【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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190.毒への誘い⑭ Side.ロキ&カリン

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待ち合わせ場所へと辿り着くと既に相手は来ていて、「よっ!」と手を上げてくれた。

そこから裏で買取済みのアジトに場所を移して話をすることに。
人数が多くて目立たないのかと思われるかもしれないけど、森に大物を狩りに行くような者達は大人数で固まって歩いているのもザラとのことで、特に目立つというほどでもなかった。

「さてと。じゃあ情報交換と行こうか」

そしてこちら側の情報と、向こうが持っている情報を互いに交換しあって、これからの対策を話し合う。

それによるとユーツヴァルトは森で鹿狩りをしていた現メルケ国王の子に見つけられたのだとか。
その子はまだ12才で、怪我をしたユーツヴァルトを一生懸命看護しているらしい。

「やっぱり暗殺しちまうのが一番手っ取り早くねぇか?」
「そうだな。闇医者にも許可はもらってるしよ」

そんな話を皆はしているけど、個人的にはこのタイミングで殺してしまったらその王子から恨まれそうな気がしてならない。
まだ幼いし、きっと自分が助けた相手が暗殺されるだなんて考えもしないはず。
ガヴァムに殺されたと知れば単純にメルケに対する攻撃と受け取られかねない。
厄介なことになった。

「……取り敢えず殺すのは今はなしにしないか?」

だから思わずそう口にしたのだけど、皆からは甘いと言われてしまった。
このまま放置しても良いことなど一つもないとのこと。
まあ理屈はわかる。
とは言え誤解も逆恨みもされたくはないし、安易に暗殺してこいとは言えない。
ここはやっぱりアンシャンテ側から引き渡し要求をしてもらうのが一番良いだろうか?
その方がメルケ側におかしな誤解はされなくて済みそうな気がする。
そう思い、皆に取り敢えず提案してみることに。

「変に恨みは買いたくないし、シャイナー経由でユーツヴァルトの身柄を引き渡すよう要求してみたらどうだろう?」
「あ~…確かにガヴァム側から言って足元を見られるより、アンシャンテ側から言う方が平和的かもしれねぇな」

この意見は皆の中でも悪くはない提案だったようだ。
取り敢えずそれで進めてみようと言ってもらえた。

それからツンナガールを取り出し、シャイナーに連絡を取ってみたものの、鬱陶しいほど『ロキから連絡が入った!』と浮かれてこられたので思わず『キャサリン妃に掛け直します』と言って切ってしまった。

キャサリン妃にかけ直すとすぐに出てくれて、ユーツヴァルトが現在メルケ国の王宮に保護されている話をすると、少々お待ちくださいと言われて、暫くしてからシャイナーに替わられた。
やはりどう足掻いてもシャイナーと話さなくてはいけないらしい。

「んんっ。ロキ。さっきはすまなかった。それでユーツヴァルトの件だったな」
「ええ。今メルケ国の王宮で怪我の手当てをしてもらっているようなので、アンシャンテ側から身柄引き渡しの要求をしてもらえないか相談しようと思って」
「そうか!任せてくれ!きっちり罪人を引き渡してもらった上でこちらで処分しておく」
「いえ。ユーツヴァルトはアルフレッドの友人でもあるし、処分はセドリック王子にも一応聞いてからの方が…」
「セドリックは俺が殺さなかったら自分が処分すると言っていたし、問題はないぞ?」
「ええ…?そうですか。わかりました。じゃあ申し訳ないですがお任せします」

どうやらシャイナーもセドリック王子も、ユーツヴァルトを生かしておくという選択肢はないらしい。
双方に狙われては、今のメルケ国にユーツヴァルトを守りきれるとはとても思えなかった。
素直に引き渡すしかないことだろう。

「ではすぐに身柄を引き渡してもらえるよう動くから、朗報を待っていてくれ」

そう言ってシャイナーはあっさりと通話を切り行動を開始する。
これでユーツヴァルトの運命は決まったも同然だった。

「じゃあ取り敢えずユーツヴァルトの監視は続けてもらって、何かあったら連絡してほしい」
「わかった。んじゃ、また連絡する」

そして男はまたメルケの王宮へと戻っていき、俺達も帰ることに。

「ロキ坊。折角だし、どこか寄りたい場所はねぇか?」
「寄りたい場所?」

特にはないかなと思ったものの、そう言えば山を貫通するのに工事が始まって、予定よりも早く掘り進んでいるらしいという話を思い出した。

「アンシャンテに繋がる道を貫通させるために工事が始まっているだろう?ついでだから何か問題が出ていないか見に行きたい」
「視察だな。よし、行くか」

そうしてちょっと寄り道をしてそちらへと向かってみることに。


***


【Side.カリン】

ロキの帰りを今か今かと待っていたら、ユーツヴァルトを始末するため放っていた暗部から連絡が入った。
なんでもユーツヴァルトがメルケ国の王子に保護されてしまったため容易に手が出せなくなってしまったとのこと。

「如何なさいますか?」
「チッ…。厄介なところへ…」

運が良すぎるにもほどがある。

(仕方がない。シャイナーに話をして対策を取るか)

暗殺が難しいなら正攻法だ。
身柄の引き渡しをしてもらってから処分しよう。
この際ユーツヴァルトが始末できるのならシャイナーが手を下そうと自分が手を下そうとどちらでも構わない。
要するに、二度とロキに手を出してこられないよう確実に息の根を止めてやれればいいのだ。
そう思って連絡を取ると、第一声が『遅いな』だった。
それによるととっくの昔にロキから連絡が入ってメルケ国にユーツヴァルトの身柄引き渡し要求を出し終わった後とのこと。

「ぐっ…」
『カリン。どうしてお前がロキに可愛がられているのかと常々疑問だったが、もしかしてのんびりしたお前が可愛いなどと言われていないだろうな?王配として未熟過ぎるぞ』

痛いところを突かれてしまった。
確かに情報収集が甘過ぎたように思う。
きっとロキだけではなく俺も手駒を増やすべきなのだろう。

『まあいい。俺も失敗したことだしな』
「どういう意味だ?」
『話を聞いてすぐにワイバーンで使者を送ったが、メルケ側が該当する人物はいないと言ってきたんだ』
「なんだと?」
『ロキからの情報では確実に王城内で手厚い看護を受けているとのことだったが、帰ってきた答えがそれだ。当然納得できず再度要求したが答えは変わらなかった』
「……それなら刺客を放つしかないじゃないか」
『まあその通りだな。俺の方で刺客を差し向けるつもりだ。お前は黙って報告を待て』
「いや。俺も暗部を放っているからそっちに…」
『お前のところのポンコツ暗部は却って邪魔だ。引っ込んでいろ』
「なんだと?!お前の方こそ引っ込んでいろ!憂慮の種は俺が取り除く!」
『できもしないことを口にするな。俺はロキからのご褒美のためにも絶対に引かん!』
「それが目的か!ふざけるな!」

そうしてギャイギャイ言い合いをして、明日どちらの手の者が先に仕留めるか勝負だと言ってツンナガールを切った。
こうなったら意地でもユーツヴァルトをこちらの暗部の手で殺してやりたい。
シャイナーにロキからの褒美など与えてやるものか。

「それにしても遅いな」

出掛けた用事はなんとなく把握できたが、ロキの帰りが遅いのが気になる。
もしかして何かあったんだろうか?
それともとっくに帰ってきて裏の酒場にでもいつの間にか出掛けたとかだろうか?
ロキの居場所は残念ながら俺の傍以外だと相変わらず裏の連中がたむろする酒場だ。
今は俺と喧嘩中だからそちらに行った可能性は非常に高い。
しかもそこは俺は立ち入り禁止だから、様子を見に行ったり迎えにすらいけない始末。

(どうしよう…)

でも不安は不安だ。
こっそり行くくらいなら大丈夫だろうか?
バレなければ…。
そう思ってフード付きのマントを用意させて、ちょっとだけ足を運んでみることに。

(確か前にロキを迎えに行った闇医者の家の近くだったな)

一応場所は把握しているから行けないこともない。
だから思い切って暗部を護衛にそこへと向かってみたのだが────。

カラン…。

ドアに取り付けられたベルが鳴ると共に中の連中の視線が一斉にこちらへと向けられ、秒で正体がバレた。
何故だ?!

「よぉ…クソ兄貴。ここは立ち入り禁止だぜ?」
「兄ちゃん、敵地に乗り込んでくるたぁ度胸があるな。火酒でも一杯引っ掛けていくか?」

ケラケラと笑われたり、嘲笑うようにニヤニヤとした目で露骨に嫌味を言われてしまう。
全員が全員冷めた目で俺を見てきたから、本当に来るんじゃなかったと後悔してしまったほど。
逆にロキはこんな場所に出入りして大丈夫なんだろうかと心配になるレベルだ。
虐められたりしないのか甚だ疑問だった。

「さっさと安全なお城の中に帰って枕でも抱いて寝てな」

そう言ってあっさり店から追い出されそうになったのだけど────。
追い出されるより先に背後のドアが外から開かれた。

「あれ?兄上?」

しかもやってきたのは俺が帰りを待ちわびていたロキだった。
髪の色が何故か違うが、間違いない。

「ロキ!」

その事にホッとしたものの、俺が連れ帰ろうとするよりも店の連中の声掛けの方が早かった。

「おぅ!ぶっ壊れ野郎!入れ入れ!」
「なんだその髪!ウィッグか?妙に似合ってて…ぷぷっ!面白ぇっ!」
「似合ってんぞ!ブハハッ!ほら、こっち来て座れ!」
「今日は何の用だ?何でも話を聞いてやるぞ?」

俺の時とは違い物凄く皆が好意的だ。
なんだかアットホームな雰囲気さえ感じられて悔しい。

「そこのクソ兄貴はさっさとお帰りいただくから、悩み相談でも何でもしていけよ」
「どうせ喧嘩でもしたんだろ?愚痴も聞いてやるからな。夜通し飲もうぜ!」

(夜通しだと?!)

「それは困る!」

ちゃんとロキを返せと言ってやりたい。

「はぁ?ロキ坊は俺達の仲間だぜ?おかしな口出ししてくんじゃねぇよ」
「ぶっ壊れ野郎は用があってここに来てるんだ。用事が終わるまで帰す気はねぇよ。引っ込んでろ」

裏の連中が冷たい。

「えぇと…兄上?先に帰ってもらっていいですか?リヒターとカークを護衛につけるので」
「なっ?!」
「ちゃんと帰るので、後で話しましょう?」
「ぐぅ…っ」

酒場のやつらがニマニマしながら俺達のやり取りを見守っている。
まるでほら見たことかと言わんばかりだ。
悔しい!
そう思ったから、さっき俺に火酒でも引っ掛けていくかと言ってきた奴の席まで行って『火酒をくれ!』と言ってやった。
飲んでる間は帰らなくていいだろうから。
そうしたらヒュ~ッと口笛を吹かれて、笑いながらオーダーをしてくれる。

「火酒飲んでから帰るとよ!マスター、一杯くれや!」

そうして出てきたのは酒に火が灯されたグラスだ。

(なんだこれは?!どうやって飲んだらいいんだ?!)

困り切って固まっていたら、ロキが見かねて間に入ってくれた。

「兄上。いいから帰ってください。ここに居ても兄上が楽しいとは思えませんから」

そう言ってリヒターに俺を託してそのまま店から出されてしまう。

「リヒター。頼んだぞ?」
「仰せのままに。カリン陛下、行きますよ」

そうして俺は強制的に城へと連れ戻されてしまったのだった。


****************

※一般的に火酒は度数の強い酒のことですが、ここでカリンに出されたのは揶揄い目的の火をつけたカクテル。
完全に遊ばれてるんだなと思っていただければ幸いです。

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