでも仲が良いのにちゃんと彼なりの線引きがあるのだ。
誰に対しても踏み込み過ぎないその姿勢は兎に角徹底していた。
その時だろうか?
彼の特別になりたいと思ったのは────。
それからの俺は頑張った。
兎に角距離を詰めたくて、些細な接点さえも生かし、誰よりも側にいたように思う。
そんな俺にディオンは困ったようにしていたが、俺が『友達がいないんだ!察しろ!』と言ってやったら初めて破顔して、『そういうことなら仕方がないですね』と受け入れてくれたのだ。
これは快挙だろう。
だからそう。期待もあったんだ。
俺だけはディオンの特別なのだと。
それは決して自惚れではなくて、ディオンとの会話からも間違いないものだと思えた。
「ディオンは運命の相手を探していると聞いたが、理想があるのか?」
「はい。実は…お恥ずかしながら」
「どんな相手が理想なんだ?」
「そうですね。常に民のことを考え、国を思い尽力する。そんな姿に憧れます」
(待て。それはどう考えても理想の相手は王族ではないのか?)
「民に愛される王って…いいですよね」
うん。やはりそうだ。
だとしたらどう考えても相手は皇太子である俺しかいないな。
いや、違うか。あくまでもこれは理想の相手像を語っているに過ぎない。
(他国の王族という可能性も考えられる…か?)
だが俺がこの先素晴らしい王となって民を導いていけばディオンの理想に近づくのは確実だ。
「そ、それ以外に何かないのか?」
ついでにもっと聞いておこう。
何を言われるだろう?凄くドキドキする。
でも折角だから可能な限り理想に近づきたい。
「そうですね。いつでも穏やかに微笑んで、周囲とも良好な関係を築ける。そんな姿も素敵だと思います」
なるほど。
威圧的な王は良くないということだな。
それなら大丈夫だ。
「後は適材適所で人を配置したりその時々で適切な指示が出せる、そんな有能なところを傍で見られたら惚れ直してしまうかもしれません」
「そ、そうか」
(惚れ直す?これはもう遠回しな告白だな)
そんな王になってくれる人が好きなので頑張ってくださいと、きっとそう言いたいのだろう。
これは期待に応えて一度しっかりと学び直した方がいいかもしれない。
一応皇太子として恥ずかしくない程度には学んできたが、完璧かと問われたらそんなことはない。
ここはひとつディオンの理想に近づけるべく頑張ろうではないか。
そう思い、俺は皇太子として改めて自覚を持ち直し、父にも話して鍛えてもらった。
結果的に良い心掛けだと褒めてもらえたし、講師陣や貴族達からの印象も良くなった。
その頃だろうか?チラホラと俺とディオンの噂話が学園内で聞こえてくるようになった。
ディオンが告白を断る際に想い人がいるという話をしていると聞いたことはあったし、それが俺だと皆に思われるのは素直に嬉しかった。
俺がディオンの言葉を受けて努力しているのは皆に伝わっているし、それが噂の信憑性を高くしたのだと思う。
最早公認の仲と言っていいだろう。
とは言え男同士だし当然結婚はできない。
それでも恋人関係にはなれる。
父も結婚までは好きにしていいと言ってくれた。
そうして無事に優秀な成績で学園を卒業し、俺はいよいよディオンとの関係を進めるべく一歩を踏み出した。
俺の中ではラブラブな遊学になる予定だったんだ。
それなのにディオンの態度は何も変わらず、あろうことかこっぴどく振られてしまった。
それでもなんとか嫌われることなく近衛騎士になることに頷いてもらえたから、今度こそ振り向かせて見せると思っていたのに────。
「見事に脈なしでしたね」
「おかしいだろう?!」
あの条件を満たしているのは俺だけだと思ったのに、何が違ったんだ?!
「お互いに後継が必要な立場ですし、まあ結果的に良かったのでは?」
「グッ…だが、少しくらい夢を持っても構わないだろう?どうせ俺だってまだすぐに結婚する予定なんてないんだから」
少しくらい甘い恋に浸ってもいいじゃないか。
恨めし気に俺に現実を突きつけてくる側近を見遣るが、側近はどこ吹く風だ。
「折角一緒に遊学にも行って、なんとか近衛騎士として傍に置くこともできたのに…どうしてだ。ディオン」
遊学先で堂々とした姿を見せれば振り向いてもらえるかもしれない。
側で俺の仕事ぶりを見れば気持ちも変わるかもしれない。
そんな気持ちで頑張っていたのに、唐突に運命の相手を見つけたから帰るだなんて…!
(しかも相手は平民だと?!話が違うじゃないか!!)
相手が平民なら絶対に王にはなれない。
それこそ謀反でも起こさない限りは。
「きっとお相手に一目惚れでもしたんでしょう。ご愁傷さまです」
「いや!諦めるのはまだ早い。所詮相手は平民!ディオンもきっとすぐに目が覚めるはずだ!」
確かに側近の言葉通りどうせ見た目がドストライクだったとかそんなところだろう。
それなら諦める必要はない。
相手が平民ならどう転がったってディオンの理想を満たせはしないのだから。
そうなればディオンは絶対にここに戻ってくるはずだ。
「俺は諦めないぞ!」
「はいはい。頑張ってください」
側近の淡々とした声にぐぬぬと思いながら、俺は一瞬でディオンの心を奪った相手をどうしようもなく羨ましく思ったのだった。
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