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【続編】
16:それよりも怪我は?
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衝撃で血の気が引く。
心臓が嫌な鼓動を響かせている。
「今、相方が確認していますが……」
すぐに馬車を降り、もう一人の御者の元へ向かう。
御者は確かに横たわる少女に声をかけていた。
「怪我は? どこか怪我をしているの?」
私の声に御者が慌てて振り返る。
「パ、パトリシアさま……! 申し訳ございません。急に飛び出してきたので、避けきれなく」
「それよりも怪我は?」
そのまま少女に歩み寄ると。
ぐったりしているが意識はある。
泣いたりもせず、虚ろな瞳でこちらを見ていた。
ざっと見る限り、擦り傷程度で激しい出血など見られない。
「怖い思いをしたわね。どこか痛いところはある?」
尋ねながらしゃがみ、擦り傷に手を当て魔法を唱える。
アズレークの屋敷には、魔法を練習できる部屋があった。そこにはアズレークの魔法が何重にも施されており、火や水を使おうが、爆発や爆風を起こそうが、破壊されることはない。その部屋で毎日のように特訓していた魔法。それは回復系の魔法だった。
私が魔法を使えるかもしれない、と気付けたのは、徹夜の舞踏会で疲れ切ったアルベルトや三騎士を癒したいと思ったのがきっかけだった。だからということもあり、傷や病気の治癒に役立つ魔法を積極的に覚えるようにしていた。
ということで見える範囲の傷は魔法で癒すことができている。
人通りの多い道ではなかったのが幸いだ。
野次馬は現れず、落ち着いて対処ができた。
「目で見える傷は癒すことができたけど……。骨折やヒビが入った場所があるかもしれないわ」
「素晴らしい腕前ですね。魔法で怪我を癒せるなんて」
突然声をかけられ、驚いて振り返ると。
シルクハットを被り、手にはステッキ。片眼鏡をかけ、黒のテールコート姿の美貌の男性が立っていた。珍しい白藤色の髪に、白金色の瞳をしている。
「突然、声をかけてしまい、申し訳ありません。わたしはこの近くで開業医をしているロレンソと申します。よろしければ私の診療所に運び、外傷以外の怪我がないか、確認しましょうか」
「まあ、医師の方だったのですね。ぜひお願いしてもいいですか?」
「勿論です。あなたも一緒についてこられますか?」
「はい。私が乗っている馬車が起こした事故ですので」
するとロレンソは不思議そうに私を見て笑顔になった。
今、笑う場面?と思った私は。
少し不快そうな表情になってしまったのだろう。
それに気づいたロレンソが慌てて謝罪の言葉を口にした。
「失礼しました。どう見ても上流貴族の方なのに、優しい心をお持ちだと、感動し、嬉しくなってしまったのです」
心臓が嫌な鼓動を響かせている。
「今、相方が確認していますが……」
すぐに馬車を降り、もう一人の御者の元へ向かう。
御者は確かに横たわる少女に声をかけていた。
「怪我は? どこか怪我をしているの?」
私の声に御者が慌てて振り返る。
「パ、パトリシアさま……! 申し訳ございません。急に飛び出してきたので、避けきれなく」
「それよりも怪我は?」
そのまま少女に歩み寄ると。
ぐったりしているが意識はある。
泣いたりもせず、虚ろな瞳でこちらを見ていた。
ざっと見る限り、擦り傷程度で激しい出血など見られない。
「怖い思いをしたわね。どこか痛いところはある?」
尋ねながらしゃがみ、擦り傷に手を当て魔法を唱える。
アズレークの屋敷には、魔法を練習できる部屋があった。そこにはアズレークの魔法が何重にも施されており、火や水を使おうが、爆発や爆風を起こそうが、破壊されることはない。その部屋で毎日のように特訓していた魔法。それは回復系の魔法だった。
私が魔法を使えるかもしれない、と気付けたのは、徹夜の舞踏会で疲れ切ったアルベルトや三騎士を癒したいと思ったのがきっかけだった。だからということもあり、傷や病気の治癒に役立つ魔法を積極的に覚えるようにしていた。
ということで見える範囲の傷は魔法で癒すことができている。
人通りの多い道ではなかったのが幸いだ。
野次馬は現れず、落ち着いて対処ができた。
「目で見える傷は癒すことができたけど……。骨折やヒビが入った場所があるかもしれないわ」
「素晴らしい腕前ですね。魔法で怪我を癒せるなんて」
突然声をかけられ、驚いて振り返ると。
シルクハットを被り、手にはステッキ。片眼鏡をかけ、黒のテールコート姿の美貌の男性が立っていた。珍しい白藤色の髪に、白金色の瞳をしている。
「突然、声をかけてしまい、申し訳ありません。わたしはこの近くで開業医をしているロレンソと申します。よろしければ私の診療所に運び、外傷以外の怪我がないか、確認しましょうか」
「まあ、医師の方だったのですね。ぜひお願いしてもいいですか?」
「勿論です。あなたも一緒についてこられますか?」
「はい。私が乗っている馬車が起こした事故ですので」
するとロレンソは不思議そうに私を見て笑顔になった。
今、笑う場面?と思った私は。
少し不快そうな表情になってしまったのだろう。
それに気づいたロレンソが慌てて謝罪の言葉を口にした。
「失礼しました。どう見ても上流貴族の方なのに、優しい心をお持ちだと、感動し、嬉しくなってしまったのです」
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