【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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48.国際会議㉝

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【Side.シャイナー】

(ああ…マズい。非常にマズい…)

アンシャンテの王太子として生きてきた自分だったが、父がここ数カ月で随分追い詰められてしまい王としての仕事に支障が出始めたということで、急遽王の座を退き俺が即位することとなった。
これには周囲から不安の声もあったが、ガヴァム王国でもゴッドハルトでも新たな若き王がその座についたということで逆にタイミングとしてはベストなのではと言う声の方が尊重されて、速やかに戴冠の儀は進められた。

そうして王となった自分の初の外交がこのガヴァム王の結婚式への参列だった。
半年ほど前に即位したロキは自分よりも年下で、正直柔和な印象を受ける王だ。
そんな彼がミラルカの皇太子と共に三ヵ国事業というものを立ち上げ、国の発展に寄与していると聞き正直非常に驚いてしまった。
衰退に向かっているアンシャンテとしては是非ともそこに上手く便乗し、盛り返していきたいところ。

(上手くやらなければ…)

そんな強い思いでここへとやってきたし、挨拶時にロキの顔を見た時は御しやすそうな男だとも思った。
どちらかと言うと元王太子であるカリンの方が手強い印象を受けたので、懐柔するならロキの方だろうと────そう思っていたのに…。

思い出すのは教会で見たロキの高揚したあの表情。
柔和な優しい声なのは変わらないのに、その口から出てくる卑猥な言葉は麻薬のように脳を犯し、手酷くカリンを抱く姿は容赦などは一切なくてその性格が一筋縄ではいかないことを如実に表していた。

(うぅ…本当にマズい)

あの姿が目に焼き付いてどうしても離れてくれない。
色っぽい眼差しでカリンを見つめ責め立てるロキを見て一目で魅了され、俺はすっかりその虜になってしまったのだ。

あの男はこの国の王だ。
だから────欲しいと思ってはいけない。
自分もあんな風に熱く見つめられながら抱かれたいなど、考えてはいけない。
だからフルリと頭を振って脳裏に焼き付いたその姿を振り払う。

そんな自分に側近がそっと近づいてきて、悪魔の言葉を囁いた。

「シャイナー陛下。それほどロキ陛下をお望みならいっそのこと攫って行かれてはいかがです?」
「あの男はこの国の王だぞ?」
「ええ。ですが騎士の配置は完璧でもそこに控える騎士の質はそれほどよくはありません。ロキ陛下自身の戦闘力も低そうなので攫うことは簡単だと思います。それに彼がいなくともカリン王子が王配として国を支えるでしょうし、行方不明となっても何とでもなるのではないでしょうか?」

ただでさえ今回の結婚式には沢山の国から参列客がやってきている。
取り敢えずロキの身柄を確保し、城下の宿なり空き家なりに監禁しておき、自分達は無関係だと知らぬ存ぜぬで押し通せば特に疑いの目を向けられることはないだろうとその側近は言う。

「夜はカリン王子と一緒でしょうし、狙うなら日のあるうちですね」

側近が少し調べたところ、ロキは近衛を常に側に置いているわけでもなく、普段から常駐している警備兵を当てにしているのか一人でふらふら歩いていることも多いらしい。
しかも思い付きで城から抜け出すこともあるらしく、王なのにやけに自由だなと驚いてしまった。
元々期待されていない第二王子だったというのが要因なのだろうか?

けれどそういうことなら非常にやりやすい。
最悪滞在中に攫えなくても結婚式が終わってから城を出たふりをして城下の宿屋に泊り、ロキの行動を掴んで上手く攫ってやれば証拠も残らないだろう。
きっとロキは怒って帰ろうとするだろうが、交換条件として自分を抱くよう仕向ければいい。
そして『帰してほしければ俺をその気にさせてみろ』と言ってずっと国に留め置けばいいのだ。
そのまま関係をズルズル続けてやればきっと情も湧いて俺と一緒に過ごすことに慣れ、迎えにも来ない兄に見切りをつけて俺の傍に居てくれるようになるはず。
そうなればもうこちらのものだ。

「是非実行に移そう」

ロキを攫ってアンシャンテに連れ帰る。
それを思うと嬉しくなって笑みがこぼれ落ちた。


***


【Side.ロキ】

「セドリック王子」
「ああ、ロキ陛下。結婚おめでとう。さっきはすまなかったな」

どうやら教会でさり気なく気を遣ったのをわかってくれていたらしく、顔を合わせてすぐにそんな一言をくれた。
別に構わないのに。

「いえ。お楽しみいただけたのならよかったです。妃殿下のお傍に居なくても大丈夫ですか?」
「ああ。早く戻るつもりではあるが、まだ大丈夫だろう」
「そうですか」

どうやら目覚めるまでもうしばらく時間があると踏んで来てくれたらしい。
こちらも兄が目覚めるまで少々時間はあることだし、今のうちに軽く話をしておこう。
そう思って、例の機器───シャメルの話をすることにした。

「これからシャメルの需要は非常に高くなると思うので、今のうちに色々とお願いしておきたくて」
「具体的に三ヵ国事業でどのように使う気だ?」
「ええ。まだ車両自体の大まかな試作がされた段階なので、それをシャメルで印刷してレオナルド皇子やレトロンの窓口になってくださっているハルネス公爵や技術協力をしてくれているフォルティエンヌのジョン氏と一緒に見ながら検討を進めたいんです」

だから最低でも後四台は確実に欲しいところだと口にしてみる。

「それを機にシャメルの便宜性が広く知られるようになっていけば少なくとも四カ国では使用したいと言ってくる者が多々出てくるでしょう」

もちろんこの三ヵ国事業が上手くいけば周辺諸国からの需要は増えるだろうし、ブルーグレイにとっても悪くはない話だと思うと持ち込んでみる。

「なるほどな。確かにそういうことなら生産ラインをしっかりと作っておくことに越したことはないだろう」
「ええ。なので、注文が多くなる前に四台ご用意いただけないかと…」

勿論お金はきっちり払うし、ブルーグレイに迷惑をかける気がないこともちゃんと伝えておく。
するとセドリック王子からは意外な一言を言われてしまった。

「そういうことなら正式に契約書を用意しよう」
「契約書…ですか?」
「ああ。これは元々ロキ陛下のアイデアを形にしたものだからな。こちらだけが一方的に儲けを受け取るのはおかしいだろう」

どうやら開発に至ったことを受けてこちらにも利益を回してくれる気らしい。

「いえ。あれはただの思い付きで言ったことですし、実際に改良をして下さったのはブルーグレイの技術者の方々でしょう?こちらは何もしていないので…」
「ロキ陛下。こういう時はこちらからの申し出が出た時点で有難く受け取っておくものだ」
「それは…」

はっきり言って過分に好意的な話だと思う。
本当にいいのだろうか?

「もちろんこれからも友好的に付き合っていきたいという気持ちが大きいから言ったんだがな」
「ですが…」
「ロキ陛下。俺はお前のその能力をこれでも認めているつもりだ。これからの期待も込めて、是非受け取ってほしい」

大国の王太子にそこまで言ってもらって断るというのも不敬になってしまうかと思い、俺は戸惑いながらもその好意を有難く受けさせてもらうことにした。

「セドリック王子。ありがとうございます」
「ああ」

独占しようと思えばいくらでもできるのにそうしないのは器の大きさなのだろうか?
流石ブルーグレイの王太子だなと感心しながら俺は早速レオナルド皇子を探して、まずはシャメルの話をしてみることにした。
レオナルド皇子は挙式時は王宮の外でワイバーンに乗り、各ワイバーン乗り達に指示を出して華やかに花を撒いてくれていたのだが、パーティーにはもちろん参加してくれている。
その顔は喜びでいっぱいと言った感じだ。

「ロキ陛下!本当におめでとう!」
「ありがとうございます」
「三ヵ国事業も順調だし、鉱山ホテルの方も目途が立ったからもうちょっとしたら着手する予定なんだ!完成したら是非見に来てほしい」
「そうですか」
「うん!あ…えっとセドリック王子。ご無沙汰しております。その…その節はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いや。例の鉱山は何やらロキ陛下と面白いことを考えているとか?」
「あ、はい!そうなんです。ちょっとマニアックなホテルにする予定なので、ご希望があれば是非セドリック王子も言ってみてください」
「ほぅ?ちなみにロキ陛下はどんな要望を?」
「俺ですか?牢屋風の部屋と温室風の部屋をお願いしました。兄と色々楽しんでみたくて…」
「なるほど。それはいいな。俺は声が響く教会風の部屋があれば嬉しいが…」
「もしかして気に入っていただけたのでしょうか?」
「ああ。あんな風に声が響くのは好みだ」
「そうですか。レオナルド皇子、天井を高くとって声を響かせるような造りは今からでも可能ですか?」
「え?ああ。それはできると…」
「じゃあセドリック王子が楽しめるようそういった部屋も一室頼めないですか?俺も是非利用したいので」

にこやかにそう提案するとレオナルド皇子の顔がパッと輝いて、早速設計してみると満面の笑みで請け負ってくれた。
本当に話が早くて助かる。
それからシャメルの話もして、そちらについても目を輝かせて是非利用したいということで話がまとまり、早速とばかりにシャメルの注文をしていた。
でも何故かその後すぐにレオナルド皇子から俺を称える言葉が出てきたので驚いてしまう。

「ロキ陛下の発想力は本当に素晴らしいな!これからもその素晴らしい発想力を生かして是非国を発展させていってほしい!俺もできる限り協力させてもらうから!」
「え…と、その、俺はそういうことにはあまり興味がなくて…」
「またまた~!そのやる気なさそうで凄いことをやるのがロキ陛下の持ち味だよね!」

そう言いながら今度はレトロンのハルネス公爵のところへと連れていかれ、そこにいたジョン氏とも話し、あっという間にシャメルを使って事業を効率的に行っていくことが決定する。

「いやはや、まさかブルーグレイからこう言った形で技術協力があるとは思ってもみませんでしたな」
「本当に。実に素晴らしい発明品です。これで実際に見なくても詳細がわかりやすくなりますし、計画を進めるのが非常にやりやすくなりました」
「いや。役立ててもらえそうでよかった。こちらもロキ陛下の案を使って改良した甲斐があったというものだ」
「なんと、ロキ陛下の?!それは素晴らしい。流石ロキ陛下ですな。これからのガヴァムは本当に楽しみでなりません」

にこやかに話は進み、周囲で耳を傾けてた者達も段々そわそわとし始める。
三ヵ国事業に新たに加わったブルーグレイの新製品だ。
気にならない方がおかしいだろう。

それからはそれらの話でその場は非常に盛り上がったのだった。
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