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49.国際会議㉞
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その後セドリック王子の元にアルフレッドが合流し、兄も少ししてからやってきた。
最初は物凄く気まずそうだったが、そこはガヴァムの貴族達が全く気にせず祝福の言葉を口にして上手く場に馴染ませてくれたのですぐにいつも通りの兄へと戻ってくれる。
「カリン王子!いや、王配となられましたし、ここはやはりカリン陛下でしょうか?ロキ陛下と並んで素晴らしい治世を行ってくださるのを楽しみにしておりますぞ!」
そんな風に言ってくれたのはフォルクスリーニアスのロッシュ卿だ。
クレメンツのサーディ卿も一緒にお祝いの言葉を紡いでくれた。
彼らからは実にためになる話をしてもらい、これからは二人力合わせて頑張ってほしいとも言ってもらえた。
ついでにレオナルド皇子のホテル計画の話を振るとそちらも目を輝かせてあれやこれやと盛り上がっていたので、三か国事業だけではなくきっと鉱山ホテルの方も成功することだろう。
これで忙しくなってガヴァムに来る機会が減ってくれるといいのだが…。
(レオナルド皇子と会うと疲れるのが難点だな…)
色々やってくれるのは有難いのだが、実は話していると結構疲れるのだ。
どちらかと言うとセドリック王子とのんびり話している方が落ち着く。
そんな事を考えながらトイレにとその場を離れた。
時刻はまだ5時過ぎ。
このままパーティーは夜遅くまで続く。
気楽なパーティーとは言え非常に長丁場だ。
そのため適度に寛げるようあちらこちらに休憩場所を設け、皆思い思いに過ごしてもらっている。
中にはこれを機に商談をと動き回っている者もいるし、パイプ作りに必死になっている者も多い。
特に今回の三か国事業関係では担当大臣は引っ張りだこだ。
そう言った意味ではレオナルド皇子もレトロンのハルネス公爵も非常に忙しそうではある。
俺だけが比較的そうなりにくいのは本日の主役だからに他ならないだろう。
言ってみればそればかりにかまけていたら他の祝い客達が近寄ってこれないので、皆が長々話さないよう気を遣ってくれているに過ぎない。
まあだからこそ、こうして抜け出しやすいとも言えるのだが。
「はぁ…疲れた」
用を済ませ、手を洗いながら小さく息を吐いてそう溢す。
元々人と深く付き合うなんてしてこなかったから、こうして四六時中笑みを浮かべ気を遣いながら話さなければならない状況は苦痛でしかなかった。
はっきり言って物凄く疲れる。
それこそ今すぐ部屋に戻るか、城から抜け出したいなとチラッと考えてしまうくらいには気疲れしていた。
だからだろうか?
異変に気付くのが遅れ、咄嗟に対応することができなかったのだ。
トスッ…。
後ろに気配を感じたと思った瞬間手刀を落とされ、こうして俺はあっという間に意識を失ってしまったのだった。
***
【Side.シャイナー】
ロキがパーティーから席を外した。
周囲は酒も入りお祝いムード一色で誰も彼も隙ばかり。
それはそうだろう。
こんなめでたい席で不穏な事を考える者はそうはいない。
だからこそ実行に移すなら今がチャンスだった。
あちらこちらに配備されている兵達は主に外部からの侵入者がいないかと厳しく外へと向けられている。
笑顔で酒を飲んでいる招待客にまで不審な目を向けようとする者は誰一人としていない。
これなら余程挙動不審な行動を起こさない限り目をつけられることはないだろう。
そう思ってグラスを手に休憩場所について尋ねると、あっさりと教えてもらうことができた。
休憩室を使うのは何も自分だけではない。
他の招待客達だって使っているし、別に何らおかしなことではないのだ。
だから俺は出来るだけ静かな場所を選んで部屋へと入った。
密かに暗部に指示を出しロキを拉致してくるよう伝えておいたから、上手くいけばここに連れてきてくれるだろう。
その後は適当に偽装し外へと運びだせばいい。
失敗したらその時はその時でいくらでも言い訳は出来る。
(早く手に入れたい)
そんな思いで待っていると、程なくして暗部がロキを抱えて連れてきた。
どうやら気を失わせることに成功したらしい。
「よくやった」
これなら下手にここに留め置かずすぐさま外へ連れ出すのが一番だろう。
ちょうど酔っ払って城の外の宿屋に戻る付き人などもチラホラ出てくる頃だ。
酔っ払った従者を装い外の宿屋へ帰るように見せかけて城外に出、馬車を用意してそのままアンシャンテへと連れていこう。
「ロキに従者の服を着せ、かつらを被せろ」
「はっ!」
「もう一人酔っ払いを装い、騎士三人で支える態で上手く抜け出せ」
「かしこまりました」
二人の騎士がロキを両側から支え、もう一人の騎士と酔っ払いを装った者が上手く演技をして外に連れ出してしまえば誰もそのうちの一人が国王だったとは気づかないだろう。
後は自分と側近さえこの場に留まれば疑いの目はこちらへは向けられない。
騒ぎにはなるだろうが、外へと連れ出したロキが見つかるわけはなく、招待客はそのまま軽く聞き取りだけ済まされて国へと帰されることだろう。
そうなれば後はもうこちらのものだ。
そうほくそ笑んで、俺は速やかにそれを実行に移すことにした。
***
【Side.リヒター】
「ロキ陛下がいない?」
祝いにかこつけて騒いでいる騎士がいるということでそちらへ駆けつけ騎士団長の元へ連行していると、ロキ陛下の姿がどこにもないらしいと報告を受けた。
これには俺だけでなく騎士団長も蒼白になる。
まさかとは思うが何かあったのではないかと思ったからだ。
けれど報告を入れてきた騎士はどこかのほほんとした様子で、いつものように息苦しくなって城を抜け出したのではと言い出した。
「きっといつものあれですよ」
親しい者に結婚報告をしに行きがてら飲んでくるんじゃないですか?と言ってくるが、はっきり言ってそれはあり得ない。
自国の者だけのお祝いならその可能性もなくはないが、今日は他国から沢山の国賓を迎えているのだ。
たとえ気疲れしていたとしても、ロキ陛下は最後まできちんとやり切るだろう。
何と言ってもブルーグレイからもセドリック王子が来ているのだ。
彼を苦手とするカリン王子を放って城を抜け出すとはとても考えられなかった。
「すぐにお探ししろ!」
その考えには騎士団長もすぐさま思い至ったようで、蒼白になりながら指示を出し始める。
「リヒター!お前はカリン王子に報告を入れて暗部を動かしてもらえ!」
「はい!」
その指示を聞いてすぐさまパーティー会場へと走るが、本当に報告を入れてきた騎士といい他の近衛といい、無能ばかりかと問いたくなる。
戴冠前に騎士団長自ら鍛え直し、性根を入れ替えさせたと言っていたが、肝心な時に役に立たないのであれば意味がないではないか。
せめてもっと騎士達の中にもロキ陛下の味方を沢山作っておくべきだったと苦々しい思いが込み上げてくる。
周囲の貴族達が好意的になり、敵がいないからと言って油断しすぎていたのは自分のミスだ。
暗部が一人常に護衛についてくれているというのもあり、気が緩んでいたのかもしれない。
(そうだ!暗部!)
あの男はどうしているのだろう?
ロキ陛下と一緒にいて守ってくれているとは思うが、万が一ということもなくはない。
何か今回の件の手掛かりを残してくれてはいないだろうか?
それも含めて早急に探らなければと俺はカリン王子の元へと急いだ。
最初は物凄く気まずそうだったが、そこはガヴァムの貴族達が全く気にせず祝福の言葉を口にして上手く場に馴染ませてくれたのですぐにいつも通りの兄へと戻ってくれる。
「カリン王子!いや、王配となられましたし、ここはやはりカリン陛下でしょうか?ロキ陛下と並んで素晴らしい治世を行ってくださるのを楽しみにしておりますぞ!」
そんな風に言ってくれたのはフォルクスリーニアスのロッシュ卿だ。
クレメンツのサーディ卿も一緒にお祝いの言葉を紡いでくれた。
彼らからは実にためになる話をしてもらい、これからは二人力合わせて頑張ってほしいとも言ってもらえた。
ついでにレオナルド皇子のホテル計画の話を振るとそちらも目を輝かせてあれやこれやと盛り上がっていたので、三か国事業だけではなくきっと鉱山ホテルの方も成功することだろう。
これで忙しくなってガヴァムに来る機会が減ってくれるといいのだが…。
(レオナルド皇子と会うと疲れるのが難点だな…)
色々やってくれるのは有難いのだが、実は話していると結構疲れるのだ。
どちらかと言うとセドリック王子とのんびり話している方が落ち着く。
そんな事を考えながらトイレにとその場を離れた。
時刻はまだ5時過ぎ。
このままパーティーは夜遅くまで続く。
気楽なパーティーとは言え非常に長丁場だ。
そのため適度に寛げるようあちらこちらに休憩場所を設け、皆思い思いに過ごしてもらっている。
中にはこれを機に商談をと動き回っている者もいるし、パイプ作りに必死になっている者も多い。
特に今回の三か国事業関係では担当大臣は引っ張りだこだ。
そう言った意味ではレオナルド皇子もレトロンのハルネス公爵も非常に忙しそうではある。
俺だけが比較的そうなりにくいのは本日の主役だからに他ならないだろう。
言ってみればそればかりにかまけていたら他の祝い客達が近寄ってこれないので、皆が長々話さないよう気を遣ってくれているに過ぎない。
まあだからこそ、こうして抜け出しやすいとも言えるのだが。
「はぁ…疲れた」
用を済ませ、手を洗いながら小さく息を吐いてそう溢す。
元々人と深く付き合うなんてしてこなかったから、こうして四六時中笑みを浮かべ気を遣いながら話さなければならない状況は苦痛でしかなかった。
はっきり言って物凄く疲れる。
それこそ今すぐ部屋に戻るか、城から抜け出したいなとチラッと考えてしまうくらいには気疲れしていた。
だからだろうか?
異変に気付くのが遅れ、咄嗟に対応することができなかったのだ。
トスッ…。
後ろに気配を感じたと思った瞬間手刀を落とされ、こうして俺はあっという間に意識を失ってしまったのだった。
***
【Side.シャイナー】
ロキがパーティーから席を外した。
周囲は酒も入りお祝いムード一色で誰も彼も隙ばかり。
それはそうだろう。
こんなめでたい席で不穏な事を考える者はそうはいない。
だからこそ実行に移すなら今がチャンスだった。
あちらこちらに配備されている兵達は主に外部からの侵入者がいないかと厳しく外へと向けられている。
笑顔で酒を飲んでいる招待客にまで不審な目を向けようとする者は誰一人としていない。
これなら余程挙動不審な行動を起こさない限り目をつけられることはないだろう。
そう思ってグラスを手に休憩場所について尋ねると、あっさりと教えてもらうことができた。
休憩室を使うのは何も自分だけではない。
他の招待客達だって使っているし、別に何らおかしなことではないのだ。
だから俺は出来るだけ静かな場所を選んで部屋へと入った。
密かに暗部に指示を出しロキを拉致してくるよう伝えておいたから、上手くいけばここに連れてきてくれるだろう。
その後は適当に偽装し外へと運びだせばいい。
失敗したらその時はその時でいくらでも言い訳は出来る。
(早く手に入れたい)
そんな思いで待っていると、程なくして暗部がロキを抱えて連れてきた。
どうやら気を失わせることに成功したらしい。
「よくやった」
これなら下手にここに留め置かずすぐさま外へ連れ出すのが一番だろう。
ちょうど酔っ払って城の外の宿屋に戻る付き人などもチラホラ出てくる頃だ。
酔っ払った従者を装い外の宿屋へ帰るように見せかけて城外に出、馬車を用意してそのままアンシャンテへと連れていこう。
「ロキに従者の服を着せ、かつらを被せろ」
「はっ!」
「もう一人酔っ払いを装い、騎士三人で支える態で上手く抜け出せ」
「かしこまりました」
二人の騎士がロキを両側から支え、もう一人の騎士と酔っ払いを装った者が上手く演技をして外に連れ出してしまえば誰もそのうちの一人が国王だったとは気づかないだろう。
後は自分と側近さえこの場に留まれば疑いの目はこちらへは向けられない。
騒ぎにはなるだろうが、外へと連れ出したロキが見つかるわけはなく、招待客はそのまま軽く聞き取りだけ済まされて国へと帰されることだろう。
そうなれば後はもうこちらのものだ。
そうほくそ笑んで、俺は速やかにそれを実行に移すことにした。
***
【Side.リヒター】
「ロキ陛下がいない?」
祝いにかこつけて騒いでいる騎士がいるということでそちらへ駆けつけ騎士団長の元へ連行していると、ロキ陛下の姿がどこにもないらしいと報告を受けた。
これには俺だけでなく騎士団長も蒼白になる。
まさかとは思うが何かあったのではないかと思ったからだ。
けれど報告を入れてきた騎士はどこかのほほんとした様子で、いつものように息苦しくなって城を抜け出したのではと言い出した。
「きっといつものあれですよ」
親しい者に結婚報告をしに行きがてら飲んでくるんじゃないですか?と言ってくるが、はっきり言ってそれはあり得ない。
自国の者だけのお祝いならその可能性もなくはないが、今日は他国から沢山の国賓を迎えているのだ。
たとえ気疲れしていたとしても、ロキ陛下は最後まできちんとやり切るだろう。
何と言ってもブルーグレイからもセドリック王子が来ているのだ。
彼を苦手とするカリン王子を放って城を抜け出すとはとても考えられなかった。
「すぐにお探ししろ!」
その考えには騎士団長もすぐさま思い至ったようで、蒼白になりながら指示を出し始める。
「リヒター!お前はカリン王子に報告を入れて暗部を動かしてもらえ!」
「はい!」
その指示を聞いてすぐさまパーティー会場へと走るが、本当に報告を入れてきた騎士といい他の近衛といい、無能ばかりかと問いたくなる。
戴冠前に騎士団長自ら鍛え直し、性根を入れ替えさせたと言っていたが、肝心な時に役に立たないのであれば意味がないではないか。
せめてもっと騎士達の中にもロキ陛下の味方を沢山作っておくべきだったと苦々しい思いが込み上げてくる。
周囲の貴族達が好意的になり、敵がいないからと言って油断しすぎていたのは自分のミスだ。
暗部が一人常に護衛についてくれているというのもあり、気が緩んでいたのかもしれない。
(そうだ!暗部!)
あの男はどうしているのだろう?
ロキ陛下と一緒にいて守ってくれているとは思うが、万が一ということもなくはない。
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