【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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閑話22.酒場にてⅢ

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【Side.トーシャス】

ネブリス国とメルケ国の問題を解決してガヴァムへと戻ってきた。
正直言ってなかなか骨の折れる仕事だったが、ずっと何とかしたかった問題だっただけに皆でこれでもかと叩いて来た。
紛争地帯の裏の連中だけに厄介な奴らばかりだったが、こっちも負けてはいないから闇医者の的確な指示の元、順次確実に潰していった。
手を出す口実を作ってくれたぶっ壊れ野郎と、クスリを持ち込んできたどこかのボンクラ貴族には感謝の気持ちでいっぱいだ。

でも残党が報復に動いたという話を聞いた時はかなりヒヤッとしてしまった。
前よりかなりマシにはなっているものの、あの城の警備は完璧じゃあない。
しかもポンコツ騎士達は腕を磨き直して実力はついてきているものの、すぐに気を抜いて隙を作るから使えねぇ奴らばっかりだ。
俺なら100%楽々ぶっ壊れ野郎のところに暗殺しに行けるぜ。勿論しねぇけどな。

まあそうは言っても各国の賓客が目白押しの中、各自の暗部が潜んでる王宮ではそうそう残党達も自由には動けない。
こっちもすぐに手を打って、闇医者が護衛をぶっ壊れ野郎につけに行った。
これでちょっとは安心できるってもんだ。
その後更に追加で二人投入されたって聞いた時は笑ったけどな。

アンシャンテのシャイナー王がいつまで経ってもぶっ壊れ野郎を諦めないと聞いて、俺達はもうあの王配に任せるのはやめにして、こっちで勝手に手を打つことに決めた。
このまま放置してたらぶっ壊れ野郎の頼れる味方、リヒターが暗殺されかねない状況になってしまったからだ。

ぶっ壊れ野郎はブランドン達に『シャイナーに隙を見せたくないから闇医者に相談したい。予め話を通しておいてほしい』と言ったそうだ。
それを聞いた闇医者は酒場のマスターと話し合って各地に散った奴らの情報を精査し始めると共に、新人研修の場をもう本格的に城に変えたらどうだろうと言ってきた。
これまでもたまに諜報訓練に使ったりしてた(一番侵入がしやすい城だから)が、暗殺者育成、スパイ育成の本拠地にしてしまえということらしい。

現状あの城にいる暗部は王配カリンが抱える20名ほどの暗部だけだ。
昔はもっと沢山いたが、カリンがまずブルーグレイでやらかした時に付いてった奴らが殺されて、次いで国際会議の時に前王についた者とカリンについた者で対立し、その後王側についた者達がブルーグレイの暗部に報復に向かって殺されたり、王と一緒に殉死したりと大幅に減ってしまったのだ。
だから人手不足な感は確かに否めなかった。

それ以前にも実はちょいちょい俺達裏の者達との対立で暗部とは殺し合ったりしていたから、元々減少傾向にはあったのだけど…。

その状況で新たに暗部の人材を育成するにしても人手が足らず、彼らに城の不穏分子を見張らせるのが関の山。
カリン本人もぶっ壊れ野郎を王として育成したり、他の問題がある奴ら(腑抜けた騎士達等)を育て直すよう手を打ったりと忙しかったからなかなか手が回らなかった。
あの城の中は本当に問題が山積みで大変だというのは認めよう。
だが、だからと言ってぶっ壊れ野郎をいつまでも危険な状況に置いておくわけにはいかない。
今はただの一王子ではなく、この国の王なのだから。

一先ずカークとリヒターに加え、ブランドン、ディグの二人を表に配置し、バンビとニコラスを裏に配置したと聞いた。
そうして安全を確保しつつ暗部部隊を新たに作ろう。
ちょうどネブリス国とメルケ国の裏の奴らがあぶれつつあるし、いい人材を拾ってくるだけでいい。
使えない奴らはこれまで通り淘汰されるだけの話だし、使える奴だけ残るだろう。
各地に散っている優秀な奴らが手ずから鍛えるからそう時間もかからないはず。

闇医者曰く騎士団にも大量に新人スパイ達を投入したいとのこと。
見回りの騎士達が使えないのは致命的だから、さり気なく警戒レベルを上げさせるためにも必須だろうと嗤っていた。
やる気を出した闇医者は本当に怖い。
ぶっ壊れ野郎と付き合う前はもっと厭世的だった気がするんだが、腑抜けばかり見続けたせいで腹が立ったんだろう。
俺もそうだ。

「ま、結局ぶっ壊れ野郎は俺らと一蓮托生ってことだな」

可愛い弟分の面倒を見続けるのも悪くはない。
苦労してきた分幸せになれと言ってやりてぇし、全部壊したくなったと言ったら手伝ってやろう。
折角ようやく人間らしくなってきたんだ。
これからできる限り人生を謳歌させてやらねぇと。

「で?結局ぶっ壊れ野郎はダーツはどこに投げたんだ?」

全部終わってから闇医者にそう尋ねると、ため息交じりの答えが返ってきた。

「フォルティエンヌだ」
「ハハッ!絶対ぇ意図的に投げたなそれは」

わざわざそこに別荘が欲しくてピンポイントで狙うとは、魔道具好きにも程がある。
地図上では決して大きくはないあんな小国にダーツを投げて見事に当てるなんて恐れ入った。

「あいつは暗器を扱うセンスがあるな。俺も暗殺術を教えてやろうかねぇ?」
「今ニコラス達も面白がって遊び感覚で色々仕込んでるみたいだ」
「なんだ。じゃあナイフは完璧に使えるようになりそうだな」
「ああ」

自衛手段は多いに越したことはない。
しっかり教え込んで安全確保に力を入れさせよう。

「それで?結局メルケではどこまで始末したんだ?」
「スパイの奴らの情報を元にまともな王族だけ生かして、後はサクッと殺っといた。冷遇されてた王の従兄弟がなかなかの常識人だったからな。あれが王位についたらきっと上手く立て直すだろう」
「こっちに使者としてやってきた宰相はクソだったってディグ達は言ってたがな」
「あんなもん小者だ。どうせすぐに消える」
「まあそうだな。今回の失態で免職になったと聞いた」
「ククッ情報が早いな」
「いずれにせよ国を全部潰すより、上手く建て直させた上で潜り込む方が楽だ」
「そりゃそうだ」

その方が面倒が少なくて済む。
きっとぶっ壊れ野郎もそう言って笑うことだろう。

ぶっ壊れ野郎のお陰で普及したツンナガールは今回も大活躍だった。
連携が取りやすいから、今回のネブリス国の件でもかなり役に立ったと言っていい。
情報は力だと改めて思った。

「アンシャンテへの警告はこっちからはいいのか?」
「そっちはロキ陛下から婚約者の令嬢に手紙を出したらしいし、大丈夫だろう」
「キャサリンだったか」

あれはぶっ壊れ野郎のお気に入りで、なかなか使える人材らしい。

「一先ず一週間放置プレイで、泣きついてきたタイミングでよく言い聞かせておくと返事が来たそうだ。これで少しは大人しくなるだろう」

カランと氷を鳴らして闇医者がグラスを傾ける。
そんな闇医者のグラスにカツンと自分のグラスをぶつけて、俺は笑顔で『お疲れさん』と言ってやった。

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