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Ⅱ.セカンド・コンタクト

10.そう言えば約束…してた。

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その日はいつも通りの日常で、いつものように起きていつものように学校に行った。

「優次!おはよ!」

親友兼幼馴染の今西和也が元気に声を掛けてきたから俺も笑顔で朝の挨拶を返す。
こいつはオタクだから異世界ものとかの話も大好きなので先日の件は冗談めかして少しだけ話しておいた。
まあ当然と言えば当然だけど全く信じてなくて、白昼夢でも見たんだろって流されたけど────。
それでも『もし異世界に行ったら』という話でちょっとだけ盛り上がった。
そんな和也と一緒に廊下を歩いていると、前から隣の席の安田亮が手を振りながらやってくるのが見えた。

「あ、江本!ちょうどよかった!今日の放課後空いてないか?」
「何?」
「姉ちゃんが部活に顔出してほしいってさ」
「ええ~…」

安田の姉ちゃんは手芸部に所属している顔見知りだ。
以前たまたま放課後に家庭科室の横を通りかかった時に中から怒鳴り声と泣き声が聞こえてきたから何事だと思って覗いたら、女子がなんだか揉めているのが見えて、気になって話を聞いてみたらミシンの件だったから俺が間に入って解決したということがあった。
以前母さんが『布が噛んで取れない~!引っ張ったら壊れそう!助けて~!』って俺に何とかしてほしいと言ってきた時に説明書とか見て解決したことがあって、そんな経験が生かされた形だ。
その時泣いてたのが安田の姉ちゃんだったんだけど…それ以来何故か時たま頼られるようになった。
曰く例の怒鳴っていた気の強い先輩の説明は諸々わかりにくい上に困った時に質問したらキレられるから聞く気になれないのだとか。
でも先輩の方も実は不器用な人で、説明下手なのはわかってるけど上手く説明できなくて『自分に』ぶちギレているようでなんとも傍から見たら可哀想な人だったりする。
本来なら部活内で解決すればいいだけの話なんだけど、他の人達は日和見主義と言うかおとなしい人たちばかりで間に入ってくれる人がいない。
そこで幽霊部員としてでいいから籍を置いて、仲裁に入るかアドバイスをしに来て欲しいとお願いされた次第だ。
だから俺はこれでも一応手芸部員。
大物を縫いたい時は広い台を使ってミシン掛けができるから便利と言えば便利。
母さんがカーテンのサイズを間違って買って来た時も手芸部に持ち込んでザクザク切って丈を短く縫い直したのはいい思い出だ。
あれは非常に助かった。

とは言えわざわざの呼び出しということは何となく嫌な予感がする。
何かトラブルだったらどうしよう…。
そんな風にちょっと気が重くて渋っていたら安田が目の前で手を合わせて頼むと声を上げた。

「この通り!五分!五分でいいから放課後部室に顔を出してやってくれ!」

その言葉にまあ五分ならいいかと思ってOKの返事をしたところで、いきなりあの日のように白い光に包まれるのを感じた。

(え?えええっ?!)

こ、これはまさか?!

周囲を見ても誰もこの光には気づいていないようだが、これはまず間違いなく召喚の光なのではないだろうか?

そう考えて焦っているうちに俺は気づけばまたあの魔術師の前へと召喚されてしまっていた。


***


「ユウジ、ようこそ!アレファンドラへ!」

ニコニコと前回と変わらぬ笑みで自分を迎えてくれた魔術師に、俺はうんざりした顔で無駄だと思いつつも尋ねてみる。

「あの~…どうしてまた俺を?」

折角無事に戻れて日常を満喫していたというのに、他の人じゃダメだったんだろうか?
本音を言うともう第一王子やエレンドスとは会いたくないのだが…。
そう思いながら見遣ると、魔術師の人は笑顔で説明してくれた。

「申し訳ありません。実はラフィンシア王子が貴方と出掛ける約束をなさったと仰いまして、私の都合のいい時でいいから時間のある時にまた貴方を呼んで欲しいと」

俺はその言葉に脱力した。

(確かにあの別れ際、俺ラフィと思いっきり約束してた────!)

これでは何も文句を言えない…。
あの時はラフィが名残を惜しんでああ言ってくれたと思い込んでたけど、きっとラフィは友達との約束を守ろうとしてくれたんだろう。
だからこそ王子権限を駆使して魔術師に頼んでくれたに違いない。

「……あの、俺が軽率にラフィと約束したせいでご迷惑をお掛けしてすみません」

今回は仕方がないけど今度から気をつけますと言うと、魔術師の人は何でもないことのようにサラッと答えてくれる。

「ああ、大丈夫ですよ。あの方の我儘は今に始まったことではありませんので」

そうは言っても第一王子のようにバカ王子とか言われたら可哀想じゃないか。
あんなに気が利いて優しいラフィが皆から我儘王子とか思われてしまったら大変だと口にしたのに、魔術師はどこか楽し気に「今更ですよ。お人好しな貴方の友情に拍手!」と笑っていた。
こんなにフレンドリーと言うことはもしかしたらこの人はラフィとそれなりに親しいのかもしれない。
それならそれでいいかと思いながら俺は諦めるように溜息を吐き、肝心のラフィの居場所を尋ねることにした。

「それで…あの、ラフィは?」
「ええ。もうすぐ来ると思いますよ?」

そう言うと魔術師は部屋の出入り口の扉を指さし、ほらねと言った。
それと同時に勢いよくこちらへと駆けてくる音が聞こえ、すぐさま扉が勢いよく開かれる。
顔を出したのは勿論ラフィで────。

「エマーリン!ユウジは?!」

そしてこちらの姿を確認するとともに満面の笑みを浮かべて俺の名を呼んだ。

「ユウジ!」

嬉しそうに駆け寄ってくるラフィを流石に邪険にはできないし、俺は困ったように笑いながらラフィに挨拶する。
そう言えば俺からすると前回の召喚から一週間も経ってない感覚なんだけど、こちらではどうなってるんだろうか?
五分が五日という換算なら物凄く時間が経っていることになるのではとないかと思い立って、固まってしまう。
けれどこの二人を見る限り特に前回と変わった様子はないから不思議に思った。
もしかしてエルフ的な感じで成長がゆっくりな感じなのだろうか?

そんな疑問に答えてくれるのは当然魔術師(どうやらエマーリンという名前らしい)だ。
曰く、召喚時は確かに五分が五日らしいのだが、それは召喚魔法の影響でそうなってしまうだけで、本来時間の流れは同じなのだそうだ。
だからあちらで五日経っているならこちらでも五日と言うことらしい。

それを聞いて俺はホッとする。
流石に物凄くラフィを待たせてしまったのなら申し訳ないと思ったからだ。

何はともあれ再度やってきてしまった異世界で、俺はまた五日間を過ごすことになった。
けれど今回は以前のような憂いはない。
なんてったってちゃんと元の世界に戻れることもわかっているし、呼び出した相手もエレンドスではなくラフィだってわかっているから。
しかも以前のラフィの言葉通りなら今回の行先は王宮内ではなく街なのだ。
気楽なものだ。

「楽しみだな!」

そう言って笑ったラフィに「また五日間宜しく!」と俺も笑顔で応えた。




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